第215話 神様、もう少しだけ……
「うん、巫女エルフー」
「――ってなに?」
「エルフ村ではおーさまのお世話をする女の子なんだー」
「エルフ村……つまり君はエルフ! うわすごい、初めて見た! さすがエルフ、尋常じゃなく可愛いな!」
「ありがとー、はおーさまー。それでね、巫女エルフは昔のはおーさまが作ったしきたりなんだよー」
「『はおーさま』って《神滅覇王》のこと、だよな?」
「そーだよー。はおーさまが、今のはおーさまだよねー? クレアははおーさまの巫女エルフだから力の余韻? みたいなのがバッチシわかるんだー」
「それは実に素晴らしいしきたりだな、恐れ入ったよ……っていやいやだからその前に確認しないといけないことがあるだろ俺!」
人間、魅力的すぎる条件を出されると一周回って引いてしまうからか。
俺はビッグバンおっぱいフリーパスチケットの誘惑をさらりと断ち切ってみせると、
「実は全然覚えてないんだけどさ。多分、俺のことを助けてくれたんだよな?」
「そーだよー。はおーさまの巫女エルフだからねー」
「その時にさ、近くに幼女が2人いなかったかな? ハヅキとトワって名前なんだけど。すごく大事な子たちでさ」
「んーと、その子たちならさっきお外でお花を見てたよー? そこの窓から見えるんじゃないかなー」
その言葉を聞いた俺は、右手で抱きかかえちゃってたビッグバンおっぱいな巫女エルフちゃんからこれ幸いと離れると、窓へと駆け寄った。
「ほっ、無事だったか……元気そうだし良かった……」
窓から見える2人は、並んでしゃがみこんで花壇のお花を愛でていた。
お姉さん風を吹かせるハヅキがなにやら指差して、それにトワがふんふん頷いている。
「尊いな、うん、尊いよ。仲睦まじい幼女たちの姿に、俺の心もきれいさっぱり洗われるようだ……」
俺は何年にもわたる赤貧を乗り越えて信奉する神の奇跡を目にした敬虔な信者のように、胸が熱い想いに満たされるのを感じていた。
「じゃあ続きしよっかー」
「続き?」
直後、
ぴとっ!
背中に柔らかいものが押し付けられる。
「っ!? な、なにを――」
「おっぱい触るんでしょー、はおーさまならいいよー」
巫女エルフちゃんからそんな言葉がですね、かけられたわけですよ?
「……ご、ごくり」
俺は3学期の席替えで学園のアイドルの隣席になって義理チョコを貰った冴えない男子のように、股間が熱い想いに満たされるのを感じていた。
な、なんだよこのいきなりの展開。
素敵すぎるだろ……常識的に考えて!
しかもハヅキとトワの無事を確認してホッとした途端に、この背中に押し当てられた激しく自己主張する逸品にですね、意識がぐいぐい引っ張られてしまうわけですよ……!
「くっ、だめだ、ちゃんと2人に俺が目覚めたことを伝えてあげないと……!」
「それならだいじょーぶだよー。疲れて寝てるだけだってちゃんと言ってあるしー」
「そ、そうか……そうなのか……ならいいかな? うん……いいよね!」
そういうことなら話は早い!
この素敵すぎるおっぱいを、押し付けられた背中の感触だけで済ますという選択がありえようか?
もはやそれは巫女エルフちゃんのご奉仕精神&このような芸術の極致っぱいを創造なされた神に対する冒涜ではないだろうか?
事ここに至っては、漢・麻奈志漏誠也、ビッグバンの謎に正面から立ち向かう所存であります――!
いくぞ――と振り返りかけたまさにその瞬間だった。
「あ、2人がこっちに気付いたみたい! おーい! やっほー!」
「ぇ……?」
間抜けな声を上げた俺を尻目に、巫女エルフちゃんの声につられるようにして、2人の幼女が一目散に俺の方へと走り寄ってきて――、
「まなしー! おきた! よかった!」
「元気そうでなによりです」
とても2人らしい言い方で、俺の目覚めを喜んでくれたのだった。
それはとってもとっても嬉しかったんだけれど――、
「くっ、神様、もう少しだけ……もう少しだけこの至福の時間を過ごさせてほしかった……」
俺は全員無事だったことに大きな喜びを感じるとともに、据え膳が手を付ける前に下げられたことに、心の中でほろりと一筋、涙したのだった……。