第212話 ウヅキと《神焉竜》
「もう夜になったのに、森に行ったセーヤさんたち帰ってきませんね……」
「ふむ、奥方殿は主様やハヅキ、トワのことが心配なのじゃな?」
「あ、いえ、その、心配というほどのものではないんです。セーヤさんがついていますし。ただ、ご飯も冷めちゃうし、2人で作ったわらび餅(サツマイモ餅)も固くなっちゃうなーって」
「うむうむ、確かにご飯が冷めるのもわらび餅が固くなるのも、これは実に良くないのじゃ。よし、では妾が『真なる龍眼』でもって主様たちを遠見してみるのじゃ。それくらいちょちょいと一発、朝飯前なのじゃ……いや時間的に晩飯前かの?」
「ありがとうございます。でもそれはセーヤさんのプライバシーもありますし、気持ちは嬉しいんですけど、今回は遠慮しておきますね」
「おお、さすが奥方殿は優しいのじゃ。浮気調査や素行調査にも最適なこの力、その気になればいかようにも使い道があるというのに。……いや、これも信じあう2人故になせるわざといったところか。妾は少し妬けてしまうのじゃよ」
「あはは、そんな凄いものじゃないですよ」
「そうやって謙遜する姿も、実に奥ゆかしくて素敵なのじゃ」
「ありがとうございます。じゃ、もう少しだけ待ってみて、それでも帰ってこなかったら先に晩ご飯をいただいちゃいましょう」
「まぁなに、どこかで少々道草を食っておるのじゃろう。主様に限っては、心配のしの字もいらんのじゃ。なにせ最強の名をほしいままにする妾にも勝ったのじゃから、わざと負けようとしたって負けるどころかピンチになることすら、まずないのじゃ」
「そうですよね! セーヤさんはほんとうに、すっごくすっごく強いんですもんね!」
「うむうむ、良い笑顔じゃの。憂いに心を曇らせる顔もなかなかどうして悪くはないのじゃが、奥方殿はやはり笑っている方が素敵じゃの。まったくこんな理想的な奥方殿に愛され尽くされるなどと、主様ときたらほんに幸せ者じゃのぅ」
「もう、そんなに褒めたってなにも出ないんですからね? ……あ、そうだ。ちょっと待っててくださいね。昨日サーシャが来たときに金平糖をお土産に持ってきてくれたんです」
「こんぺいとー?」
「小さくて綺麗な色のついた砂糖菓子です。長期保存ができるので取っておいたんですけど、今から食べちゃいましょう。甘くておいしいだけでなく、宝石や夜空の星に例えられるくらいに綺麗なので、きっと気に入りますよ」
「おお、なんと!! さすがは奥方殿、その懐の深さときたらこれはもう世界一なのじゃ!」
「ふふっ、みんなには内緒ですよ? わたしたち2人だけの秘密です」
「内緒なのじゃ、約束するのじゃ! 妾たち2人だけのこんぺいとーなのじゃ!」