第203話 ATフィールド
「ありえません! 《天岩戸》はカウンターチートです! そのデバフ効果を単なる力押しで跳ねのけたというのですか!?」
「『単なる』じゃねぇよ。お前はハヅキを傷つけようとした。それが俺の心に――《神滅覇王》の心に火をつけたのさ!」
「なんて滅茶苦茶で非論理的な! くっ、ですが何をしようとしているのかは知りませんが、させません! 荷電粒子砲!」
――リーン――
鈴の音とともに放たれた熱線はしかし、
「そんな――!?」
俺の周囲数メートルのところで、急激に減衰して大気にかき消えていった。
「ふぅ、どうにかギリギリで間に合ったみたいだな。ったく冷や冷やさせやがって。っていうかおい《草薙の剣》、今の狙いすましたようなタイミングは、おまえ絶対にわざとやっただろ……」
そう言う俺の周囲には、俺とハヅキを守るようにして三角錐の形をした黄金のバリアが形成されていた。
「防御フィールド!? ですが《天岩戸》をはねのけるために力の大半を割いているせいで、今のあなたは全力には程遠いはず……! 荷電粒子砲を受け止められるはずは――」
「これはただの防御フィールドじゃない。《ヤマタノオロチ》が《天照》の力を使って作り上げた、荷電粒子砲を無効化する絶対の領域だ! 言うなれば――『ATフィールド』だ!!」
「絶対領域ATフィールド……!? そんなものが……!? くっ、荷電粒子砲ツインドライヴ!」
――リーン――
――リーン――
またもや鈴の音とともに放たれた、左右2つの必滅の粒子砲はしかし、
「無駄だ――!」
ATフィールドに触れた途端にどちらも一瞬で減衰し霧散していった。
「そん、な……ありえません……!」
トワ=《スサノオ》の声が驚愕に震える。
「トワ、お前の敗因を教えてやる。それは人の心の強さを見誤ったことだ」
「人の心の強さ……?」
「さっきハヅキのことを無力な一般人だって言ったよな? でもそのハヅキのおかげでこれがあるんだ。命を賭して俺を守ろうとしたハヅキの想いが、このATフィールドに繋がったんだ!」
「そんなものは、そんなものはただの結果論です!」
「もちろんそうさ? 否定はしない。でもな、この結果を引き寄せたのが人の想いだ! 俺のために行動したハヅキの想いが起こした、人の想いが生んだ奇跡なんだよ! 結果論だろうがなんだろうが関係ない!」
「人の想いの生んだ奇跡――」
「そして人の想いが顕現させる《神滅覇王》は常勝不敗の最強チート。最後に勝つのは常に《神滅覇王》たるこの俺だ――!」
「人の想い……それが《神滅覇王》……。でもその傲慢さが最後には人を滅ぼすのです……なぜそれが分からないのですか……」
「わからないさ。後のことなんて考えずに、目の前の大切なものを守りたいと思うのが人間だろ? だから俺は今からトワ、お前を助ける。俺とハヅキにとってとても大切なお前を、今から俺が助けてみせる! だからハヅキ、向こうでちょっと待っててくれな」
「うん!」
ハヅキを退避させた俺は、黄金の残滓だけを残す神速の踏込でもって瞬時にトワ=《スサノオ》の懐へと飛び込むと――、
「トワ、お前が言ったんだぜ? 自分は他のSS級には到底かなわないってな」
今度こそ、その無敵なる黄金の一太刀を叩きつけた――!