第199話 《天岩戸》ーアマノイワトー
「この異様なまでの暴力的な波動……! 過去のデータと照合しました。本当に、あなたは本当に《神滅覇王》だったのですね――」
「どうした? やっぱりビビったのか? 戦うのをやめて帰っておままごとをしたくなったんなら、俺はいつだって大歓迎だぜ?」
俺は一縷の望みをかけて聞いてみたんだけれど――、
「残念ながら、私にあなたを恐れる理由はありません。あなたでは私に絶対に勝てないのですから」
「そうか……ここまで言ってわかんないってんなら。トワ、少し遊んでやる――! SS級神剣《草薙の剣》、『固有神聖』《ヤマタノオロチ》発動! よみがえれ、神竜より生まれし滅びと再生の剣よ――!」
荷電粒子砲によって半ばから先が消失させられた神なる剣が、膨大な黄金の力を吸い込むことで復活・再生し、その真なる姿を解放する――!
その蘇った美しい黄金の刀を握り――、
「いくぞ――」
『固有神性』天照から供給される膨大な黄金の力をまとった俺は、
「お前が荷電粒子砲を撃つよりも――」
神速の踏み込みでもって、ゼロ距離まで一瞬にして詰め寄ると、
「俺が一太刀入れる方が何倍も速いんだぜ?」
正面からトワ=《スサノオ》へ切りつけた――!
その神をも滅する覇王の絶大なる一撃は――しかし、
ガキャーーンッ!
「なん……だと……?」
ブレードモードに戻した大剣によって、トワ=《スサノオ》にガッチリと受け止められていた。
「ばかな――」
思わず俺の口からこぼれ出た驚愕の言葉。
この一度の攻防だけで俺がこうまで驚いたのにはわけがあった。
それは《神滅覇王》の攻撃が受け止められたからじゃあない。
いやそれもなくはないんだけど――、
「《天照》の出力が上がらない……!?」
無限のごとき最強不敗の《神滅覇王》の力が、たった一度踏み込んだだけで、急にガス欠したみたいにスッカラカンになったからだ。
「いや、これはそんな上辺だけの話じゃない――もっとなにか根本的なところで――」
ガソリンを入れればすぐに復旧するガス欠とは違って、
「まるで《天照》ってエンジンそのものに、致命的な不具合が出ているような――」
「気づきましたか。『固有神性』《天岩戸》を発動しました。そしてこれが――いいえこれこそが! 荷電粒子砲をも超える、《スサノオ》に搭載された真の切り札なのですよ!」
トワ=《スサノオ》が大剣を強引に振り抜いた――!
「くっ――!」
堪えきれずに腰が浮いて跳ね飛ばされてしまうものの、俺は空中でバランスをコントロールしてふわりと着地してみせる。
「やれやれ器用なものですね。やはり《天岩戸》を発動していても、接近戦は避けた方がよさそうです」
言いながらトワ=《スサノオ》は大剣を、再び荷電粒子砲モードへと移行させた。
「アマノ、イワト――?」
なんか聞き覚えがある語感だな……?
「ああ、そうか……!」
俺はとあることに気が付いた。
「つまり最初にトワが思い出した『……マノ……ワト』って謎の言葉は、『アマノイワト』の一部だったってわけか!」
かゆいところに手が届いたというか、頭の隅っこにずっとあった小さなもやもやが予期せず晴れて、ちょっとスッキリした気分の俺だった。
「さすがは《神滅覇王》。この状況にありながら、底抜けの余裕っぷりですね」
「実のところそうでもないんだけどな? お前がなにかしたせいで、まったく調子が出ないからさ」
既に《天照》はほとんど動作を止めてしまっていた。
「《天岩戸》――だったか? どうもそいつが《天照》に悪さしてるみたいだな?」
「そうですね。なにも知らずに死ぬのは心残りでしょう。仮人格の面倒を見てくれたお礼に、少しだけ教えてあげます」
言って臨戦態勢だったトワが構えを少し緩めた。
「《天岩戸》は、《天照》と同じく世界の根源にアクセスする究極の力なのですよ」
「《天照》と同種の力……!?」
「その解釈は厳密には違います。《天岩戸》は《天照》を封じることに特化した、特殊なカウンターチートですから。今まさにあなたの身に起こっている不具合を引き起こすためだけの力なのですよ」
「そうか、だからか――」
《神滅覇王》の力の源である《天照》を無効化できるから、だからトワ=《スサノオ》はあれだけ自信満々だったんだ――!
「無尽蔵の力を生み出す万能の《天照》と違って、《天岩戸》は単体ではさほど強力な力ではありません。ですが、この両者のみで戦った場合は――《天岩戸》に敗北はありえません――!」
トワ=《スサノオ》が再び荷電粒子砲を構えなおした。
「話はこれで終わりです。今からあなたを――《神滅覇王》を処分します。抵抗は苦しみを増すだけですのでお勧めはしません」
「へっ、ハヅキがお前を連れ戻すのを待ってるんだ。抵抗するに決まってんだろ。俺を処分? できるもんなら、やってみろ――!」
俺はこれでもかと気合を込めると、まだどうにか力を保ってくれている《草薙の剣》をしっかと握りなおした。