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第184話 マノ……ワト……

 どうにかエルフとの全面戦争を回避できた俺たち。

 なんかもうどうしようもない領土問題ともども、今後の課題として全部棚上げするとして、


「残る一番の問題は、この眠ったままの女の子をどうするかってことだけど――」

 おかしいな、いつの間にかぐるっと回ってまたスタートラインに戻ってきてるんだけど……。


 と――、

「あ、おきた」


 女の子の顔をじっと覗き込んでいたハヅキがぱぁっと声を上げた。

 つられて見ると、眠り姫が目を開いてぼんやりとハヅキの顔を見上げていた。


「――目が覚めたのか!」

 俺たちはこぞって枕元へと集まると、ハヅキと一緒に覗き込む。


「うにゅ、おはよう」

「おはよう、ございます――」


 しゃべった!

 幼女がしゃべったぞ!

 ……ああ良かった、一生起きなかったらどうしようって思ってたんだよ。


 なにより最初から言葉がちゃんと通じているこの安心感。

 この子はSS級とかじゃない、いたって普通の女の子だ……!


「良かった、ほんと良かったよ……」

 今度は苦労したり戦ったりしなくて済むんだ。

 2度あることは、しかし3度はなかったのだ……!


「ここ、は――」

 少女は不安げな表情とともに上体を起こすと、右に左にと周りを見やった。


「森で倒れてたんだってさ。それで《神焉竜(しんえんりゅう)》とハヅキが――この子が見つけてここに運び込んだんだよ」

 ほっとした俺は穏やかな気分のまま、皆を代表して会話を試みる。


「森で、倒れて――」

「ああ。それでさ、君――そういえば名前はなんて言うのかな? お母さんやお父さんとははぐれちゃったの?」


 身元の特定に必要な情報をさりげなく聞き出そうとした俺に、しかし返ってきたのは――、


「名前……? お母さん……? お父さん……? わからない……、自分は誰……?」

「え……っ?」


 それはまったく予期せぬ答えで――。


「自分は、どうして森に……? 名前はなに? 自分は誰……? だめ、思い出せない――」

 必死に思い出そうとするも思い出せなくて、頭を押さえて顔をしかめる幼女。


 そう、森で拾った幼女は――、


「セーヤさん、もしかしてこの子――」

「ふむ、どうやら記憶喪失のようじゃの」


 と、いうことだったのだ!

 な、なんだってーー!?


 一難去ってまた一難。

 この世界はまだ、俺に安息の日を与えてはくれないようだった。


 ――なんて嘆いているばかりでは何も始まらない。


「うーん、それはすごく不安だろうな。じゃあなんでもいいから、なにか思い出せることはないかな? 好きな食べ物とか動物さんとか、思いついたことなんでもいいぞー?」


 俺は怯えさせないようにと、できるだけ優しく聞いてみたんだけれど、


「……」

 なぜか無言でハヅキの陰に隠れてしまった女の子。

「うにゅ?」


 うぐっ、小さな子に露骨に避けられるとちょっと心にグサリとくるね……。


「ふむ、これはいわゆるインプリンティングじゃの」

「インプリン――なんだって? なんか美味しそうな響きだな」


「インプリンティング、刷り込みのことです。多分ですけど、起きて最初に見たハヅキのことを母親のように思って懐いているのではないかと」

「あ、はい……」


 そっとさりげなくウヅキが解説してくれた。

 相変わらず気が利く女の子だった。

 アホ丸出しの俺には遺伝子レベルでなくてはならない存在だと思うね、うん。


「でもさっきまでは、普通に俺と会話してたのに……」

「記憶喪失なことを認識しちゃったせいで、不安が大きくなっちゃったんだと思います……」

 心配げに言うウヅキ。


「そっか……。じゃあさ、ハヅキには懐いているみたいだからハヅキから聞いてみてくれないかな?」

「うにゅ、まなしー、まかせて。なにか、しってること、おしえて?」


「知ってること……」

「なんでも、いい」


 記憶喪失の少女は、少し考えると――、


「……、…………。マノ……ワト……」

 短い単語を2つ呟いたのだった――。

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