第182話 王たるもの、相応の領地というものが必要なのじゃ
「なにせ南方大森林の東側1/3は既に主様の領地となったからの」
そうドヤ顔で報告してくる《神焉竜》と、
「……うん?」
いまいち要領を得ない俺。
要領を得ないというか、領地ってどゆこと?
「じゃから主様の庇護する妹君に、主様の領地で手を出そうなどという不埒者などは最早おらぬというわけじゃ」
「……はい?」
さっきからなに言ってんの……?
「ほれ、妾は今日は朝からずっと留守にしておったじゃろう?」
「ああ。朝ごはん食べたらすぐにどこかに出かけてたよな」
「実はの主様の名代として妾が南方大森林の東側一帯を切り取ってきたのじゃよ」
「きりとって、きた……?」
《神焉竜》さん、あなたは本当にさっきからなにを言っているの……?
「これで南方大森林の実に1/3が主様の物ということじゃ。あっぱれなのじゃ」
「超ドヤ顔ってるところ、ほんとごめん。でも言わせてもらっていいかな? おまえは何を言っているんだ?」
ちょっと真顔になってしまった俺である。
「いやのぅ、妹君から森で遊べないという話を聞いてのぅ」
「ちょっと前に妖魔の群れが出たからな。もうしばらくは様子見で、あまり森には入らないようになって……」
「だから妾が出ていって生意気なチンピラどもをシメてきてやったのじゃ。で、どうせならとそのついでに森の住人どもに話を付けて、主様への永遠の忠誠を誓わせてきたというわけなのじゃ」
「全然ちっともついでじゃねぇよ!? なに昼メシをカツ丼にするか天丼にするかどっちにしようかなー、みたいな軽いノリで言ってんのかな!? っていうか忠誠を誓わせたってどういうことだよ!?」
「あのあたりにはエルフや獣人族が暮らしておったからの。おとなしく主様に従うか、それとも抗って一族郎党すべて滅び果てるか、どちらか好きな方を選べと優しく問うてやったのじゃ」
「……おいこら」
ちょっと待てや。
「もっとも、抵抗らしい抵抗はなかったのじゃ。みな《神滅覇王》たる主様と、《神焉竜》たる妾の偉大さに恐れ入ったのか、我を先にと次から次へと恭順の意を示したのじゃ。よって森はすっかり安心なのじゃよ」
ドヤ顔で満足げにうむうむ頷いてる《神焉竜》。
だけど――、
「すっかり安心じゃ!(ドヤァ)、じゃねぇよ!? 革命政権も真っ青の恐怖政治をしちゃってるからな!? そういうのは脅迫って言うんだからな!? 恐れ入ってるんじゃなくて、文字通り恐れてんだからな!? つーか何してくれてんの、おまえ!?」
「やはり王たるもの、それ相応の領地というものが必要じゃからのう。主様の器の大きさと比べれば、まだまだこんなものでは物足りなくはあるのじゃが、うむうむ、とりあえずは主様が喜んでくれたようで何よりじゃ」
「ちっとも喜んでないからね!? 完全にパニックだからね!? そもそもあの大森林って帝国の領土じゃないのか? この前通った帝都への街道って、森の北部を通ってるよな? もしかして帝国の領土を奪っちゃってない? それマジやばくない!?」
俺は国盗り物語とか領地経営シミュレーション的な異世界転生は、求めていないんだけど!?
大陸の大半を支配する巨大帝国との戦争とか、マジで勘弁なんですけど!?
「それでしたら、街道周辺はシュヴァインシュタイガー帝国の領土ですけど、そこより南は特に支配者はいないんですよ。妖魔たちの住む暗黒大陸との緩衝地帯の意味合いもありますし。強いて言うなら《シュプリームウルフ》や森の民エルフの自治区、みたいな感じでしょうか」
晩ごはんの用意が一段落したウヅキがやって来て、分かりやすく解説をしてくれた。
「あ、うん。わかりやすい解説をありがとう。さすがウヅキ、詳しいな」
「いえいえ、セーヤさんのお役にたてて嬉しいです。はい、お茶です」
「ありがと……。ああ、どっと襲ってきた精神的疲労が熱いお茶で一気に癒される……」
お茶を入れてくれたおかげで、ちょっと一息もつける。
ありがとうなウヅキ、おかげで降って湧いた変な話もスムーズに進びそうだよ……。
……そう思ってた時期が俺にもありました。