第177話 おままごと
「つぎは、おままごと、する」
俺とウヅキの絵を描き終えたハヅキが――褒めてもらって満足げな表情を浮かべながら――次に提案したのは、これまた定番の女の子遊びだった。
「おねぇ、おかーさん」
「いいですよー」
「まなしー、おとーさん」
「お、いいぞ」
何気なく答えながら、しかし俺はハヅキの境遇へと思いをはせていた。
サクライ姉妹の両親は流行り病で早くに亡くなっている。
特に小さかったハヅキには両親の記憶はほとんどないことだろう。
ずいぶんと寂しい思いをしてきたはずだ。
「俺も同じように小さい頃に両親を亡くして祖父母に育てられたから、ハヅキの気持ちが実感として分かるんだよな……」
もちろんウヅキやグンマさんが十二分に代わりを担ってくれていたはずだ。
それでも、ハヅキが寂しくなかったわけがない。
どれだけ周りが誠実に心の隙間を埋めようとしてくれても、それでも心の隅っこがどうしても埋まってくれないのだから――。
「ふとした時に心の中の隙間を感じるんだよな……」
そんな、お父さんとお母さんになってほしいと言ったハヅキの姿を見て――、
「よし――っ!」
俺はぐっと気合いを入れた。
「見てろよハヅキ。俺が最高のお父さんを演じて、少しでもお前の心の隙間を埋めてやるからな……!」
問題は俺がお父さんになるどころか、それ以前に彼女すらいたことがないお父さんマジ童貞ってことだけど、
「そんなものは今の俺の燃えたぎる使命感の前には、吹けば飛んじゃう三匹の子豚のわらの家のごとし!」
そしてこんな時のためにあるのが数多のチートたちなわけで。
「演劇系S級チート『アカデミー主演男優賞』発動!」
俺は演じるというカテゴリーにおいて、最強無敵の絶対チートを惜しげもなく発動する。
「たかがおままごと、されどおままごとだ……!」
俺はハヅキのためならば、どんなことにも手を抜いたりはしない。
どんと来い、おままごと!
「よーしパパ、がんばっちゃうからなー!」
「さすがです、セーヤさん! いえ、さすがです、セーヤパパ!」
ウヅキも俺と同じようにやる気を見せていた。
うんうん、いいじゃないか。
女の子が普段は見せない心の隙間を、さりげなくそっと優しく埋めてあげる――。
こういうほっこり胸キュンなラブコメイベントを、心と心で触れ合う優しい時間を、俺は求めていたんだよ……!
――そう思ってた時期が俺にもありました。
「そして、ハヅキは、おいしゃさん」
「……は?」「……え?」
突然の言葉に、俺とウヅキの声が見事にハモった。
意味が解らず、2人して首をかしげてしまう。
「あの、ハヅキ? 今から俺たちは、おままごとをするんだよな? なんでお医者さんなんだ?」
俺が思わずそう聞いてしまったのも、無理のないことではなかろうか。
「いのちを、たすける、しごと、きょうみある」
「そ、そうか……」
「おとーさんと、おかーさんと、じょさんしさん」
「じょさんし……? あ、助産師ね……」
「では、おかーさん、ねてください」
助産師ハヅキに促され、ウヅキは仰向けで布団に寝ころんだ。
「おかーさん、あしを、あげて、ください」
ウヅキは言われるがままに、布団の両脇に用意されていた箱の上へと足を乗せる。
必然的に、
「えっと、あの……はぅ……」
今のウヅキは寝転がって足を上げて開脚する姿勢をとることになり――つまりスカートの中が丸見えになってしまっていた。
しかしハヅキ助産師の知的探究心はこんなものでは終わらなかった。
「では、ぬがします」
「え――っ?」
言うが早いか、ハヅキはためらうことなくウヅキのパンツを膝まで下ろしたのだ――!
「あ、あの!? これ大事なところが見えちゃってませんか!?」
「? みないと、わかりません」
「だってこれ、セーヤさんにも見えちゃいますよ!?」
「ありのまま、みます」
「いやさすがにそれはどうだろう……」
「とかいいながらセーヤさん!? すっごくまじまじと見ちゃってませんか!?」
「いやその……、はい……」
「はぅぅぅ……っ」
「ありのー、ままのー」
「おっけーハヅキ! さっきも言ったけどそれは本気でヤバいからやめような!」
「――むぐ」
俺はハヅキの口を押えてどうにか事なきを得たのだった。
そしてそんなやりとりをしている間。
ウヅキはずっとプルプルと震えながらも、ハヅキのためにと懸命に下半身丸出しの羞恥に耐えていた。
「上は全部服を着ているってのがまた、何とも言えないエロティズムを感じさせるんだよな……ごくり……」
その必死に恥ずかしさを我慢するウヅキの姿は、俺の嗜虐心をこれ以上なく刺激してきて――。
女の子を苛めて興奮するイケナイ性癖に、あやうく目覚めてしまいそうになる俺だった。
――その後。
俺がおとーさん、ウヅキがおかーさん、そしてハヅキが2人の子供という設定で、平和なおままごとをした。
甘えるハヅキを優しく可愛がってあげるウヅキは、まるで本当のお母さんであるかのように俺には思えたのだった――。