第173話 おかしい……。
女の子たちと嬉し楽しい混浴タイムを過ごした後。
迎えに来たトラヴィスの専用馬車にのってディリンデンへと帰ったサーシャを見送ってから。
俺は一人、サクライ家で与えられたマイルームにて考え事をしていた。
「おかしい……。異世界に来てから事あるごとにエロい気分になっているってのに、いざこうやって自家処理をしようとするとイマイチ気分がのってこない……」
今なんて温泉でのえっちなアレコレのおかげでイケナイ妄想には事欠かないというのに、いざ始めようとするとそういう気分がすっと蜃気楼のように掻き消えてしまうのだった。
「もしかしてどこか悪かったりするんだろうか……」
少し不安になるものの、しかし異世界転生してからの俺の体調ときたらすこぶる良好で、特に思い当たる節もない。
「チートのせい……、ってことはないよな、さすがに」
転生前と後でいちばん変わったことと言えば、やはりチートの存在なわけだけど、
「原因がチートだったとしても、俺にはどうしようもないしな……」
仮にチートがなんらかの代償を必要としていたとしてだ。
「だからと言って、そう簡単にチートを使いませんとは言えないわけでだな」
せっかく手にいれた全チートフル装備による万能感を、よく理由も分からないままにみすみす手放すなんて、そんな後ろ向きな選択肢は俺にはありえない。
俺は全チートフル装備を使い倒して、究極至高のモテモテハーレム異世界生活を送るのだから。
「せっかくチートの使い方にも慣れてきたんだ。多少の気がかりがなんだってんだ? むしろもっともっと使うまである……!」
最初の頃、戦闘系S級チート『剣聖』を使うと少し人格が変わってしまうような感じがあった。
使い終わってから自分がこんな冷徹な思考をするものなのかと、少し驚いたものだ。
でも今はもう完全に俺が俺としての人格を保ったままで、『剣聖』の冷静さ、強さ、その他もろもろを完璧に使いこなすことができていた。
ラブコメ系S級チート『ただしイケメンに限る』もそうだ。
低出力で常時発動しつつ要所でドカンと全力投球することで、効果的にそのモテモテイケメンパワーを使えるようになっていた。
俺は、自分は特になんの才能もない人間だと思っていたんだけど、
「ふふん、どうやらチートを使いこなす才能には恵まれていたようだな……!」
そういや気がかりと言えば、
「ラブコメ系S級チート『ラッキースケベの』の発動率が、思ってたより高くない気がするようなしないような? でもま、発動しなくても女の子たちと毎日のように温泉に入っちゃってるし、いっちゃいいか」
そう、何もしなくても温泉混浴が当たり前のように起こるんだ。
どう考えても、この異世界は俺のためにある……!
当然、全チートフル装備も俺のためにあるのだ……!
「チートを使って、この異世界でハーレムマスターに、俺はなる!」
日々そのことを実感している俺なのだった。
「ま、異世界転生してからこっち、色んな女の子と仲良くなったり、えっちなとらぶるに巻き込まれたり、SS級と短期間に2連戦したりと、転生前では考えられない密度の濃すぎる日々が続いてるし。そのへん鑑みれば身体と心が環境の変化についていけてないのかもな……」
なんせここは異世界だ。
環境の変化では済まされないくらいの大きすぎる変化なのだから。
考えても仕方のないことは考えないことだ。
俺はいつもどおり、自らの唯一と言ってもいいポリシーに従うことにする。
「さすがに徹夜明けで眠いしな。うん、考えるのはここまでにして、まだ昼だけどもう寝るか……、おやすみなさい、むにゃ……」
こうして考えるのをあっさりと放棄した俺は。
強烈な睡魔にいざなわれるようにして、深い深い眠りに落ちたのだった――。
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