第170話 俺たちの半分は優しさでできている……。
《神焉竜》の高速移動によってわずか1時間ほどでウヅキたちの家があるアウド村へと戻った俺たち一行は今。
俺、ウヅキ、ハヅキ、サーシャ、《神焉竜》の5人で連れだってサクライ家へとむかっていた。
「なかなかに素晴らしい空の旅でしたの。快適すぎて最後は少し寝てしまいましたわ。ふふっ、また是非楽しみたいものですわね」
「……ソウダネ、カイテキ、スギテ、ネチャッテ、イタネ」
さも何事もなかったかのように振る舞うサーシャを、俺たちは申し合わせどおりにみんなで温かく見守ってあげた。
俺たちの半分は優しさでできている……。
そして仮眠をとったことで頭がすっきりしたのか、
「家に戻ったらすぐにお父様とお話して『《神滅覇王》まん』プロジェクトを一気に進めますの!」
サーシャは改めてめらめらとやる気をみなぎらせていた。
ロイヤリティ=不労所得のためにも、ぜひとも頑張ってほしいものである。
「……そういやなにか大事なことを忘れているような?」
なんだったかな?
「えーと、クリスさんと話をしてて、ロイヤリティの話が出て……。確かその前になにか気になったことが……」
ってなことを考えているうちにサクライ家へとたどり着き。
「まぁたいていのことは、夢の不労所得様の前では大事の前の小事だからな……!」
くくくく……。
夢のようなバラ色の未来を考えるだけで、笑みがこぼれる俺なのだった。
「お祖父ちゃーん、ただいま帰りましたー!」
「うにゅ、ただいま」
「またお邪魔いたしますわ」
「やっとついたのじゃ。このあたりは人心もおおらかで、空気も雰囲気もとても落ち着いたいいところなのじゃ」
女の子たちとともにぞろぞろと玄関の敷居をまたぐと、
「おお、ちょうどいいところに」
よそ行きの格好をしたグンマさんがやってきた。
「あれ、お祖父ちゃんどこか行くの?」
「ディリンデンの復興計画について話があるとかでのぅ。2,3日家を空けるから、すまんがそのあいだ家のことはウヅキにまかせるでの」
「まかせて、お祖父ちゃん」
「ん、ハヅキも、おてつだい!」
ぴょこんとハヅキが手を挙げた。
「ははっ、偉いなハヅキは」
言って優しく頭を撫でてあげると、
「あ……ぅ……」
嬉しそうに頬を緩めて、ぴたっと身体をよせてくっついてきた。
うむうむ、実に可愛いぞ……。
「ところで金髪のお嬢さんは先日来られたトラヴィス家の娘さんじゃが、そちらの女性の方はどなたでしょうかの?」
グンマさんが《神焉竜》のほうを見て尋ねてきたので、
「知り合いですよ――」
さらっと答えていろいろ誤魔化そうとしたら――、
「妾は奥方殿公認の主様の愛妾じゃ。しばらくやっかいになるので、良きに計らうのじゃ」
先に《神焉竜》が胸を張って言った。
言いおった。
「おいこらちょっと待て」
なんやねんそのヤバい自己紹介。
それじゃあまるで、俺が女遊びに心血を注ぐヤリチンクソヤロウみたいじゃないか。
俺はまだ完全無欠なパーフェクト童貞なんだよ?
事実無根の風評被害はやめていただきたいんですけど?
チラッっとグンマさんを見やると、
「よきかなよきかな」
子供の成長を見守る親のように目を細めて見守ってくれていた。
うんまぁこれでいいならいいんだけどね……?
なんていうかその、俺に対するグンマさんの認識のほどを知りたいなと思った今日この頃。
俺もこの異世界にもずいぶん慣れてきた気がします。
「でも、これでやっとゆっくりできるかな」
なにせ異世界転生してわずか10日の間に、《神焉竜》や《シュプリームウルフ》と立て続けに戦ったんだ。
どちらもSS級の超強敵で、それこそ同じSS級チートの《神滅覇王》の力がなければ、今ごろ俺はここにこうしていられなかっただろう。
ウヅキやサーシャ、ナイアにもいっぱい助けてもらった。
「一生懸命頑張って、みんなにも助けてもらって。そして今、俺はこうしてここにいられるんだ――」
こうやってまたウヅキの家に戻ってこれて、日常に戻ってこれて。
俺はしみじみとそう思ったのだった。
「さて、と。まずは温泉にでも入って、その後はゆっくり寝させてもらおうかな。なんせ徹夜明けだからそろそろ眠くなってきちゃってさ――」
「無敵転生」をお読みいただきありがとうございました。
第三部もよろしくお願いいたします(ぺこり
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