第169話 かいてきな、そらのたびを、おとどけ
第三部「先史の調べ ―パーティクル・カノン―」がスタートです!
ナイア、クリスさん、シロガネと別れ、《神焉竜》の背中に乗って飛び立った俺、ウヅキ、サーシャ、ハヅキの4人は。
今、広大な空の上にいた。
「おー、これは凄いな! 絶景だし、こんなに速いスピードなのに、まるで室内にいるみたいに風の流れを全く感じない」
「ふふん、空は妾の庭なのじゃ。妾ほどになれば、これくらい造作もなきこと。でも主様が褒めてくれるのはとても嬉しいのじゃ。もっと褒めてたもれ」
すごいすごいと、俺は《神焉竜》の首元を撫でてやる。
「なにせ戦闘に関しては互いに全力を出し合うのが好みの《神滅覇王》ですら、《神焉竜》には空を飛ばせようとはしなかったもんな……でも、これなら納得だ」
自由自在に空を飛ぶ《神焉竜》は、間違いなく手が付けられないほどの難敵になったことだろう。
「うにゅ、かいてきな、そらのたびを、おとどけ」
「お、難しい言葉を知ってるな」
っていうか飛行機もない世界で、どこでこの言葉を使っているんだろうか?
ふと、俺の右腕を抱きかかえながら座っていたウヅキが、ぷるぷるしていることに気が付いた。
「ウヅキ?」
ウヅキははるか下の大地を見ながら、
「ひ、ひひひ、人があんなに小さく……」
ガクガクと震えていたのだ。
「どうじゃ奥方殿、まるで人がゴミのようじゃろうて?」
「いやその表現はいろいろとまずいぞ、色々と……っていうかウヅキは来るときも空を飛んできたんじゃないのか? よく大丈夫だったな」
「来るときは夜で真っ暗だったので、下はよく見えなかったんですよぉ……でも明るいところで改めて見たら、はぅ……」
怖ければ見なければいいだろうに、しかしウヅキはもし落ちたら……と気になって気になって仕方ないのだろう。
どうしても下を見てしまうようだった。
「ウヅキ、気をしっかりもって! 怖いんだったら俺のほうにもっとくっついてくれていいからさ。ほら、こっちにおいで」
「で、では……お言葉に甘えて……」
怖くてたまらないからか、ウヅキはいつものように遠慮することもなく、とても素直に、そしていつもよりもぎゅうっと身体を寄せてきた。
今までむにゅって感じだったおっぱいが、むぎゅぎゅぎゅっ!と大変やわらかけしからん感じで押し付けられて……くっ、右上腕が全方位おっぱいに包まれてしまっているぞ……!
「なんという圧倒的な存在感……っ!」
もちろんそういうことを狙って下心から提案したわけではなくて、あくまでこれはウヅキを安心させるためのものであってですね?
ほんと、こうなってはじめて気づいたんだよ?
ウソ偽りなく本当だよ?
「ウヅキ、大丈夫だよ。別に落ちやしないからさ。ほらサーシャを見てみろよ。さっきから静かなもんだぞ。なぁサーシャ、これくらいなんてことないよな――サーシャ? おい、サーシャ? おーい?」
すぐ左隣にいるのに返事がない――と思ったら、
「うにゅ、サシャねぇ、きぜつ、してる」
サーシャは俺の左手をぎゅっと両手で抱きしめたまま、完全に意識を失っていたのだった。
誇り高きトラヴィスの跡取り娘としてのプライドなのか、悲鳴を上げないように真一文字に口をつぐんだままの顔で……。
「サーシャ……無茶しやがって……」
恐怖に負けないようにと、必死にがんばってたんだな。
「安心して寝ていろよ……ついたら何も知らない風を装って起こしてやるからな……」
「無敵転生」をお読みいただきありがとうございました。
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