第162話 世界はこんなにも輝いている
「そうだ、ナイアはこの後どうするんだ? もともとナイアたち《聖処女騎士団》は帝都が本拠地なんだよな?」
困った時は話題を変えるのが手っ取り早い。
というわけで、俺はさくっとナイアの話題に鞍替えすることにした。
「アタイは2,3日は帝都に残るよ。モレノ前辺境伯の件は、《王竜の錫杖》の全損も含めて直接報告しておきたいしね。もちろん復興中のディリンデンを長くは留守にできないけれど」
「あーうん、アレな、帝国七大秘宝な。《神焉竜》との戦いでぶっこわれた……迷惑かけるね、ほんと……」
「なーに、こういう時に怒られるのが責任者の仕事ってなもんさ」
さすがナイア、言うことがいちいちカッコいい。
まさに騎士の中の騎士、人としての器の大きさが俺とは月とスッポンってくらいに違いすぎるよ……。
「ふむ……のう、白銀の姫騎士よ。お前は人族にしては主様や奥方殿、妹君の次に見どころがあるのじゃ。方便に妾の名を使うことを特別に許そうぞ」
「えっと、それは助かるけど。でもいいのかい?」
驚いた顔を見せたナイア。
「……ごめん、どういうこと?」
ナイアと《神焉竜》がよくわからない高尚な会話をしているので、隣にいるウヅキに小声で聞いてみた。
「多分ですけど、《神滅覇王》のセーヤさんだけでなく《神焉竜》さんまでもがナイアさんと懇意にしているとなれば、おいそれとナイアさんを糾弾したり批判したりはできない、ということだと思います」
ウヅキがこそっと耳打ちをしてくれる。
「ああ、そういうことね……」
《神焉竜》の手綱を一部でもナイアが握っているとなれば、ナイアが失脚すれば帝国は《神焉竜》に対するそのわずかの影響力すら失ってしまう――ってわけだ。
それにしてもさすがウヅキ、理解力が高いな……。
俺なんかそもそもからして「方便」ってどういう意味だったかな? ってところからスタートだったからな……確か「手段」って意味だったよな……?
「妾は人族のくだらん足の引っ張り合いには、とんと興味はないのじゃ。左様なものはさっさと済ませて、お前もすぐに主様の元に戻ってくるがよい」
「ありがとう。竜の王たるあなたのご厚意に心よりの感謝を」
「よいよい。さっきも言ったように、お前はなかなかに見どころがあるのじゃ。もちろん主様の足元にも及ばんがの。なにせ妾は主様にぞっこんラブなのじゃからの!」
言って、ギュゥっと抱きついてくる《神焉竜》。
ウヅキといい勝負のすさまじいおっぱいが、むぎゅっと押し付けられて、俺は今とっても幸せです!
そして《神焉竜》の動きに釣られたように、なぜかウヅキもぎゅうっとおっぱいを――あ、いや、身を寄せてきて。
片やマシュマロのような柔らかさで地母神のごとく包み込んでくるウヅキのおっぱい。
片やいけない弾力に満ち満ちた弾けるような《神焉竜》のおっぱい。
「これはどちらも絶品……甲乙つけがたいな!」
「主様?」
「おっと心の声が……いや、なに、世界はこんなにも輝きに満ち溢れたものなんだなって思ってさ」
でもそっか。
ここでナイアとクリスさんとは、いったん別れることになるのか。
そしてさらには――、
「我も妹たちと一緒に南方大森林に帰るのだ。父上と母上もそろそろ帰ってくるはずなのだ」
シロガネが別れを告げてくる。
「そう、ですわよね、シロガネともお別れなのですわね……でも良かったですの、またシロガネが家族一緒に過ごせるんですから」
そうサーシャがしんみりとこぼすと、シロガネも寂しそうな顔をみせた。
「お前たちにはすごく迷惑をかけて、ごめんなさいなのだ。それと本当にありがとうなのだ――サーシャ、クリス。あと……マナシロ・セーヤ」
ぺこり、とシロガネが頭を下げた。
「お、なかなかに殊勝な態度じゃないか。やっとお前も俺のスゴさがわかったみたいだな」
言いながら、その頭を優しく撫でてあげる。
ラブコメ系S級チート『頭ポンポン』が発動し、シロガネが頬を赤く染めた。
ちょっと照れたようにそっぽを向きながらも、されるがままで撫でられたままでいるのが、うんうん可愛いじゃないか。
そのまましばらくなでなでしていたのだが、
「いい加減、調子にのるな! ガブリ」
撫でていた右手を噛まれてしまった。
「いててて……まったくお前は、なにかってーと、すぐ俺の手を噛むんだから」
俺はそれに笑って返す。
「……なんか最初のころと反応が違うのだ? 最初の頃は怒ったのに?」
シロガネが不思議そうに聞いてきた。
「うん? いやなに、今の人化したシロガネはちょっと強気な可愛い後輩って感じでさ。噛まれるのもじゃれつかれてるみたいで悪くないっていうか、むしろ可愛い女の子から、手に熱烈なちゅーをされてるみたいな?」
シロガネとはずいぶん仲良くなった気もするし、出会ってから今に至る心境の変化を俺は素直に答えてあげたのだった。
――だというのに、シロガネときたら、
「ひぃぃっっっ!? おい、こいつちょっと――ううん、すっごく頭おかしいのだ!?」
失礼なことを言ってくれやがる。
「さすが主様、多分に寛容なことじゃ」
「セーヤさんらしいですね」
「ですの」
「うにゅ」
「二人は仲良しだね。やっぱり拳で語り合ったからかな?」
「お見それしましたマナシロ様。発想からして規格外でございます」
だがしかし、残念ながら女の子たちは俺の味方なのだった。
「ナチュラルにコレを受け入れちゃうおまえらも、実はすっごくおかしいのだっっ!?」
――その後。
帝都の外市街のさらに外、人気のない平原までみんなで移動したのち、
「竜化――!」
《神焉竜》が、一軒家のような巨大な黒竜へとその姿を変化させた。
「乗るのじゃ。これなら主様の家まですぐじゃからの」
ぴょんと俺にしがみついてきたハヅキをおんぶして。
うんしょうんしょと頑張るものの、なかなか登ることができないウヅキの大きなお尻をむにゅっと押し上げあげながら――指が、指がお尻に柔らかくめり込んだぞ……!
サーシャも一緒に巨大な黒竜の背中へと乗り込んでいく。
「結構なスピードが出そうなんだけど、風圧で落ちたりしないのか?」
飛び立つ前にやや不安になった俺が聞いてみると、
「妾のブレスに使うておる黒粒子を薄めて周囲に展開することで、気流を制御するのじゃ。風圧や空気抵抗は全く感じないはずじゃよ」
「ああ、空力ってやつだな」
「おや、なんじゃ知っておるのか。さすがは主様、博識じゃの」
「いやーそれほどでもないよ、ははは」
「おい、おまえ、ずるっこなのだ! それは我が教えたのだ! 知ったかしているのだ!」
「そうだったか? まぁ細かいことはいいじゃないか。それより達者でなシロガネ! 家族みんなで仲良く暮らせよ」
「めっちゃ露骨にごまかしたのだ!?」
「ではゆくぞ――!」
《神焉竜》が翼を広げると、周囲に黒粒子による力場が形成され、巨大な身体が浮かび始めた。
そして一度羽ばたくと、グンと一気に飛翔を始める――!
広大な帝都が眼下に大きく広がっていく様は、
「これはまた絶景だな――」
こうして。
サーシャとともに駆け抜けた帝都への旅は、大団円をもって終わりを告げたのだった――。
「無敵転生 ――全チート、フル装備。」 この異世界で、ハーレムマスターに俺はなる!」
第二部 「気高き黄金」 完。
第一部に引き続いて第二部も最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
この第162話「世界はこんなにも輝いている」にて第二部は完結となります。
この後は幕間を数話挟んだのち第三部に入ります。
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ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました!
重ねて感謝を申し上げます。