第159話 幸運系S級チート『情けは人の為ならず』
「それにしてもすごかったな、ナイア。すっげー痛快だった」
「まぁ、すごいのはアタイじゃなくて皇帝陛下のご威光なんだけどね」
「それそれ! ナイアが皇帝――っと、皇帝陛下と謁見するくらいに偉い人なんだって、改めて実感したっていうか」
「皇帝」と呼び捨てにしかけて、慌てて俺は「皇帝陛下」と言いなおした。
まぁほら?
不敬を働いたとかで無駄に敵を作ったり、せっかく好いてくれてる女の子たちの心証を悪くしたりする必要はないっていうか?
べ、別に皇帝陛下のご威光に日和ったわけじゃないんだからねっ!
「こう見えて、アタイは皇帝陛下直属の《聖処女騎士団》を預かる騎士団長だからさ。まぁ多少はね」
言って、ナイアは茶目っ気を含んだウインクをしてみせた。
チートも使ってないのに、まるで映画スターのように絵になっちゃうのがすごいです。
「そうだ、さっき言ってたけどさ。結局スコット=マシソン商会はお取り潰しになるのか?」
「いいや? ならないだろうね」
「ならんのかい!」
思わずツッコんだわ。
「へぇ、酷い目にあわされたってのに、セーヤは彼の行く末が気になるのかな?」
「いや、全然別に全然そういう訳じゃないんだけど――」
この後どうなるのか単純に気になっただけで、俺としては偉そうなイケメン野郎がこの先どうなろうが特に興味はなかった――んだけど、
「さすが主様、あの憐れな小童にも心を配るとは、天の空のごとき広大な心をもっておるのじゃ」
「さすがです、セーヤさん!」
「まなしー、やさしいから、すき」
「そうやって謙遜するところも、また素敵だね」
幸運系S級チート『情けは人の為ならず』が発動し、かけてもいない「情け」が、女の子から褒められるという「幸運」となって、俺のもとへと帰ってきたのだ。
「すげーチートだなおい……。だって今の俺、本気で何もしてなかったぞ……?」
でもまぁ、女の子たちに褒めそやかされて悪い気はしないよね。
ということで、当然ここは黙まったままでちやほやされておく俺だった。
今回ちょっと頑張ったし、これくらいのご褒美があってもいいと思います!
ちなみに強引に因果を繋ぐということで、因果を断絶するディスペル系S級チート『え? なんだって?』とは、対になるチートのようだ。
「マナシロ様。お嬢さまを危険にさらした愚か者に情けなど無用です。ここは一族郎党、果ては未来永劫・末代にわたるまで二度と刃向おうなどと思わないように、とことんまで追い込むべきかと」
なんか怖いセリフも聞こえたけど、俺は聞かなかったことにした。
「こいつそんなこと思ってないのだ……ぜったい嘘なのだ……」
シロガネもなんか言ってるが気にしない。
俺は果てなき大空のごとき広い心を持っているからね。
「ま、アタイが皇帝裁判を進言すれば実際にそうなるかもしれないけど。落ち目とは言え帝都三大商会の一つがつぶれたら、事後処理がやっかいってもんじゃないからね」
「そりゃそうか……」
日本もリーマンショックのときに大変なことになったもんな……。
「通常の裁判だったら経済的影響も考慮して、せいぜいがトップの首のすげ替えってところでお茶を濁すだろうね。スティール・スコット=マシソンは個人資産没収の上、都払い10年ってとこじゃないかな」
「都払い? ――ってなんだ?」
聞きなれない刑罰の名前だ。
「帝都、及び衛星都市での全ての権利が剥奪される刑罰です。商売ができないどころか、住むことすらできなくなっちゃいます」
物知りウヅキさんが、おバカな俺のために分かりやすく教えてくれた。
もはやこの世界で、俺はウヅキなしでは生きていられないのである……。
「つまり商人としては事実上、再起不能ってことか……じゃあこれでもうトラヴィス商会に嫌がらせをしてくることもなくなるんだな」
「はいですの。この度の一件、セーヤ様には本当にお世話になりました。心よりの感謝を申し上げます。本当にありがとうございました」
なんて、急にかしこまった態度でサーシャが頭を下げてくる。
「よせやい……だって俺たちは仲間だろ?」
「はい、婚約者ですの!」
サーシャが「新婚さんいらっしゃい!」の出演者みたいに、幸せいっぱいの笑顔で笑った。
その笑顔が見れただけで、俺も頑張った甲斐があったってなもんよ。
「本当にお疲れさまでした、セーヤさん!」
「ウヅキもありがとう。ハヅキと一緒にシロガネの面倒を見てくれて助かった」
「うにゅ、がんばった」
「ハヅキも偉かったな。ほら、おいで」
そう言って優しく頭を撫でてあげると、へにゃーっと嬉しそうに頬を緩めるハヅキ。
「主様、主様!」
突入からこっち、ずっとやる気無さそうに最後尾をついてくるだけだった《神焉竜》が、
「妾もなのじゃ!」
我が意を得たりとばかりに撫でてほしそうに近寄ってきたので、一緒に撫でてあげる。
右手でハヅキ、左手で《神焉竜》の、奥義ダブルなでなでである。
「うむうむ、主様のなでなでは気持ちいいのじゃ……」
こうやってる気持ちよさそうに目を細めていると、ちょっと子供っぽいところのある可愛いお姉さんって感じで、これがまさか伝説のSS級『幻想種』《神焉竜》アレキサンドライトだとは、誰も思わないだろうなぁ……。
そしてなでなでした女の子が幸せそうな顔をしてくれると、俺もすごく幸せな気分になれるのだ。
これが、これこそが俺の提唱する「高速増殖モテ循環サイクル」なのだった。
しばらくの間、ハツキ&《神焉竜》へのなでなでを堪能する俺だった。
「無敵転生」をお読みいただきありがとうございました。
よろしければブックマークと評価をいただければとても嬉しく思います(ぺこり