第155話 間違ってない、間違ってないけれども!
「ふむ、つまりはだ。どこぞに囚われておる、主様のわんこの妹達を助けたいという訳じゃな?」
「むっ、きさまっ! 我らは犬ではない! 誇り高き《シュプリームウルフ》だ!」
「ほほほ、さすがは主様、連れているわんこも超一流じゃのぅ」
「だから我らは狼だと言っている!」
「その面倒くさい性格は代を変えても変わらんのぅ。じゃが悪く思わんでたもれ。《シュプリームウルフ》はSS級の中でも最弱。妾にとっては、犬も狼も等しく取るに足らぬ矮小なケモノに過ぎんのじゃから」
「なにおう! この超年増のドラゴンめ!」
ひくっ――。
《神焉竜》の額に怒りの青筋が浮かびあがった。
「……なんじゃと? もういっぺん言ってみるがよい、憐れで卑賤な犬っころ風情が。その過ぎた口を永久に閉じさせるくらい、妾には造作もないのじゃぞ?」
「何度でも言ってやるのだ! このおばさn――」
「あー! はい! わかったわかった! 味方同士でいがみ合っても始まらない、な? みんなで仲良くしよう、な? な! なっ!!」
やばそうなNGワードを機敏に察知した俺は、すぐさま仲裁のために割って入った。
素早い対処のおかげで、すんでのところで事なきを得る。
「まったく主様ときたら、あちらこちらに首を突っ込むだけでなくこんな犬っころまでかばってみせるなど、ほんに人が良いのぅ……」
「いや別に人がいいわけじゃないけどね。成り行きというか」
自慢じゃないが俺はどちらかというと、自分と関係ないことに首を突っ込む性質ではない。
「なに、妾ほどになれば見ればわかるのじゃ。世界の果てまで見通す妾の『真なる龍眼』にかかれば、主様の大海のごとき真心をはかることくらい、朝飯前じゃからの」
「さすがです、セーヤさん!」
久々に聞いたな、ウヅキのそのセリフ……やっぱいいな、うん。
でも『真なる龍眼』ってば、実はぜんぜん見通せてなくね?
微妙にポンコツっぽいけど大丈夫?
「ま、それはそれとしてさ。せっかく会いに来てもらったところ悪いんだけど、今は最優先でシロガネの姉妹を探そうかなって思っててさ――」
「それならもう見つけておるのじゃ。ここから3キロほど北にある、大きな屋敷がまばらに立つ一角におるみたいじゃの」
「…………は?」
俺はぽかんと口を開けた。
周りのみんなも同じく「えっ?」って顔をしている。
「えっと、見つけたって、何を……?」
困惑するみんなを代表して尋ねてみる。
「もちろん《シュプリームウルフ》の幼い姉妹じゃが? いま探しておるのじゃろう?」
「いやまぁそうなんだけど……その、なんで分かるんだよ?」
「我が『真なる龍眼』を甘く見てもらっては困るのじゃ主様」
すみません、甘く見てました。
ついさっき微妙にポンコツとか思っちゃいました。
今はとても反省しています。
「でも俺の『龍眼』では、そんなの分からなかったんだけどな」
さっき一応試しに使ってみたんだけれど、全く手がかりすら得られなかったのだ。
「主様のそれは、なかなかによく竜の力を真似た術じゃがのぅ。まだまだ力の本質、真理にはたどり着いておらぬのじゃ」
「マジか……」
「『龍眼』とは単に見えないものを見ること――ただ遠いものを見る千里眼には非ず。その本質とは離れた場所にいる個体同士の意思疎通、心のやり取りなのじゃよ。今回は助けを求める子犬の心を拾ったまで。だからほれ、このようなことも可能じゃ」
《神焉竜》がそう言った瞬間。
俺の頭の中に一つの大きな建物、その内部がテレビ映像のように映し出されたのだ。
いや、みんなの驚いた顔を見るに、ここにいる全員がその映像を共有している……!
「これって――」
「妾の知覚の共有じゃ。『龍眼』とは伝達の術、よってただ見るだけでなく応用次第ではこれくらい造作もないのじゃ」
「こいつは驚いたね……」
「すごいです……」
「うにゅ」
「あっ、いたのだ! 妹たちなのだ!」
「これで決まりですわね!」
「この屋敷、たしかスコット=マシソン商会の古い保養所――」
凄い、凄すぎるぞ《神焉竜》。
SS級って敵にすると泣きたくなるほど強いけど、その分、一たび味方になれば反則級に心強すぎる……!
おかげで一気に解決に持っていけるぞ……!
俺は《神焉竜》に向き直ると、
「ほんと助かったよ。ありがとうな、力を貸してくれて」
しっかりと頭を下げて感謝の気持ちを伝えたのだった。
「ぶっちゃけ矮小な人族のくだらぬいさかいなんぞに、妾は興味はナッシングなのじゃが、困っておるのは他ならぬ主様じゃからの。今回だけは特別なのじゃ」
「本当に助かったよ。ありがとうな」
感謝の言葉を重ねて伝える。
「よいよい。それに妾の手柄は、つまりは主様の手柄なのじゃ。であれば妾に感謝するのではなく、手柄を皆に誇るがよいぞ」
「いや、さすがにそれはどうなんだろうな?」
人としてダメすぎる気がする。
「それよりも、ここは愚かで蒙昧な思念が渦巻いておってかなわんのじゃ。はよう解決して主様の家に行くのじゃ」
「……ずっと気になってたんだけどさ。その『主様』って呼びかたはなんなんだ?」
「何なんだと言われても困るのじゃが、好意を込めた愛称じゃよ? 妾と主様は知らぬ仲でもあるまいて。先日も妾を地面に這いつくばらせて、あの雄々しく巨大な剛直でもって散々に嬲ってくれたではないか」
「は!? ――って、それ、空を飛ばれたら面倒だから飛ばせないように牽制して、《|天地開闢セシ創世ノ黄金剣》で最終決戦したって意味だよな!?」
「最後は力尽きて倒れ込んだ妾の耳元で、耳に心地よい睦言をささやきながら優しく愛撫してくれたじゃろう?」
「間違ってない、間違ってないけれども!」
「ママー、変態がいるー!」
「しっ、見ちゃいけません!」
「そ、それでしたらわたくしだって!」
サーシャが勢いよく手を挙げた。
もはや嫌な予感しかしない。
「わたくしだってセーヤ様の熱いものをたっぷりと身体中に注ぎ込まれ、最後は凛々しくいきり立ったイチモツを『えいや!』って発射させましたの!」
「だからなんで! わざわざそんな誤解を招くような言い方で張り合うの!? 《神滅覇王》の黄金の粒子で創造した矢を射ったってことだよね!?」
「ママー、ヤリチンクソヤロウがいるー!」
「しっ、指差しちゃいけません! ヤリチンが伝染っちゃうでしょ」
「伝染んねぇよ! そもそもヤリチンどころか純真なチェリーボーイだっつーの!」
「はづきも、ちんちん、なでた」
「セーヤさんは、お風呂ですごく優しかったんです、えへへ」
「アタイも、えっちな下着の鑑賞会をする約束をしたね」
「おまえ……」
シロガネが完全に引いていた。
「くぅっ、こんなやつに我は身体を捧げねばならんのか……!」
「お前はお前で、なにを言ってんの!?」
「だって我の耳を差し出しただろう! 我らにとって耳を撫でさせるのは求愛の証なんだからな!」
うん、獣人族のココさんがそんなことを言っていたね……?
この求愛ルールは、《シュプリームウルフ》にも当てはまっちゃうんだね……。
「修羅場……」「七股……」「あんな小さな子まで……」「穴があれば手当たり次第……」「認知するのが男の責任……」
などといった、無実の俺を糾弾してやまない事実無根のひそひそ話が周囲から漏れ聞こえてくる……っ!
「よし! とりあえずは場所を移そう。話はそれからだ」
俺はそう提案すると、みんなを引き連れて、逃げるようにその場を後にしたのだった――。
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