第152話 集う仲間たち
「クリス!」
「クリスさん!」
俺とサーシャが喜びいっぱいに呼びかけた相手はもちろん、トラヴィス家が誇る筆頭格メイドこと、クリス・ビヤヌエヴァその人だった。
「その様子だと、無事に引き渡せたみたいですね」
「はい、あの後はただ帝都までたどり着くだけでしたので」
そう、俺とサーシャが《シュプリームウルフ》――改めシロガネと戦ったのはあくまで過程の一つにすぎない。
今回の旅の唯一無二の目的は、積み荷であるA5地鶏を帝都の三ツ星レストランの仕込みの時間までに送り届けることだったのだから。
最後にすべてを託されたクリスさんは、見事にその大役を果たしてくれたのだ。
「マナシロ様こそ、お嬢さまのことをお守りくださり、本当にありがとうございました。このクリス・ビヤヌエヴァ、トラヴィス家筆頭格メイドの名誉と誇りにかけて、この大恩に報いる所存でございます」
「ははっ、それほどのことじゃないですよ。当たり前のことをやったまでです」
キリッ!
ふっ……決まったぜ。
ぜんぜん偉ぶらないクールな超カッコイイ俺が、決まってしまった……!
だってここは、俺がどれだけ謙遜してもさ、
「聞きいれてくれるまでは引き下がりませんから!」
って向こうから言ってくる場面だからね。
ここでええかっこしない手はないのだよ。
初歩的なことだよ、ワトソン君。
「そうですか。それではこの話はなかったことで」
「え? なんだって?」
素で聞き返してしまったことで、久々に発動したディスペル系S級チート『え? なんだって?』。
相も変わらず効果は抜群で、因果が断絶されてクリスさんが繰り返す。
「そうですか。それではこの話はなかったことで」
「えっとクリスさん……?」
「なんでしょうか、マナシロ様」
「いやあの……いえ、なんでもありません……」
「左様でございますか」
「あ、はい……」
あれれ~?
おかしいぞ~?
だって、ここはあれでしょ?
「そんなの気にしないでいいですよ」
「いやいやそう仰らずに」
「いやほんと全然、そう言うつもりじゃないんで」
「まぁまぁ私の顔を立てると思って~」
みたいなのを延々と繰り返して、最後に「なら仕方ないな。良きに計らえ」って俺が折れてあげるシチュエーションじゃん?
そのはずなのに、
「おかしい、どうしてこうなった……?」
思わず考え込んでしまったよ?
……ま、まぁ、でもほら?
最初から見返りを期待してサーシャを助けた訳じゃなかったわけで。
だからいいんだもん!
お礼が欲しくてサーシャを守ったんじゃないんだもん!
俺がサーシャを守りたいから守ったんだからねっ!
だから全然ちっとも小指の先ほども、何かもらっておけばよかったとか思ってるわけじゃないんだからねっ!
勘違いしないでよねっ!
ぐすん……。
「まったく本当に、マナシロ様ときたら……。これは私も本気で、お嬢さまとマナシロ様との仲を取り持つ必要がありそうですね」
クリスさんが小声で何ごとか呟いていたけれど、テンプレツンデレでもってくじけそうになる心を武装し、世の無常に対して必死に立ち向かっていた勇者の耳には、まったく入ってこなかったのだった。
ちなみにまた謎のウェディング系A級チート『婚約者の実家を納得させる結納金代わりの実績』が発動していた。
「またこいつかよ……ほんとなんなんだよこれ……? 害は無さそうだから別にいいっちゃいいんだけど……」
そんな感じでクリスさんと合流&感動(?)の再会をした後、
「ところで、そちらの少女はどちら様でしょうか?」
クリスさんがシロガネへと視線を向けた。
「ああ、この子はさ、実は伝説の――」
今、行動を共にしているいきさつも含めて、《シュプリームウルフ》やら妹たちを誘拐されたことやら、まとめて説明しようとしたところで――、
「おお! 主様! こんなところにおったか! 探したのじゃぞ!」
背後からすごく嬉しそうな声が聞こえてきたのだった。
結構大きな声だったので、それだけで反射的に思わず振り返りかけた――そのギリギリ直前に、しかし俺ははたと思いなおした。
「いや、今のは聞いたこともない声&呼ばれたことのない呼ばれ方だった。であれば、俺ではない他の誰かへの呼びかけなのは、確定的に明らか……! つまり、振り向いちゃったら別の人だったオチで、『勘違いw』『マジウケるw』などと指を差して笑われる、めっちゃカッコ悪いやつだ!」
俺は振り向きたい衝動をぐっと飲み込んだ。
「ふぅ、危ない危ない。もう少しで勘違い君になってしまうところだったぜ……」
「主様、主様! せっかく会いにきたというのに、なんで無視するのじゃ」
それにしても、まったくどこのどいつだよ、こんなに慕われているのに超ガン無視しを貫いている最低野郎は。
羨ましいだろ、はやく構ってあげなよ。
「主様ときたら本当にいけずじゃのぅ。あれか、釣った魚には餌はやらんタイプじゃな?」
そう言われながら、背中をちょんちょんとつつかれたのは――なんと、俺だった。
「え、俺?」
というのが正直な感想である。
でも、ここまでされたらさすがに振り向かざるを得ないわけで。
「やっと妾を見てくれたか。良きかな良きかな」
振り向いた先にいたのはお姉さん。
ナイアよりも少し上、25歳のくらいのめちゃくちゃ美人で綺麗なお姉さんだ。
そして金属の光沢のような独特の艶を持った存在感のある黒髪が、とてもとても印象的だった――。
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