第15話 初めての異世界飯
とかなんとか楽しくお喋りをしながら、そう大きくはない村の中を歩くこと数分。
俺は村の一番奥にある大きな屋敷――とは呼べないか。
質素で大きな家へと案内されていた。
「ささ、セーヤさん、どうぞ中に入ってください」
「お邪魔します――」
そのまま中へと通される。
靴を脱いで上がる日本様式なのは、土足で家に上がることに抵抗感を覚える日本人にとっては、地味にありがたかった。
「ただいまー、おじいちゃーん、お客さんだよー」
奥に向かってウヅキが呼びかける。
――が、返事はない。
「今日はこのあたりの村長が一堂に集まる緊急の村長会議があったので、もしかしたら疲れて居眠りしているのかもしれません。セーヤさんのこと、おじいちゃんに説明してくるので、どうぞ、しばらくくつろいで待っててくださいね」
板の間にござの引かれた部屋へと俺を案内すると、ウヅキは奥に引っ込んでいった。
ちゃぶ台の前に座りながら、出された水を口にする。
異世界に来てから何も口にしてなかったので、これが初の異世界飯である――水だけど。
ゴクゴクと一気に飲み干した。
「ふぅ、うまい……っていっても、いたって普通の水だけどさ。でものどが渇いてたんで癒された……しかしお茶でなく、お湯でもなく、水か」
こっちの世界では客には水を出すのがマナーなのかもしれないが、
「多分、違うんだろうな……」
おそらくは経済的・金銭的な問題なんだろう。
異世界の生活空間への興味もあって、俺は何の気なしに家の中を見回していく。
当たり前だが、テレビやエアコンと言った電化製品は置いてなかった。
電気の概念はないみたいだし、多分この世界にはそういったものは存在しないのだろう。
天井にはランタンの様な、光る石の入ったガラス箱がつりさげられていて――オンオフのためだろう――紐がぶら下がっていた。
「これが灯り石だな……へぇ、不思議だな、ほんとに石が光ってる」
そして家の広さの割には物がかなり少なく、あっても使い古したものが多かった。
今座ってる座布団も、使い込まれていてかなり薄くなっている。
ただどれもこれも、しっかりと手入れが行き届いていて、大切に使われているのが一目で分かった。
「貧乏だって言ってたもんな……」
ウヅキの明るい笑顔のせいでついつい忘れそうになるが、改めて俺はそのことを実感させられたのだった。
そんな質素な部屋の中で、一際目を引くものがあった。
床の間にいかにも「家宝です!」って感じで飾ってある一振りの剣だ。
美しい漆塗りの鞘に納められたそれは、
「これって日本刀だよな?」
実物とはまず縁がないものの、漫画やアニメでは割と頻繁に目にするその独特の反ったフォルムは、鞘に入ったままであろうとも日本人ならまず見間違えようがないものだ。
「異世界間の技術的類似性? それとも昔の転生者が持ち込んだのか? サクライ・ウヅキって名前にしても、明らかに日本人の名前だしな……」
疑問は尽きないが、それよりもなによりも、俺は目の前の日本刀の存在に目を奪われていた。
「なんせ実物を見るのは初めてだもんな。日本刀で無双するのは男の子の憧れだし……ちょ、ちょっと触ってみようかな? でも大切そうなものだし、先に触ってもいいか聞いた方がいいかな?」
せめてもっと近くで見てみようと、腰を上げかけた時だった。
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