第144話 超奥義《紫電・改》
後方から来る巨狼の突進を利用しての、超高速突撃からの居合抜き――、
「――超奥義、《紫電・改》!」
『剣聖』最強の奥義|《紫電一閃》をも超えた超奥義によって、
「はぁぁぁぁ――っっ!!」
俺は前方の巨狼を一刀の元に叩き伏せた――!
ダメージ許容限界を超えた《群体分身》の一体が霧のように消えていく――!
「まずは一体! ふはははっ! どうだ見たか!」
打つ手のなかった圧倒的劣勢の中、訪れた絶体絶命のピンチをひらめきによって千載一遇のチャンスへと変えて。
ついに《天狼咆哮・群体分身》で現れた4体のうちの1体を、俺は討滅することに成功したのだった。
「計算通りだぜ! 格上のSS級? ふっ、俺だって全チートフル装備なんだ、舐めんなよ!」
さぁ、ここからが反撃の時間だぜ……!!
――そう思ってた時期が俺にもありました。
弾丸のような前方への射出から、眩いばかりの一閃を打ち放った俺の身体は。
その《紫電・改》を放った反動によって、一瞬ふわりと宙に浮いた後――10メートルの高さから自然落下を始めていた。
「うげっ、しまった……新必殺技のことばかり考えてて、当てた後のことを考えてなかった……」
当たり前だけれど俺たち人間に翼はないわけで、つまり人間とは空を飛べない生き物である。
よって。
俺はここから重力に引かれるまま真っ直ぐに落ちることになる――なるだけならぜんぜん余裕でなんとかなるんだけれど。
横合いから別の巨狼が襲いかかってきたのだ――無防備で落下していく俺に対して。
そう、《天狼咆哮・群体分身》で現れた分身体は4体。
そのうちの1体を討滅しても、残りは3体も残っているのだ……!
「く……っ、この……!」
なんとか身体を動かそうと試みるものの、俺にできるのはどうにか日本刀を構えるだけ。
それもただ構えただけであり、浮いてる俺には踏ん張るための足場もないわけで、つまり何ができるわけでもないのだった。
「スポコン系S級チート『日の丸飛行隊』――!」
苦し紛れにチートを使用するものの、空中で姿勢制御するためのチートでは、空を飛んだり落下を操作したりすることは不可能である。
グンマさんを助ける時に使ったスポコン系S級チート『エアウォーク』も、最初に前方への推進力が必要なため、自然落下には使えない。
「S級チート『空中浮遊』とかはないのか……!」
地表10メートルの高さから、自然落下による着地までのわずかな時間。
高さ自体は問題ない。
最強の戦闘チートである『剣聖』を発動している状態なら、苦もなく着地することができる。
だから問題は、無防備な空中でのほんの数秒の時間だけ。
――しかしそれは、俺の死へのカウントダウンとも呼べる絶望的な数秒だった。
振りかぶった巨大な爪が、為すすべなく落下中の俺へと情け容赦なく振り下ろされた――、
――その瞬間、
「セーヤ様――!」
凛としたサーシャの声が聞こえたかと思うと、
ヒュン!
風切り音がして、今まさに右爪を俺へと叩きつけようとしていた銀狼のその眼前を一本の矢が通過したのだ――!
それに銀狼はピクリと反応してしまって、それによってほんのわずかだが攻撃を躊躇してしまったのだ。
その刹那の遅れのおかげで、
「悪い、助かった――!」
俺の両足は無事に大地を捉えることに成功した。
即座にその場から飛びのくと、直後に俺が着地したその場所を銀狼の巨大な爪がゴォッ!と薙ぎ払っていった。
「あっぶねぇ……! ありがとうサーシャ!」
牽制の矢を射放ってくれたのはもちろんサーシャだ。
矢筒に残っていた最後の一矢を我慢して我慢して残しておいて、この絶体絶命の場面で使ったのだ!
それも、あてるのではなく敢えて《シュプリームウルフ》の眼前を通過させたのだった。
どんな生物も、目の前を高速で横切られると本能的に目で追ってしまったり、びくりと動きが止まってしまったりと、なにかしらの反応してしまうからだ。
逆に中ててしまうと、銀毛によって威力が大きく軽減されるし、下手をすれば何の意味もなく弾かれる可能性まであった。
それを考えれば、
「さすが、いい判断力だなサーシャは!」
あえて矢に眼前を横切らせることで、《シュプリームウルフ》の行動を阻害してみせた。
それも使い慣れない和弓でだ。
サーシャの冷静さと技術の高さに、俺は改めて感心させられたのだった。
――しかし。
俺はピンチを脱することができたものの、このことで《シュプリームウルフ》がサーシャの存在を強く意識することになってしまう。
3体のうちの1体がサーシャを攻撃しはじめた。
「待ってろサーシャ、今行く――!」
ただちに助けに向かおうとした俺は、しかし――、
「く――っ!」
残る2体によって行く手を阻まれてしまう――!
「このっ、どけっ! 邪魔だ!」
『剣聖』と『龍眼』の2大S級チートををフル稼働して1対2の局面を打開し、何が何でもサーシャの元へと駆けつけるんだ――!
「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっっ!!」
雄たけびを上げながら2体の巨大な銀狼と切り結ぶ俺の視界に、
「あぅ――っ!」
苦悶の声を上げながら地面を転がっていくサーシャが映った。
《シュプリームウルフ》の突進にかすって激しくはねとばされたのだ。
「ぅう……ぁ……」
どうにか立ち上がろうとするサーシャだが、身体に力が入らないようでもぞもぞと動くだけで立ち上がることができないままでいる。
そこに再び銀狼が迫る――!
「やめろ、おいっ! お前の相手は俺だろうが!! サーシャ、いま助けに――くっっ!」
だが2体の巨狼に阻まれた俺は、サーシャを助けるどころか近づくことすらできないでいて――。
「このっ! どけよ!! ……どけっつってんだろがボケェッ!!」
サーシャを見下ろす銀狼は、その巨大な爪を振り上げると――、
「サーシャぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっ――――ッ!!」
意識が朦朧として立ち上がれないでいるサーシャに向かって無慈悲に振りおろし、叩き潰したのだった――。