第143話《天狼咆哮・群体分身》ライラプス・オーバーロード・ミラージュ・ファング
「《天狼咆哮・群体分身》――ライラプス・オーバーロード・ミラージュ・ファングとか、冗談きついぜおい……」
巨大化した上に、さらに4体に分身した《シュプリームウルフ》を見上げて、俺は思わずひとりごちた。
あのまま押しこめるか、とも思ったんだけどな。
「やれやれ、俺にS級チート『閉校の危機』って切り札があったように、《シュプリームウルフ》にもとっておきの切り札があったってわけだ」
おちゃらけて言ってみるものの、正直かなり悪い状況だぞこれは。
とかなんとか言ってるうちに、
「……あ、やべ」
見下ろしてくるうちの一体と目が合ってしまい――それが戦いの端緒となった。
4体の15メートル級の巨大狼を相手に、
「なにはともあれ、打開策を見つけるまでは防御と回避に徹するしかないか……!」
俺は必死のパッチで逃げ回りはじめた。
「サーシャ、頼むからうまいこと隠れていてくれよ……!」
この状況では、もうサーシャを気にしている余裕は完全にゼロだ。
戦いに巻き込まれないことを祈るほかない。
死角からの強襲を知覚系S級チート『龍眼』を信じて、ノールックのサイドステップでかわす――!
「ぐぅ――っ!」
鮮烈な痛みが左肩に走った――巨大な爪が肩をかすめたのだ。
「このっ、かすっただけでこれかよ……!」
直後、ほぼ正面からきた突進は――、
「回避系A級チート『闘牛士』発動!」
再び発動した対突進の特化チートで、ひょいっとかわして事なきを得る。
「『闘牛士』はかなり優秀なチートだな」
こいつがあれば、正面からの突進はほぼ確実に回避できる。
ただ一つ大きな欠点があるとすれば、だ。
「相手が正面から大きく外れると、効果がほとんどないってことか――!」
今度は真横から襲いくる突進を、俺は前方への飛び込み前回り受け身によって紙一重で回避した。
というのも『闘牛士』の効果範囲外で、チートがまったく無反応だったからだ。
俺は立ち上がるとすぐに、次なる回避行動へと移行する。
別の《シュプリームウルフ》による背後からの爪の叩きつけを、『龍眼』が察知していたからだ。
1対4という圧倒的な数的不利を、チートたちのおかげもあって俺はからくもその猛攻をしのぐことができていた。
しかしそこはさすがのSS級『幻想種』、俺が回避した後の隙や着地でバランスを崩したところを的確に狙い出はじめたのだ。
「く――っ!」
横合いからの爪撃を日本刀で叩き伏せ、その反動を利用して一旦、敵の攻撃圏からの離脱をはかる。
――しかし、
「くっ、挟まれた!? 上手いこと追い込まれたのか……!」
大きく距離を取って仕切り直そうとした俺をあざ笑うかのように、《シュプリームウルフ》たちは連携して狙いすましたように前後2体によって挟撃してきたのだ。
前方の1体が牽制――俺の動きを封じるように、微妙な間合いを維持したまま来そうで来ない嫌らしい動きを見せる。
もし俺が先に動こうとすれば、たちまち後の先で狙い撃ちにされてしまう……!
そして同時に、背後では猛烈な攻撃の意思が膨れ上がっていた。
「前が牽制して俺の足を止めつつ意識を釘付けにし、後ろにいる本命が死角からズドンってことか……!」
相手の出かたは読み切っている。
しかしだからと言って、そうは易々とは対処はできない状況だった。
後ろを振り向けば、牽制しつつも機をうかがっている一体に対して完全に背を向けてしまう。
それでは格好の餌食になるだけだ。
だが後ろからは今にも攻撃が来る――『龍眼』が必死に警告を飛ばしてきてるのだ……!
「こりゃ前門の虎、後門の虎だな……いやこの場合はどちらも狼か。ははは、なんだそれ、上手いこと言ったつもりか」
ちなみにこの故事成語の「挟みうち」的な使い方は誤用だったりする。
本来は前門の虎を対処したら、今度は後門から狼が入ってきてしまい「一難去ってまた一難、ぶっちゃけありえない!」という意味である。
豆知識!
「――なんてセルフツッコミからの、ちょっとプリキュアって&豆しばった現実逃避してる場合じゃねぇ!」
くっ、どうする――!
この日一番の大ピンチ。
絶体絶命の窮地にあって――、
ピキーン!
俺の中を雷鳴のごときひらめきが駆け抜けた――!
「これだ――!」
勝利の方程式が、俺の脳内に鮮やかに浮かび上がる――!
俺は前方の一体に意識を狙いを定めると、知覚系S級チート『龍眼』を後方の一体に向けて全力で使用した。
無防備にも背を向けたまま、前方の一体に対峙し続ける俺。
そこへ、膨れ上がった敵意とともに、後方の一体がここぞとばかりに突進をぶちかましてきた――!
だがしかし全力稼働の『龍眼』は、死角からのその強烈な攻撃を完璧に捕捉している――!
「スポコン系S級チート『鳥人ブブカ』発動!」
俺は『龍眼』を信じて後ろを全く見ないまま、ノールックで高々と6メートルの高さまで飛び上がった。
このチートは棒高跳びで世界記録を35回も更新し、畏敬の念を込めて「鳥人」と呼ばれた天才アスリートの力を模した、飛び上がることに特化したS級チートだ――!
そしてチートの力を借りて高々と飛び上がった俺は、
「ロマン系S級チート『壁走り』、瞬間発動!」
垂直の壁を走るという男の子の夢とロマンが詰まったS級チートを、ほんの一瞬だけ発動させた。
その目的は、後方からの突撃に――、
「どっせーい!!」
空中で、ものすごい勢いで迫りくる《シュプリームウルフ》の額に両足で着地すること!
身体と地面が平行になる――その重力を無視した状態をチートの力を使うことで保つためだ!
そして、
「おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉっっっっっ!!」
突進の勢いを丸々利用して、俺は発射された弾丸のように前方へと跳躍した――!
それはまるで水平に飛ぶ稲妻のごとし――!
「スポコン系S級チート『日の丸飛行隊』発動!」
空中での姿勢制御に特化したこの補助チートは、時速100キロを超えるスキーのジャンプ競技で表彰台を独占した、空を駆けた英雄たちの再現だ――!
既に日本刀は納刀している。
鞘の中で、剣気が爆発的に高まってゆく――!
そう、これが俺が閃いた死中に活の打開策。
最大の危機を最高の好機へと変える、起死回生の一発逆転カウンターアタックだ――!
「受けて見ろ、《シュプリームウルフ》!」
最強チート『剣聖』の奥義である《紫電一閃》に、強烈な突進のスピード&勢いをそっくりそのまま上乗せした、《紫電一閃》を超えた新たなる超奥義を――!
「もはや瞬くことすら許しはしない。世界よ止まれ――、超奥義《紫電・改》!!」