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第142話 S級チート『閉校の危機』

「回避系A級チート『闘牛士(マタドール)』発動!」

 巨大な銀狼へと突っこみながら、俺はとある特殊なA級チートを発動した。


 直後。

 俺の回避運動に合わせるかのように、真正面から唸りを上げて迫りくる巨大な銀狼――しかしその猛烈な突進を、俺は危なげなくひらりと回避してみせた。


「よし! これでやっかいなあの突進を無効化できる……!」


 2階建ての家くらいあるビッグサイズによる突進は、下手をすればかすっただけでも即死だからな。

 俺はダンプカーとガチンコ対決して生き残る自信はない。

 だからまずは回避を優先だ。


「回避系A級チート『闘牛士(マタドール)』、正面からの突進を避けることに特化したこのチートで、その突進は封じた!」


 その上で、

「はぁぁぁぁぁぁああああぁぁっっっっっっっ!!」


 突進をかわされて無防備になった《シュプリームウルフ》のどてっぱらに、俺は上段から日本刀(クサナギ)を思いっきり振り下ろした。


 手に伝わる強烈な抵抗――しかし同時にザクッと刃が通り、しっかりダメージを与えた手ごたえが返ってくる。

「っ、硬い……! けど絶対に通らないってわけじゃあ、ない!」


 《神焉竜(しんえんりゅう)》のような、そもそも歯が立たない最強の鎧をまとった超越存在ってことでは決してない!


 もちろん、軽い攻撃では通らないだろうが、

「根性こめた一撃なら、ダメージは確実に通る……!」


 いける――!

 と、そう思ったのも束の間だった。


「このっ、ダメージを受けた傍から回復してやがる!?」

 まるでビデオの巻き戻しのように、傷ついた部位が即座に元に戻りはじめたのだ。


 回復――いやそんな生易しいもんじゃない。

「これはもう再生とか超回復といった領域だ――!」


 そして脅威の再生力に加えて、さらに厄介なのが身体中を覆っている美しい銀毛だった。

 一見ふんわりとしているようで、その(じつ)しなやかで強靭な芯を持った銀毛は、こちらの攻撃が身体へと届く前に、威力を大きく低減させてしまうのだ。


 柔と剛を兼ね備えた毛皮の鎧をまとい、たとえダメージを受けても再生してしまう。


「ほんとSS級ってのはさ、どいつもこいつも超絶チートの塊だよな……!」

 思わずため息がつきたくなるぞ。


 もちろんそんなことで俺は諦めたりはしないわけで。


 俺はわずかな隙を見出しては――、


「世界よ、真白(ましろ)(またた)け――、紫電一閃(しでんいっせん)!」

 最強S級チート『剣聖』の誇る最大火力の必殺奥義を叩き込んでゆく――!


「どれだけ凄い回復力であっても、無限に超回復できるなんてことはないはずだ。どこかに能力のリミット=限界はある。だったら超回復できなくなるまでボコってやればいいだけのことだ――! 俺とお前どっちの限界が先か、歯喰いしばった我慢比べと行こうぜ!」


 俺はにやりと笑うと、

「おおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっ!!」

 怒りに身を任せる天狼へと刃を向ける。


 竜巻のごとき牙と爪による猛烈な攻撃を、稲妻のような突進攻撃を、

「とぅ――っ!」


 回避系A級チート『闘牛士(マタドール)』や知覚系S級チート『龍眼』を駆使して跳びまわってはかわし。

 再び、三度と小さな隙を見出しては、


紫電一閃(しでんいっせん)――!」

 最強チート『剣聖』と日本刀(クサナギ)による最大最強の必殺奥義を打ち放つ!


 俺と《シュプリームウルフ》、もはや世界には相対する二人だけ。

 全神経を注ぎ込んだ、全力全開の限界バトルを挑んでゆく。


 一応まぁ回避してもつかず離れず、近めでちょろちょろして気を引くことで、俺にだけ意識がむくように仕向けてはいるけどな。


「お前がこうやって俺だけを見ているうちは、サーシャは安全だからな……!」


 意図的に俺を追わせつつ、その峻烈な突撃をこれまた華麗に回避すると、


「どこ見てやがる――っ! 俺はこっちだぜ! ぉぉぉぉぉおおおおおおおおっっっっ!」 

 強烈なカウンターで反撃をお見舞いする――!


 もちろんわずかな隙をついて攻撃しても、当たったそばから超回復をされてしまうものの、


「最初に言ったとおり、こいつは我慢比べだからな。1発でダメなら10発。10発でダメなら100発打ち込んでやるから、覚悟しやがれ……!」


 お前が超回復できなくなってぶっ倒れるまで、何度でも、何発でもな……!


 しばらく、そうした肉体的にも精神的にもギリギリの、一進一退の攻防が続いてから、


「間違いない――」

 俺は《シュプリームウルフ》の動きが、少しずつ鈍くなりはじめているのを感じ取っていた。


 ――迷いはわずかだった。

「勝負をかける! ここで一気にケリを付ける――!」


 わずかに逡巡(しゅんじゅん)する慎重な自分を蹴り飛ばして見ないふり。

 俺はここで勝負に出ることを決断した――!


「スポコン系S級チート『閉校の危機』発動!」

 

 このチートは、スポコン系A級チート『火事場の馬鹿力』の系列最上級チートだ。


 戦車道をたしなむ乙女やスクールアイドルたちが、全国大会で優勝して閉校の危機を乗り越えたように、ピンチや窮地で爆発的な底力を引き出してくれるチートなのだ。


 具体的には体力・気力を全回復、かつ使用後わずかな時間は全ステータス150%向上というバケモノみたいな反則チートだった。


「24時間に1度しか使えない制限チートだが……その切り札を、ここで俺は切る!」


 発動と同時に、俺の身体には溢れんばかりの気力と体力がみなぎってきた。

「さぁ、これでこっちはゼロから仕切り直しだ。まだまだ行けるぜ?」


 言って、俺は今までの回避優先から一転、回避系A級チート『闘牛士(マタドール)』を解除すると、攻撃一辺倒へと舵を切った――!


「おぉぉぉぉおおおおおおおおっっっ――っ、世界よ、真白(ましろ)(またた)け――、紫電一閃(しでんいっせん)!」

 切れ味鋭い渾身の一撃が巨大化した《シュプリームウルフ》の鼻っ柱を見事にとらえると、


「キャゥンッッ……ッ!」

 《シュプリームウルフ》はその巨体を大きくのけぞらせた。


 顏の周りはやっかいな銀毛に守られていない、巨大な天狼の数少ないウィークポイントだ。

 もちろん狙うのは至難の技である。


 2階建ての屋根の高さほどにある顔を狙うには、その巨大な身体を一瞬で駆けあがるか、または噛みついてくる牙をかわしてカウンターを叩き込むか、その2つくらいしか方法がないからだ。


 加えて、

「っとと……!」


 俺は慌てて回避行動に入ると、距離を取りにかかった。

 そんな俺の動きを追いかけるようにして、牙が、爪が、突進が、次々と肉薄して襲いかかってくる。


 とまぁ、お互い正面でもろに向き合うせいで、危険度が段違いってわけなのだ。


 それでもこの状況は、俺の圧倒的な有利盤面。


「少々無理をしてでも、このまま押し込む――!」

 その判断は間違ってはいない――はずだった。


 ニィッ――

 俺を見下ろす巨狼の口元が、動いたように見えた。


 それが、

嘲笑(わら)っている……?」

 ようだと俺には思えて――。


 直後――、

「ワオオオォォォォーーーーーーーーーーーーンンンッッッッッツツツツ!!」

 今までで一番の大咆哮が周囲に(とどろ)いた!


「なん……だと……!?」


 《天狼咆哮ライラプス・オーバーロード》によって巨大化していた白銀の巨体が、輪郭がブンと一瞬ブレたかと思うと、1つが2つに、2つが4つに。

 そっくりそのまま分裂したのだった――!


「なっ――、まさかこれって《群体分身(ミラージュファング)》!? 巨大化した状態でも使えるとか嘘だろ、おい……」


 ……いや、そうか。

 そういうことか。


 巨大化した状態でも使えるんじゃない。

「逆なんだ……本来は、巨大化した状態で使うものなんだ……」


 つまりこれが、これこそが――、

「《シュプリームウルフ》の本当の『固有神聖』――!」


 言うなればそう、

「《天狼咆哮・群体分身》――ライラプス・オーバーロード・ミラージュ・ファング!」


「「「「ワオオオォォォォーーーーーーーーーーーーンンンッッッッッツツツツ!」」」」


 穏やかな月だけが見守る一望千里(いちぼうせんり)の草原に、不吉を予感させる遠吠えの四重奏(カルテット)が響き渡った――。

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