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第129話 低湿地ぱい

 とまぁそんな感じでウヅキとサーシャと俺との三人で、お茶を飲みながら楽しく話をしていると、


「おねぇ、きがえた……」

 今度はハヅキが居間へとやってきた。


 着替えを手伝ってくれたのだろう、サーシャ専属メイドのクリスさんも一緒である。


 そのハヅキの姿はというと、これまたえらく可愛らしい服を着ていた。

 つまりこれが――、


「サーシャにもらった服か……うんうん、良く似合ってるじゃないか。サイズもピッタリみたいだし。すごく可愛いぞ」

「うにゅ、まなしー、ありがと……」

 可愛らしく照れりこするハヅキ。


「ははっ、ちゃんとサーシャにもお礼言うんだぞ?」

「うん、サーシャ、ありがと……」


「いいえ、どういたしまして。それにしてもよく似合ってますわね! 本当になんて可愛いのかしら……! ねぇ、ハヅキちゃん? わたくしのことも親しみを込めて『おねぇ』と呼んでくださって構わないのですわよ?」


 浮かれた様子で語りかけるサーシャだが、

「ううん、おねぇは、おねぇだけ」

「そ、そうですか……そうですわよね……」


 断られて一転、しょぼーんとなってしまう。

 ハヅキってばそのへん意外とシビアなんだな……と思っていたら、


「だから、サシャねぇ」


「え?」

「サーシャは、サシャねぇって、よぶ」

「……っ!」


 ハヅキのその言葉で、サーシャの顔がパァッと一気にほころんだのだった。


 うむうむ、女の子の笑顔はいいものだよ、それだけで男の子は元気になれるのだ。

 サーシャはさ、最初こそ嫌な感じだったけどこうやって仲良くなってみると、とても感情の起伏にとんだいい子なんだよな。

 

 時々ちょっと起伏が激しすぎるみたいだけれど。

 ま、まぁでもほら?

 それもまた個性、みたいな?


「おようふく、ありがと、サシャねぇ」

「いいえ! いいえいいえ! 良いのですわ、わたくしがもう着れなくなったお古ですもの! 全然かまいませんわ!」


「でも、本当にいいんですか? すごく可愛くて生地も薄いのにしっかりしてて、縫製もすごく繊細で丁寧ですし――」

 サシャねぇと呼ばれてテンションアゲアゲなサーシャとは対照的に、ウヅキはちょっと申し訳なさそうな顔をしている。


「おねぇのも、あれば、よかった、のにね」

「し、仕方がないじゃありませんか! そもそもわたくしの方がウヅキより背が低いのですし、それに、む、むむ……胸のサイズが少々合わないのですから……」


「しょーしょー?」

 ハヅキが二人の胸を見比べてから、不思議そうに小首をかしげた。


「ううっ……! 何の裏もない正直すぎる反応……ああ、今のわたくしは、さながら見えない服を着飾ろうとした馬鹿な王様ですわ……ええ、そうですわね! わたくしは素直にただ一つの事実を認めなくてはなりませんわ! 今のわたくしときたら、本当につまらない見栄を張ってしまいましたの……っ!」


 純真無垢なハヅキの正直すぎる反応を見せられ、がっくりと肩を落として懺悔(ざんげ)するサーシャ。


「わたくしもトラヴィスの女です! 事ここに至っては潔く訂正いたしますわ! 少々ではなく、全然おっぱいのサイズが違うから何をどうやったって無理なんですわーー!!」


「サーシャ、こういうのはただの個人差ですから気にしちゃいけませんよ」

 ウヅキが持ち前の優しさでもって、そっと助け船を出そうとしたんだけど、


「それをウヅキが言います!? 言っちゃいます!? ハヅキちゃんとまったく胸のサイズが変わらないわたくしに、世代最強の呼び声高いウヅキがそれ言っちゃいます!?」


 はい、完全な追い打ちでした。


「おい、サーシャ、目が据わってるぞ……」


 お嬢さま口調も完全にどっか行っちゃってるし。

 っていうかやっぱ女の子から見ても世代最強クラスなんだな、ウヅキのおっぱいは……ごくり。


「ふふっ、みなさんどうぞお笑いになって……我慢などなさらずに、好きなだけ笑ってくれてよろしいのですわ……先日の身体測定でも、トップとアンダーの差がまさかのマイナスになってしまった、この惨めなわたくしのことを……」


「えーと……その……」

「うにゅ?」


「い、いや、まぁそのなんだ、そういうことも、あるかも、っていう……?」

 なにそれ笑えねぇ……マジ笑えねぇ……。


「それを見た計測係の人のお情けで、記録上だけは差し引きゼロにしてもらった……そんな、実は海抜ゼロですらない、この憐れな低湿地帯のようなおっぱいを! 悲しみの涙に湿気(しけ)る低湿地ぱいだと、笑えばよいのですわーー!!」


 サクライ家に、悲しみに染まったサーシャの慟哭が響き渡った今日この頃。

 世の中にはいろんな格差があるけれど、なにはともあれ平和な日常であることは素晴らしいことだと思います。

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