第13話 ラブコメ系A級チート『肩車』
「この辺りが『月華草』の採れる場所です」
ウヅキと連れ立って向かったのは、森の中でここだけパッと急に開けた、そこは広場のような場所だった。
かなり広く、人の背丈よりも高いごつごつした大きな岩があちらこちらに転がっているのが目に付いた。
「なんか全体的に白っぽいな……なんだこの石?」
「あ、ありました。あそこ、あの一番大きな岩の上です」
疑問はさておき、ウヅキの指差した先を見やると、少し高い岩の上に、小さく涼やかな白い花をつけた草が生えていた。
駆け寄ったウヅキは、背伸びをしながら必死に手を伸ばすのだが、
「うんしょ、うんしょ」
いかんせん、どうしようもないくらいに、ぜんぜん高さが足りていない。
見た感じ、ちょうど肩車をして手を伸ばしたら届きそうな高さだな。
「よし。ウヅキ、俺が肩車するから肩に乗ってくれ」
「そ、そうですね……ちょっと無理そうなので、すみませんがお願いできますか」
俺がしゃがみこむと、ウヅキがそっとまたがってきた。
――途端、ラブコメ系A級チート『肩車』が発動する。
「……いやいや、チートに分類されるべき『肩車』ってさ。普通こっちじゃなくて、柔道の担ぎ技の方じゃないのか? 常識的に考えて。しかもA級って……今度こそ設定ミスか……?」
「セーヤさん?」
「ごめん、独り言だから気にしないで……じゃあ持ち上げるから、ちゃんと捕まっててね」
「はい! ……あの、重かったすぐに言ってくださいね」
「そんなことないと思うけど、一応了解だ」
言って、俺はすっくと立ち上がった。
「お、重くないですか?」
恐る恐る聞いてくるウヅキだが、
「全然、むしろ軽いくらいだよ」
おっぱいは大きい――じゃなくて、肉付きは悪くないのに、でも全然重くなんてない。
理想的な女の子の身体つきをしているんだろうな。
あとはまぁ一応、ラブコメ系A級チート『肩車』の効果があるのかもしれないけど。
「良かった……じゃあ、いきます」
「ん、危ないからちゃんと俺の頭を押さえててね」
「はい、セーヤさん」
ウヅキが左手で俺の頭を抑えながら、右手と身体を伸ばしていく。
万が一にもウヅキが落ちないようにと、俺も膝の上あたりを優しく掴んだ――のだが。
「すっげーすべすべで、やわらかい……」
膝上とは、言いかえれば太ももの下部である。
下部と言えど、太ももは太ももである。
つまり俺は今、ウヅキの太ももをお触りしてしまっているのだった!
女の子の太ももをじかに触るという初めての体験。
その柔らかさときたら、柔らかいのに弾力があって瑞々しくて。
しかも包み込むような優しい温かさをそなえていて。
思わずなでなでしそうになる両の手を、意志の力でどうにかこうにか抑え込む。
「ん……もうちょっと……です」
あとちょっと、ギリギリ届かないのか、ウヅキが次第に中腰になっていく。
「ん、んん――えいっ――」
と、パスんと、急に目の前が真っ暗になった。
突如として、俺の顔に柔らかな布のようなものが覆いかぶさったのだ。
「まさかこれは――!」
な、なんということだろうか。
ウヅキが腰を浮かせたために、俺の頭がウヅキのスカートの中に入り込んでしまったのだ!
仕立てのいい内側の布地が、さわさわと俺の頭を優しくなでる。
同時に首の後ろに押し付けられた、すべすべの繊維的な感触。
生物学的、及び人体構造的な知見から推察するに、今この、この首筋の後ろにある部位は、ウヅキの股間……!
つまり今触れている布的な物体の名称は、ウヅキのパンツ……!
しかもなんかぷにっと肉厚で柔らかいのは、その奥にある女の子の秘密の花園的なものまでしっかり押し付けられてる的な!?
「つまりこの一連の流れを誘発したのが、ラブコメ系A級チート『肩車』ってことなのか……!」
異世界転生局、お堅い真面目ちゃんの振りして、一体なにを考えてんの!?
いやいいんだけどね?
全然いいんだけどね?
「えい、えいっ――あ、採れました! 採れましたよ! って、はわわわ――っ!? セーヤさんがわたしのスカートの中に!?」
戦果を報告するべく下を向いたウヅキは、ここにきてようやっと状況に気付いたようだった。
「ぁう――あの、えっと――」
目に見えてあわあわしはじめる。
「お、落ち着いてくれウヅキ。これはその、違うんだ、あくまで事故であって、決してわざとスカートの中に顔を突っ込んだわけじゃなくてだな――」
「わ、わわわ、分かってます、分かっていますとも! セーヤさんはそんなことするようなハレンチな人じゃないって、わたし、分かってますから! さすがです、セーヤさん!」
おっけー、明らかにウヅキは狼狽してるね。
スカートの中に顔を突っ込んでおいて「さすがです」と言われるのは、さしものS級チートをもってしてもありえない。
……とかなんとかやりとりしながらも、肩車されている以上どうすることもできずに、あたふたしつづけていたウヅキが、突然ふっとバランスを崩してしまい――。
「はわ――っ」
可愛い声を上げながら落ち始めた――!
――だがしかし。
全チートフル装備の俺が、こんなことでウヅキを落として怪我させる、なんてことはたとえお日さまが西から昇ったってあり得ない。
いやまぁ、この世界のお日さまがどっちから昇るかは知らないんだけど。
そんなことを考えられるくらいには、俺は冷静だった。
ラブコメ系A級チート『お姫様だっこ』が発動し、膝のクッションを使って衝撃を完全に殺しつつ、危なげなくウヅキをキャッチして抱きかかえる。
「悪い、大丈夫だったか?」
胸元に引き寄せたウヅキに優しく語りかけると、
「わにゃっ、セーヤさんの顏がこんなに近くに……ふぇぇぇ……きゅう」
「っておい、ウヅキ、おい、急にどうした? って、気絶? おーい、ウヅキ、おーい!」
呼びかけの甲斐あってか、ウヅキはすぐに目を覚ましたものの。
一連の流れがよほど恥ずかしかったのか、しばらくは俺の顏を見ては顔を真っ赤にして視線を外す、というのを繰り返していた。
そんなウヅキはそれはもう、見ているだけでご飯三杯はいけそうなくらいに可愛かったのだった。
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