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第123話 繋がる世界

「でもお父様、これでようやっと懸案事項が一つ解決しましたわね」

 サーシャが一安心、って感じで言った。


「おうよ。ヘルプで呼んだ初生ひな鑑別士を乗せた隊商が妖魔の群れに襲われた時には、どうなることかと思ったけどな」


「妖魔の群れ……トラヴィスの隊商……」

 なんかすげー聞いたことがあるワードだな。


「怪我は大したことなかったんだがよ。なにせ死ぬ思いをしたせいで精神的にかなりまいっちまって、とてもそのまま仕事をさせるわけにはいかなかったんだ。だからにーちゃんみたいな凄腕の職人が募集に応じてくれて、ほんと助かったよ」


「なぁ、それって2,3日前に森の街道で100を超える妖魔の群れに襲われた話だよな? で、その妖魔の群れはアウド村で全滅させられて――」


「なんだ、にーちゃん知ってたのか。ちょいと訳あってその辺の情報は極力伏せるようにしてたはずなんだが。なかなかどうして意外と情報通なんだな」


「ふっ、情報通も何も。何を隠そう、あの妖魔の群れを全滅させたのは他でもない、この俺なのだ……!」

 鼻高々で武勇伝を誇る俺に、


「おいおい……っ!」

「駐留騎士団から旅の剣士がたった一人で一匹残らず妖魔を討滅したと聞いておりましたけれど……それがまさかセーヤ様だったなんて!」


「確かに場所とタイミングを考えれば、《王竜を退けし者(ドラゴンスレイヤー)》マナシロ・セーヤ様が関わっていたであろうということは、当然導き出される結論ではありますね」


 三人が三者三様の驚きをみせた。

 ……ごめん、最後のメイドさんはまったく驚いてないです。

 ちょっと俺、誇張しちゃいました。


「いやほんと、何気ないところで世の中って繋がってるんだな……」


 おっちゃんがさっき世の中は狭いって言ってたけれど。

 うん、まったくもってその通りだと俺も実感したのだった。

 ってな感じで世間の狭さを目の当たりにしつつ、


「すごいな、にーちゃん。どうやったんだ?」

「いやいやなーに、それほどでもないさ。普通のことをしたまでだから」


 次々と投げかけられる賛辞に、澄ました顔をしながらもその実とっても気持ちよくなっていると、


「なぁ、にーちゃん……いやマナシロ・セーヤ殿。昨日だけじゃない、その前からずっと助けられていたとは露知らず。恩知らずにも最初は偉そうに、その後は馴れ馴れしく接してしまったこと、ここに非礼をお詫びいたします」


 突如、おっちゃんが人が変わったかのように、丁寧な言葉を投げかけてきたのだ。


「な、なんだよおっちゃん、急に改まって」


 急に偉い人に下手(したて)に出られたら、意図が読めなくてビビるんだけど……。

 おっちゃんはしかし、折り目高い口調を崩すことなく言葉を続ける。


「別にこの街の代表を気取るわけではありませんが、それでも言わせていただきたいのです。助けていただき本当にありがとうございました。おかげで街も人も――大勢の命が助かりました」

「よ、よせやい……」


「感謝の証として、この先トラヴィス商会はマナシロ・セーヤ殿に最大限の便宜を図ることをお約束いたしましょう。これはトラヴィス家当主マルテ・トラヴィスの、公式の発言として受け取っていただいて構いません」


「お、おう、ありがとう。それはすごく助かる、けど……でもその前にひとつだけ、いいかな? 『殿』って付けて堅苦しく接するのはやめてほしいんだ。なんて言うかさ。俺の中ではおっちゃんはもう、おっちゃんなんだよな。今更その関係を変えろってのは、なんか違うって言うか」


 今の今まで和気あいあいと朝ごはんを食べていたのに、急に「マルテさん」「マナシロ殿」とか呼び合うのはもはやコントでしかないだろ?


「それは救世主マナシロ・セーヤ殿のご要望ということでしょうか?」

「……ああ、そうだよ、おっちゃん」

「そうですか……わかったよ、にーちゃん」

 

 さっきまでの真剣な表情はどこへやら。

 人好きのする笑顔でそう返してくるおっちゃんだった。


「うん、やっぱりこっちのがしっくりくるよ」


 それにしても、だ。

 なんという僥倖(ぎょうこう)だろうか?

 今風に言うなら神展開ってやつ?


 だってさ、これはつまり、アニメの主人公によくある、パトロン的な存在キターーー!ってことだろ?


 例えば合宿イベントで別荘を提供してくれたり、遊園地の特別招待チケットをくれたりする、モテモテハーレムをエンジョイするにはなくてはならない素敵な存在なのである!

 これはもう、女の子たちとの魅惑の合宿イベントを計画しろと言われているに等しいよな!


「決闘した砂浜がかなり綺麗だったよな。つまり海合宿……となればやはりここは王道の水着イベントだろ常識的に考えて! ウヅキの水着……溢れんばかりのおっぱい……にゅふふふふ……」


「マナシロ様、僭越(せんえつ)ながらご忠告を。途中から心の声がこっそり漏れ出ておりますよ」

「えっ!?」


 俺の隣のメイドさんが、ボソッと口の中だけで発する小さな声でつぶやいた。

 口元は全く動いていなかったので、一瞬空耳かと思ったほどだ。

 なにその目的不明の超高難度スキル……筆頭格メイドさんになるには腹話術も必須なの?


 っていうか、

「え、マジで俺、声に出してたの?」

 こわごわと小声で聞いてみる俺。


「ご安心くださいませ。これは筆頭格メイドの高い聴力故に聞き取れたこと。お二方には聞こえておりませんので」

「おぉ……そうか!」

「全ては私の胸の内に秘めておきますので、マナシロ様はどうぞお気になされませんよう」


「その言い方がもう弱み握られたみたいで怖いんだけど……」

「どうぞお気になされませんよう」

「あ、はい……」


 無表情で口元すら動かさないからほんと怖いんですけど……。

 うん、この人が近くにいる時は、ちょっと言動に気を付けよう……。

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