第117話 メイドさんとひよこするお仕事(意味深)
「さて、じゃあまずはこれだ。耐久系S級チート『24時間戦えますか』発動!」
俺は一つのチートを発動した。
これは文字通り24時間ぶっ続けで、疲れ知らずで働き続けることができるチートである。
しかしながら単に疲労を先延ばしにするだけで、言ってみれば元気の前借りをしているだけのため、使用後は積み重なった疲労から熟睡してしまうというペナルティがあった。
結局のところ総合的な睡眠時間は変わらないので、乱用は避けて、ここぞの時のために残しておきたいチートの一つである。
そして今回、俺のアシスタントとして派遣されてきたのが――、
「君って確か、昨日の夜――、いやもう日付けは今日に変わってたっけ。アウド村まで送ってくれた馬車の、御者をしていたメイドさんだよね?」
「覚えていただいて光栄です! 私はミリア・ビヤヌエヴァと申します! 本日はマナシロ様のアシスタントを仰せつかりました! どうぞよろしくお願いしますね!」
昨日の今日、どころか今日の今日に顔を見た快活なメイドさんだった。
その時と全く変わらない元気で明るい挨拶は、文句なしに好印象だ。
「ご要望があれば何でも仰ってください! 全身全霊をもってマナシロ様に極上のご奉仕をお約束いたしますので!」
可愛らしくお辞儀をすると、美しいショートの銀髪がさらりと揺れた。
ところで全身全霊を込めた極上のご奉仕ってなんなのかな?
とっても気になるんだけど?
つまり肌色いっぱいのミニスカメイドさんが、その身体を余すところなく使った最高のご奉仕をしてくれるってこと……?
ミニスカニーソに挟まれた柔らかそうな魅惑の絶対領域に、俺の秘密のタッチペンでにゅるにゅるもにゅっと大人のお絵かきをさせてくれちゃったり?
「ご、ごくり……」
……いやいやおっと、思考が桃色天国になる前に軌道修正をしておかなければ。
「ビヤヌエヴァってことは……えっと、クリスさんの妹さん、なんだよね?」
確かやり手の鬼畜メイドさんが別れ際に、妹がどうのと言っていたはずだ。
「既に姉ともお知り合いだったんですね! 姉は私と2歳しか違わないのに、もう筆頭格メイドに選ばれた、自慢の姉なんです。仕事ができて優しくて、綺麗で……。私の一番の憧れでもあるんです! いつか私も姉のような、素敵な筆頭格メイドになるのが夢なんです!」
「うん、まぁ、ほどほどにね……」
こんな純粋そうな女の子が、時が経つとともに辣腕をふるう鬼畜メイドさんへと進化してしまうのだろうか……?
時の流れというものは、なんて恐ろしいものなんだ……。
「個人的には、はつらつとした元気で明るい今の君も、十分すぎるほどに素敵だと思うよ?」
「マナシロ様にそうおっしゃってもらえて、私、お世辞でもすごく嬉しいです!」
「ぜんぜんちっとも、お世辞じゃないんだけども……」
むしろ今のままでいてほしい切に願っているというか。
「そうだ、それとさ、『様』はやめようよ。俺たちどう見ても同い年くらいでしょ?」
あ、一応言っておくと、俺は永遠の18歳なんで……。
ああそういえば。
肉体的に若返ったことが影響しているのか、なんとなく心や思考も若返っているような気がする今日この頃。
俺の果てなき欲望に支えられた気高き童貞力は、さらに戦闘力を増している感があった。
「ですが、マナシロ様はこの街を救った英雄さまで、しかも初生ひな鑑別の高度な技能保持者だとうかがっております。そのような失礼なことは――」
「じゃあその『英雄さま』からのお願い。『様』はやめてくれないか。誇り高きトラヴィスのメイドさんは、もちろん『英雄さま』のお願いを、快く聞きいれてくれるよね?」
「それは、その、もちろんですけど――」
「はい、じゃあ『様』はなしね。あ、これもう決定事項だから。もう拒否権はないからね」
「ぁん――っ!」
ビクンッ!
と俺のウインクを受けたミリアちゃんが、唐突に身体を震わせながら硬直させた。
ラブコメ系S級チート『ただしイケメンに限る』キラリン!
――とともに、ラブコメ系A級チート『ちょい俺様』が発動していたのだ。
同系であるオラオラ上等の亭主関白なラブコメ系A級チート『俺様』と比べて、全体的にマイルドな俺様っぷりがセールスポイントのチートらしい。
「その微妙な差異に対する、無駄にしか見えない拘りは一体なんなの……?」
あとちょっと気付いたんだけど、ラブコメ系のチートは特に、相手に合わせて効果的なのが自動的に選ばれて発動してるっぽいね。
その辺は至れり尽くせりである。
なんせ女の子の性格や胸に秘めた願望を見抜いた上で自分を演出しセルフプロデュースする――、なんて超高難易度なテクニックは、童貞歴32年の俺にはどう考えても敷居が高すぎるので。
「あ……っ、はい……。ほんと、マナシロさんはすごい人なのに、全然えらぶったところがなくて……もう、ずるい人です……」
なんて、頬を染めて上目づかいにつぶやくミリアちゃん。
元気っ子がふと見せてしまった乙女な姿……すごく可愛いと思います!
そして『ただしイケメンに限る』は常駐で効果を発揮してくれているんだけど、ここぞの場面で意識的に使うとさらに効果が増すということも、俺は理解しつつあった。
様々な戦いや修羅場を乗り越え、ただチートを使うだけではなく、効果的な使い方を着々とマスターしている俺なのだった。
向上心の塊こと、麻奈志漏誠也。
全てはそう、モテるために!!
「あのっ、それでしたら私のこともぜひミリアと呼んでいただければ……」
「オッケー、ミリアちゃんね」
「ありがとうございます! 嬉しいです!」
女の子の名前を呼ぶのにもすいぶんと慣れてきた俺は、さらっとミリアちゃんと呼んでみせた。
「ふっ、これが……これがモテるということか――!」
女の子の名前を呼ぶたびに、俺はモテのなんたるかをガッツリ実感するのだった。
ああ、生きてるって素晴らしい――!!
異世界転生最高!