第11話 可愛い女の子にいいカッコしたいんだ、したいんだよ!
「このあたりは、大陸の3分の2を占める巨大国家・シュヴァインシュタイガー帝国の東端にあたる、東の辺境、極東とも言われる地域です」
隣を歩くウヅキがこの世界のあれこれを、分かりやすく説明してくれる。
魅惑のぺろぺろタイムが終わり、今は街道まで案内してもらっている途中だった。
「主な産業は農業と畜産業で――あ、とくに養鶏は帝国内でも有名なんです。なんと帝都にある皇室御用達の三ツ星レストランで出されているのは、この地域で生産された地鶏なんですよ」
この世界の人間なら誰でも知ってるであろうことでも、ウヅキはひとつひとつ優しく丁寧に教えてくれていた。
幼い頃からずっと修行漬けの日々を送っていて、そのせいで世事には疎いんだという――どうにかひねり出した――雑い説明も、さっきの活躍とラブコメ系S級チート『ただしイケメンに限る』のおかげもあって、ウヅキは信じてくれたようだった。
『実は俺、異世界から転生してきたんだ』
なんていきなりカミングアウトするわけにはいかないしな。
「だからわたしと同い年くらいなのに、あんなに強かったんですね。さすがです、セーヤさん!」
今さらだけど、俺は18歳くらいの年齢に若返っていた。
アイドル系S級チート『永遠の18歳』のおかげである。
なんとなく心まで若返っている気がする。
「子どものころからやり直しもせず、いい感じの若さからリスタートできるなんて、ほんと異世界転生さまさまだな……」
2度と会うこともないだろうが、こんな素晴らしい異世界転生を用意してくれたアリッサには、感謝してもしきれないな。
しかもだ。
ラブコメ系C級チート『箸が転がっても笑う』のおかげで、
「おじいちゃんがタケノコをとってたらクマが出たんです」
「それはクマったね」
なんていう、正直自分でもどうかと思ううすら寒いギャグでも、
「うふふ、セーヤさんは面白い人ですね」
なんて楽しそうに笑ってもらえるのだ。
可愛い女の子ときゃっきゃうふふ楽しく話すのって、なんて、なんて幸せな時間なんだろう……!
異世界転生者に選ばれた幸せを、ウヅキと出会ってからのほんの短い時間の間に、俺は何度も何度も再確認し、堪能していたのだった。
「ウヅキはこのあたりに住んでいるのか?」
「少し行ったところにある村に住んでいます。今日は街の学校からの帰りに、ちょっと足を延ばして薬草を取りに来たんです」
「ああ、だからそんな恰好なのか」
「これは学校の制服なんですけど……あの、えっと、やっぱり変でしょうか?」
スカートの裾を、髪を整えたりと、急にそわそわし始めたウヅキ。
「いや、そんなこと、ない、と思うぞ……」
「本当ですか! えへへ、セーヤさんにそう言ってもらえると、なんだかとっても嬉しいです」
くっ、本当は似合ってるとか可愛いって、ちゃんと褒めてあげたいたのに、思わずヘタレてしまった……!
こんな凄いチートを貰っていながら、俺のバカ! ヘタレ! アホ! 童貞!
「セーヤさん?」
「ごめん、なんでもないんだ……ちょっと自分を見つめ直していたというか……」
しかもこんなヘタレのダサダサにもかかわらず、各種チートのおかげで、
「自分を見つめ直すなんてすごくカッコいいです! さすがです、セーヤさん!」
なんて言ってもらえるのだ。
はぁ幸せだなぁ……
「薬草ってことは、家族の誰かが病気だったりするのか?」
「あ、えっと、その……実は妹は昔から身体が弱くて伏せっていて……町で薬を買うお金はないので、万病に効くと言われる『月華草』と呼ばれるC級薬草を取りにきたんです」
「あ、うん……」
想像以上に重い話だった。
何の気なしに軽く聞いちゃった自分を殴りたい。
「その途中で妖魔の一団に襲われてしまって、なんとか逃げていたところを、セーヤさんに助けてもらったんです」
「そ、そっか……大変だったな……」
返ってきた想定外の重い話に、小学生の感想みたいな返ししかできなかったのに、
「い、いえ、そんな、セーヤさんに心配してもらうようなことではありませんので!」
ウヅキは元気いっぱいの笑顔を作って、俺に心配させないようにと気を使ってくれるのだ。
「おかげでセーヤさんのカッコいいところを見れましたし! 役得です! さすがです、セーヤさん!」
「あ、ありがとうな」
本当にいい子だな……
胸がキュンと熱く高鳴った。
「あっ……」
俺の顔に見とれていたウヅキと目が合うと、ウヅキははにかみながら染めた頬を隠すように視線を外す。
ラブコメ系A級チート『憂い顔のイケメン』が発動していたのだ。
何の深みもない&しょうもない感想しか言えなかった俺だが、ウヅキにとってはイケメンが優しく親身にいたわってくれたように感じたことだろう。
――でも。
今に限っては、俺はチートでモテモテうんぬんよりも、話の内容についてばかり考えていたのだった。
高度な国民皆保険システムを、当たり前のように享受してきた日本人の俺にとって、薬も満足に買えないなんて話は想像もしない事だったからだ。
その苦労たるや、どれほど大変なことだろうか。
妹のためにと、危険を冒してまで薬草を取りに来たウヅキを――俺はそんなウヅキを助けたいと心から思ったのだ。
同情からではない。
ウヅキが可愛い女の子だからでもない――いやそれはあった、ごめん。
めっちゃあった。
いいカッコしたかった。
可愛い女の子にいいカッコしたいんだ、したいんだよ!
ウヅキみたいな可愛い女の子からもっともっと、
「さすがです」「素敵です」「格好いいです」「抱いて!」
って言われたいんだよ!
分かるだろ!?
いやそうじゃなくてだな……って、何の話だっけ?
まぁいいや。
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