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第98話 やれやれ、ちょっと本気出すとするか……

「さぁ、この中からどうぞ好きな弓を選んでくださいな?」


 ついてくるようにと言われた先は、射場のすぐ脇にある――、なんだろう、武器庫?

 色んな種類の弓がたくさん置いてあって、しかもそれが全てこの金髪ぺたん()お嬢さまの私物らしい。


「どこの世界でも、お金ってあるところにはあるんだよなぁ……」

 それが理不尽だとは思わないけど、ぶっちゃけ羨ましくはある。


 ……えっ?

 こういう時は普通は逆だろって?


 ふっ、愚か者めが!

 この俺がそんなできた人間だとでも思ったか!

 お金持ちなのは心底羨ましいに決まってるだろう!


 おっと、話を戻そう。


 この中から一つ好きに選んで使っていいとのことなので、多種多様なそれらをざっと眺めてみてから――、


「じゃあ俺はこれを」

 俺が選んだのはこの中で一番大きな、そして質実剛健な機能美が実に見事な長弓(ながゆみ)だった――、のだが、


「――ふっ、ふふふ……あはははは! あなた! それが何か知っているんですの?」

 金髪ぺたん()お嬢さまは、俺の選んだ弓を見た途端に腹を抱えて笑い出したのだ。


「何って、そりゃ弓だろ? 何がおかしいんだよ?」

「だって、これが笑わずにいられまして?」

 言って、目元の涙を指ですくいながら金髪ぺたん()お嬢さまは言葉を続ける。


「弓は弓でも、それは『ワキュウ』と呼ばれる扱いが非常に特殊な弓ですわ。わたくしだってワキュウはまだ完璧には使いこなせませんのに、それをあなたが? まったく、無学というのはそれだけで罪ですわね? ぷー、くすくすくすくす――」


「ワキュー? ……ああ、和弓か」

 日本人的には弓と言えばこれだから、改めて『和弓』と言われると一瞬ちょっと戸惑うな。


 そして可笑しくって仕方ないって感じの金髪ぺたん()お嬢さまは、ひとしきり笑い終えると、


「別の弓に交換するなら、今のうちでしてよ? それと後から下手な言い訳でもされると(しゃく)ですので、あらかじめ言っておきますけれど。ここにある弓はどれもこれも超が付くほどの一級品ばかりですの。そのワキュウも、とある蒐集家(しゅうしゅうか)から格別の御配慮をいただき譲っていただいたもの。ですから間違っても、道具のせいにされないことですわ」


「いやこれでいい。道具を言い訳にするつもりも毛頭ないさ」

 既に弓に関するS級チートは、待機状態で稼働済みだ。

 そいつが「これを選べ」と言っているのだから――!


「わたくしは慈悲深い女ですの。だからあなたに、もう一度だけチャンスを差し上げますの。今からでも遅くはありませんわ。無礼を謝罪をするというのでしたら、全て水に流して差し上げてもよろしくってよ?」


 美しい髪をさらっとかき上げながら告げる姿は、なかなかどうして様になっていて、可愛いじゃないか。

 でもな――。


「構わないからとっとと始めようぜ。俺はこの後、ディリンデンの街を見に行きたいんだ。ちんたらしてるとゆっくり見て回れないだろ」

 もらったお小遣いで、一つ買いたいものもあるしな。


「……本当にいい度胸ですの。それだけは認めて差し上げますわ。ですが誰に喧嘩を売ったのか、そのことを後で死ぬほど悔い改めることですわ――!」


 そうして一触即発の俺たちは射場へと向かうと、


「では、わたくしから始めますわ」

 言うが早いか金髪少女は、弓をつがえると90メートル離れた(まと)に向かって矢を射放った。


 トスン!

 と、小気味よい音がして、矢は(まと)のほぼ中央にピシャリと的中する。

 

(さすが、おみごとですわ!)

(なにせ真ん中を外したところを見たことがありませんもの!)

 ギャラリーから、その見事な腕前を褒めたたえる声がいくつも上がる。


「ふぅ、まずまずの結果ですわ。さて、次はあなたの番ですわよ?」

「一応確認なんだけどさ、お前の矢より内側に()てれば、俺の勝ちってことでいいんだよな?」


「ええ、そうですわね。(まと)の中央を射抜いたわたくしの、さらに内側などがありましたら、ですけれども」

「いや、ほぼ中央だろ。言葉は正確に使ったほうがいいぞ」


「なんですって!?」

「ほら、次は俺の手番だ。終わった奴は向こうに行ってな」

「ぐぬぬぬぬぬ……!」


 さて、と。

 とっとと文句なしの結果でもって、この茶番にケリをつけるとするか。


「戦闘系S級チート『那須与一(なすのよいち)』発動――!」


 それは源平合戦に英雄としてその名を残す、伝説の弓の名手の名前。

 その名を冠した弓系の最高峰チートの前では、動かない的にただ()てることなど、児戯に等しい――!


 俺は一度、大きく深呼吸をすると、


 立ち位置を決め、

 姿勢を整え、

 弦に指をかけ、

 弓を持ち上げ、

 弓を引き、

 狙いを定める――。


(ぷーくすくす、弓のあんなに下側を持っておりますわ)

(弓は中央を持つのが基本中の基本ですのに)

(おおかた大きければ良い、とでも考えたのでしょう)

(やはり格好だけのニセモノですわね)

 ギャラリーが失笑のさざ波を立てる中、


「いいえ……! ワキュウは世にも珍しい非対称弓。それにこれは射法八節! ワキュウを射る時の儀礼作法ですわ! 古い文献にわずかに残るこの秘儀をいったいどこで……? しかも完璧なまでのその所作は、惚れ惚れするほどの美しさですの……! この男、いったい何者ですの……!?」

 金髪ぺたん()お嬢さまだけが一人、(おのの)きの声を小さくあげていた。


 ギャラリーの失笑にも金髪少女の戦慄にも、俺は特に気負うことはなく。

 まるで息を吐くように自然なままに、つがえた矢を解き放つ。


 キーン!

 大弓が鮮やかにくるっと弓返りを見せるとともに、心地よい弦音(つるね)が木霊して――、


 ストン!

 俺の放った矢は見事に的の真ん真ん中に――、金髪少女の矢をかすめるようにして、さらにその内側へと突き刺さっていた。


 予想外の結果を前に、


「弓まで扱えるなんて凄すぎです、さすがです、セーヤさん! ……って、あの?」

 俺のことを嬉しそうに褒めたたえるウヅキを除いた、ギャラリーの誰もが言葉を失い――。


 いまだ残心の境地にあった俺を中心に、周囲は静寂に包まれたのだった。

「無敵転生」をお読みいただきありがとうございました。

よろしければブックマークと評価をいただければとても嬉しく思います(ぺこり

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