天と奈落に至る塔
シリアス回
人類の覇権争いに勝利し
悪魔や天使を従えたソロモンは世界を見下ろしていた。
比喩ではない…ここはソロモンが建造していた巨大塔「バベル」の頂上
山を越え雲を越え大気圏さえ突き抜けて宇宙に達した塔だ。
「ここから見ると世界は、ひどく小さく見えるな」
知識としては知っていた。
ソロモンは優れた統治者であると同時にすぐれた科学者だ。
捉えた天使、呪いで縛った悪魔達の英知も手に入れた全知の存在。
…しかし、全知である事と、経験は異なる。
「この場所から世界を見下ろしていた天使達はもういない…つまりだ、わしは今
世界の頂点にたったのだ」
…思えば長い道のりであった。
小国同士の終わりない戦乱の世、狭い地上で地虫のように人々は踊らされていた
悪魔が災いを撒き、天使が助ける。
そのことにより人々はただただのたうち踊るのだ。
「心」が無い、遥か昔の人々はそれでよかったのだろう
天使と悪魔のシステムは、心無い人形を躍らせるためのシステムとして優秀だった。
…しかし
世界は成熟し、神は「グレゴリ」により
“最初から設定されていた封印されたプログラム”=“心”を起動させた。
…地上は崩壊し、ノアの洪水により一度消されたが
箱舟により、再生をされた。
…再び役者たる人間は地上で増え、悪魔と天使が舞台を揺らす。
しかし、問題はグレゴリシステムにより開いた心の力が人々から消え去っていなかった事。
「心を手に入れた人間に天使と悪魔は必要がなくなったのだ…いや、邪魔だともいえる」
…ソロモンは塔を作った。
そして今天使は地におり、悪魔も地上に集まってきた。
「第二の月が完成しだい…ノアを起こすのだ。今度は天使と悪魔が洪水に沈み…我々は新しい大地に降り立つ」
……
…………
………………
答える者はいない。
彼に従う者は既に命をなくした屍ばかりだ。
死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体
ソロモンは塔の中央に運ばれた、巨大な結晶の中の死体を愛おし気にみやる。
「リトルディアよ…かならずお前を蘇らせるぞ」
それはソロモンの娘であった。
そしてソロモンは月を見やる、死者の魂が向かうという死の世界だ。
「母さんも探そう…こんどこそきっと…」
……
…………
………………カタカタ
「ソロモンサマ ガブリエス ガブリエム ジゴクニソウカン」
「ソウサクチュウ ノ ガブリエス ラファエル イゼンミ ツカラズ」
「良いだろう4大天使の2角は落とした、もう天使は脅威ではない」
…悪魔も支配者級は呪いで抑えてある。実質、もはやソロモンの脅威は無いのだ。
「天使と悪魔全軍が協力すれば厄介だが、あり得ない事よ。もう…あとは事を成すだけだ」
地上を併合し、科学と魔術研究の基盤を整え
順番に下級の悪魔や天使を捉え力を増し、一気に悪魔を制圧した。
一手間違えれば万死にあたるような難題を乗り越え
最大の難関と思われた「天に至る塔」も完成だ。
「天に届くとは無理な事だ…この空に果てなどない」
ソロモンは死せる部下達に呟いた
その頭上には、果ての無い暗黒が続いている。
「…まるで奈落のようではないか…」
どこまでも行っても
何を成しても
何を乗り越えても地獄なのだろう…しかし
人間、ソロモンは止まれない。
一度掲げてしまった目標を
付いてしまった心の炎を
もはや取り消す事は出来ない。
“愛する者が死んだなら?あなたは一体どうしますか?”
「蘇らせるさ…どんな地獄が待っていても」
ケタケタとアンデット達が笑い始める
ソロモンに付きしたがって殺され実験で蘇らせられた者たちだ
呪いで縛られ何も出来ないが
彼らにとって娯楽はソロモンの苦悩を眺める事…実に楽しい。
実に愉快。
知らない者がみれば背筋の凍る光景だ。
…しかし、ソロモンは気にしない。
風の音や木々のざわめきを気にしても仕方ない事だ。
「…………」
ケタケタケタ
ケタケタケタ
ケタケタケタ
「さて、月の建造に必要なさいごの素材を集めよう…“天使狩り”だ」




