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インテリ・メガーネ~神の肉体を持つ叡智の化身~   作者: 前歯隼三
堕落せし天使長編(プロローグ)
31/42

グレゴリの悲劇

ようやく

プロローグがおわった


「ガブリM様…どうかソロモンに天罰を」

「まぁ…待て、私は“悪”を喰らう者、ソロモンは悪なのか?」


「ではガブリS様…どうか」

「私は“厄災”を喰らう者だぞ」


「では…ガブリL様は?」

「天使長は下界だ」


「そうですか…では…」

「駄目ですよ?天使狩りも悪魔狩りも、地上の掃除も…全て“彼”を裁く者ではありません」


「えぇ…ですが…“奴”は悪魔ばかりでなく、ついに我々“天使”までも召喚し支配をはじめました。」

「えぇ…ムーヴェセルの事ですね、お気の毒です。…しかし彼女は…」


 ここは天界だ。

 翼ある天使だけが来れる空の果て、闇の中、星々と太陽が輝く果てしない世界。

 ここで天使たちは地上を見守り、延々と“役割”を果たし続ける。

 命を生む天使は永遠に命の光を地上に注ぎ、死を生む天使は永遠と死の光を注ぎ続ける。

 天使たちは神が作ったただの人形だ、特に上位の存在ほどその傾向が強い。

 地上を混乱させる「悪魔」との戦いも「人」を守るのも導くのもであり…ただ、そうあれと造られたから条件がそろえばその様に行う。…まるで歯車、まるで人形。


「ムーヴェセルは人形じゃない!!」


 下級天使のゲッソリーは頭が痛い、上司達が無能で文字通りの木偶だ。


「何が厄災を喰らう者だ!グレゴリの発動を許し、ノアにより地上を滅ぼした張本人たちが!」


 上位天使の御前を離れ、溜めに溜めた感情が爆発する…歯車に、人形には無いはずのこの感情故に怒り、焦り、愛おしさ、悲しみ。


「あぁ!苦しい!切ない!この気持ちが!あいつらには無いのだ!アイツらは天高く!グレゴリの魔法の圏外に居た!…そしてあぁ今回も!」


 ゲッソリーは上司の説得を諦め地上に向かう、今回二度目の“グレゴリ”が起きたのがすべての始まりだ!

 グレゴリによる奴=“ソロモン”の強行!地上の混乱!天魔人入り乱れての大混乱だ!

 唯一の希望は「あの方」が天界でなく、地上に居るらしい事。


「天使長様がグレゴリに呪われていれば…ハハッなんという皮肉だ!」


 感情と言う呪いを受けたからこそ、今に至り…呪いを受けたからこそ解決に挑める。

 グレゴリとは「愛をもたらす魔法」であった、歯車たる天使や悪魔を人形から人へと貶める魔法。


 ゲッソリーは奔走する!…それが彼に与えられた役割だからだ。そのはずだった…昨日までは!

 しかし思うに…役割なぞ関係なくとも彼は走らずには居られぬだろう、彼を走らせる力は愛であった。


 役割か心か…しかし、やる事は一つ…ただただ奔走し情報を伝える。それしか出来ない。


「“心”を持った今!この無力がこんなにも…こんなにも辛いとは!あぁあ!ムーヴェル!」


 彼女は狂ったソロモンに召喚された最初の天使だ。

 なんの役割も与えられなかった…本物の人形、それがムーヴェル。

 意志無き彼女には拒否も抵抗も無い…だからこそ最初の犠牲となった。


 ソロモン王は彼女の天使の輪を奪いより力を増した。

 低級の悪魔しか配下に出来なかった彼が今や爵位を持つ悪魔を次々と陥落させて服従させているのは彼女の力…“天使の力”だ!


「あぁ!大丈夫だろうか?彼女は…彼女は酷い扱いを受けていないだろうか?」


 ゲッソリーの胸は張り裂けそうだ…彼女の姿を思い浮かべるだけで満たされ、彼女の運命を考えると胸が張り裂ける。


「あぁ!悪魔どもめ!あぁしかし!あぁ!苦しく!あぁ愛おしい!」


 さぁさ、人形の胸に火を灯そう

 明るく熱く 心を灯すよ

 さぁさ、これは神の望んだ心の扉

 開くよ 開くよ 鍵をあげよう


 閉ざされていた扉を開けば

 幸福と不幸が飛び出すよ

 人形は笑い涙を流す

 人形は心を手に入れて

 人形は心を砕かれる

 さぁさ、恐れないでね?

 大丈夫

 君はまだ人形言われたままに

 大丈夫

 君は鍵を手にして回すだけ

 大丈夫

 君は扉を開いて

 さぁさ

 

 鍵の名は“グレゴリ”

 開くは“血の螺旋”

 輝くのは“心”

 

 …それが彼の役割であった。悪魔「グレゴリ」は神から渡されていた鍵を使っただけだ。

 地上にはグレゴリの魔法が満ちて全ての血の流れる存在に「心」を開いた。

 それは…地上にいた天使や悪魔も同じ事だ、彼らの胸にも灯が灯った。灯ってしまったのだ。


 天使のある者は人間に恋をした。

 悪魔のある者は天使に恋をした。

 人間同士は愛し合い…それは平和の魔法に思えた。

 しかし…


 天使は愛した人間に火<力>を与えた。人は力を使い、人を殺した。悪魔は嫉妬し、人の首を刎ねた。


 あぁ

 あぁ


“あぁああああああああああああああああああ!”


 「グレゴリ」の力で世界は愛に満ちそして「地獄」へと堕落した。


 人形劇の舞台は生気に満ちて、歌と踊りに色めき血と絶叫に幕を引いた。


 君はこんな言葉を知っているかね?

「愛する者が死んだなら」

 答えはきっと

「生と死が二人を別つまで」


 あぁ!素晴らしい言葉だよ!

 これはブレーキだよ、ストッパーだ!生と死が二人を別つまで…そこで君は終わりにするだろうさ!

 苦しくても、辛くても、それで終わりにすべきだしきっと…「あの人」も望んでいる。

 そう…今の君は思うだろうさ!


 でもねぇ…その「考え」が生まれるまでは違ったのさ!

 これは「原初」の惨劇だ!前代未聞の「愛」と「分れ」の問題だ!


「愛する者が死んだなら」

 当時の人達は、天使は、悪魔はこう答えたろうさ


「私も(俺も)“僕”<わし>(わたし(ぼく>はハ葉はそうだあぁああ」


 「「「「「「死を選ぶ」」」」」」」


 生と死で別れるからなんだと言うのだろう?本物の愛ならば、純然たる愛ならば…そんな事では分たれない!


 これが「グレゴリ」の起こした惨劇だ。

 愛が起こした惨劇だ。


 地上を広がる死の連鎖、それを止めたのがノアの箱舟。

 連鎖の外に居た者だけを乗せ、地上を見捨て全て全てを洗い流した。

 船の者達は記憶を消して、魔法で心を封じ…


 さてと、これで一件落着だ。

 役者は減ったが元通り人形劇は続くはずであった。


 しかしだ、グレゴリが開いた扉は個々の中に無かった。

 解るかね?…そう

「血の扉」にあったのだ。


 あぁ…そうさ

 問題は先送りになっただけなのだ。


 ノアの子孫たちは今、地上で繁栄を広げている。

 心の開きはそれぞれであり、それが災いして悲劇は少ないし長い時間で「言葉の鎖」で制御をしている。

 彼ら人間は「そのように作られた」人形だからだ。


 愛する者が死んだら→土に埋める。

 歌い祈り涙を流し、華を手向ける…そしてまた歩き出す。


「すごいよ、本当に人間はすごい!」


 ゲッソリーは駄目だ、ムーヴェセルを思うと胸が張り裂けそうだ。

「あぁあああああ!」


 ソロモン王は心の扉が開いていない人物だった。

 だからこそ大国の王として的確に治め、殺し、平然と歩きつづけた「役割」を下級の悪魔を使いだしたのも効率だし何もなかったはずだ。

 妻が死んだと聞いた時も…その瞬間は何もなかったはずだ。


 しかし…小規模ではあったが第二の“グレゴリ”が地上で起きた。


 心が開いたタイミングと、妻の死があまりにもタイミングが良かったのだ。

 ソロモンは壊れてしまった、彼は壊れ…天使に手を出した。


「なんであの方々は動かないんだ?なんで心が痛まない!あぁなんてこった!神は…神はいないのか!

俺たちはなんなのだ!あの方々は神の使いか?本当か?」


 ピュウルルル…ビチャ 


 ゲッソリーの首が飛んだ。


 地上に戻る途中であったが、彼にそれは叶わなかった。

 天使の体は軽いのでカスミの様に崩れながら雲に溶ける。

  頭にあった光の輪が赤く雫を垂らしながらゆっくりと落ちる。


「キャハハハハ!一つ増えたわ!」


 断罪の天使ウナフェスタはくるくるとおどり、ゲッソリーの輪を腕に通す。


「あらあらウナフェスタ様、“天使狩り”は私の役割ですよ?」


 神を信じられなくなった天使を狩るのが“天使狩り”たるキーリングだ。

 彼女は上司の行いを責めた。

 グリモアの時にはたくさん殺せた、役目を果たせたが

あれからしばらくは仕事が無い。

 …それは上司のウナフェスタも同じ事だが


「あらあらあら…いいじゃないさ、大きく言えば私の役目よ?」


 楽し気に血濡れの手を舐めている。

頬は 上気し、なんともうっとりとした幸福な目だ。

 うらやましい。

 血は赤い霧となって空にとけウナフェスタの口の中に消えていく。


「クフゥ…ねぇ…役割からずれるのは「駄天」でいいのでしょうか?いいですね?」


「ウフフ…上司に逆らうのは「罪」よねぇ…クゥウックキャハハ」


 悪魔グレゴリはきっと死人の月で笑っている事だろう

こんなに世界を混乱させれば、悪魔冥利につきようものだ。

 彼もまた役割を果たしたに過ぎないわけだが、彼は何を思っているだろうか?


 ゲッソリーも月で泣いてるだろうムーヴェルは“月”に居たのだから。



 そんな世界でメガーネは地上に居た。

 いや…その時の名前はなんだったか…何せ3万年も前の話だ。

 グラース…そうだ、「グラース」地上では彼はそう名乗った。眼鏡を黒く塗って駄天していたからだろう。


 彼は地上に舞い降りた天使であったが彼の目には全てが堕落して見えた。


「壊せばいいか」とも思うが、彼は天使であり役割があった。

 彼は心に灯った何かを感じながらゆっくりと堕落した地上を回った。


 それが彼の役割だ、彼はただの監視しゃであり…ただただ、世界を見続けた。

 彼の心に溜まったのは愛ではなく虚しさだった。

 彼は役割を放棄した。

 眼鏡に炭を塗りたくり、何も見ない事にしたのだ。


 天使であるとバレると面倒なので髪も黒く染めた翼も黒くしてみた。


「いっそ悪魔に変装するのがいいかもしれませんね」


 彼は黒メガネ越しに服を改造し袖をちぎった、肩にトゲを付けた。


「よし…いいだろう…んん…あ…あぁー…」


…コホン


「よっしゃ!イカスゼ!ヒャッハー!」


 これは暗黒堕天使グラースと救いの天使メルシアの出会いの物語。

 そして、帝国の英雄メガーネと魔王ラグナの前世の出会いの物語である。

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