最終回 血の王と猫の王の戦い ~男爵となった首輪の少年~
最終回です
魔族の血が吸血鬼アネミーア16世の手に集まり赤黒い剣の形を成した。
魔剣“ヘモグロ”先代剣聖バッサーニを屠った伝説の刃だ。
「呼び出すのは300年振りですね…お久しぶりです。ヘモグロ」
ドックン
脈打つように刀身が蠢き、刃が裂け、口が生まれる。
“俺はお前の中に居たからなぁ…久しぶりって気はしてぇえぜぇ”
魔剣ヘモグロは吸血鬼の血その物、命を宿した意思ある魔血である、柄を掴むアネミーアの手首に根を張りそこから刀身にと血を吸い上げドクドクと脈打ち、生み出した眼で獲物を見ている。
“事情は見てたし、俺も久しぶりに人間の血が飲みてぇ…んでよぉ”
目の前に立つ仮面の剣士は周りに水の魔を孕んだ空気を漂わせている。
“あいつは猫魔族だな…しかも……魔王クラスだ”
「……っな!?」
ヘモグロはアネミーアの血であって、そうでは無い。
代々の吸血鬼の長から後継者へ“輸血”され継承された神器の一つだ。
神代の時代、原初の吸血鬼アネミアから生き続け、知をため続けた生きた血液。
そのヘモグロはネコオの正体を容易く見抜いた。
“出し惜しみは無しだ!貧血でぶったおれるなよぉぉおおおお!”
ドドドドドックン!
アネミーア16世は翼を消した、接近戦において弱点にしかなりえず、“魔王”に届きえる一撃には、剣撃以外の全てを捨てる必要がある。………一点だ!
ッド!
全霊を込め地を蹴り前へ!
ドクンッ!
全霊をかけ剣を振り抜け!
防御も!魔法も!小細工も!…そんな事は考えず!
全霊で!全力で!この刹那に!全身の血を魔剣に託した!今までの人生で最高の剣劇だ!最速の剣劇だ!…しかし!
ッヒュバ!!
仮面の剣士は軽く避けた!けど良いさ!
“腕を上げたなぁ!16世!かすったぜぇええ!”
ドクンッ!
防御も!魔法も!“小細工”も!…そんな事はヘモグロがやってくれる!
ブシャァアアア!
ネコオは目の前に下りた吸血鬼をみやる。
吸血鬼という種族にあったのは遠い昔…魔界時代だ。
まだ子供だったネコオは遠くからちらりと見ただけで直接の記憶はあまり無い。
「吸血鬼ってのは、とにかく頭が良い種族なのよ」
母の説明はその程度だった。
帝国の軍に入隊し、敵となる“魔族”の事を習った時にも
「あいつらは血を吸う!空を飛ぶ!カッコいい!」
…その程度の話だった。
(…あんな“魔剣”の話は知らないな…いや…御伽話であったか。)
300年前…当時人間最強の剣士を破ったのは、吸血鬼の剣士だったという。
吸血鬼の寿命は長い…。
(目の前の吸血鬼がその剣士ならば、厳しい戦いになる!)
ネコオの剣は我流だ、魔法と同じく遠い日に父に習った基本を元に、一人で夜な夜な振っていたに過ぎない。
帝国軍の同期には剣が得意な者は無く、教官やサカナールの先輩方はお年だったのだろう、やはり相手にならなかった。
(伯爵様に頼んで、騎士様に指導をお願いすれば良かった!…悔やまれるな)
……剣を本気で打ち合った経験が無い、初戦の相手が帝国最強…それを上回る吸血鬼とは!
(…しかし、不思議だ)
ネコオが意識を広げると周りに水の魔力を感じる。それは果てしない空から降りしきる雨の様に、地から揺らぎ浮かぶ陽炎の様に…金色に輝き出したネコオの双眼には、世界がひどくゆっくりに見える。
(…負ける気がしない)
それは不思議な感覚だ。妹ファンファンとホレボーレの声援、その幻聴を聞いてから…沸き上がる力が止まらない。
「ネコオ様頑張って!」
ドクン
再び聴こえたホレボーレの声援、ネコオの胸が…熱い物に満たされた。
(…負けるわけにはいかない!)
吸血鬼は蠢く剣を片手に、ボソボソと何かを呟いている。翼を消し…大きく構え…そして!
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
あまりの大振りさ!遅さ!拙さ!弱さ!素っ頓狂な叫びと共に振り下ろされる剣!
(……この吸血鬼は、剣聖殺しとは別物だな)
剣を半身でかわし、すれ違い様に首を掻き切る!
ネコオは刀身を腰に引きつけ、防御を捨ててギリギリで避けた!
猫魔族の鋭い瞳と、身のこなし…そして父譲りの才覚でもって…熟練剣士の“紙一重”を選択したネコオは…アネミーアの剣筋から外れた“もう一本の剣筋”を避けきる事が出来なかった!
ブシャァアアア!
「ッツ!グゥウア!」
これぞ魔剣ヘモグロ!形を変え己の意思にて敵を屠る魔剣!主の刃を避けた強者を屠る技“影斬り”だ!
飛びのいたネコオの右肩は深く抉られ…血の噴水が彼の命を…否!
「ネコオ様!」
三度の声援に、刹那の判断…水魔法にて油を操ったホレボーレの技の応用だ…ネコオの深く抉られ肩を赤黒い水が覆い、命は繋がり闘志は燃える!
“ほぅ…水魔法で止血しやがった!”
「ぐぅう…!あっ…浅かったか?」
アネミーア16世とヘモグロの必殺の奇襲!剣聖さえ屠った連撃で仕留め切れないとは!
二人は人間に与する“魔王”を睨み、撤退を視野に入れつつ油断なく構え直した。
“やべぇな…目を反らすなよ?やっぱ魔王級だぜアイツは”
「解ってる!次は逃げに徹するから防御任せたぞ!?」
ネコオは後退る敵を睨み、先程の切り合いを分析する…確実に避けた!事実 一撃目は避けたのだ!しかし、刃の後ろに二撃目、三撃目が重なっていた…魔剣ヘモグロは無形の刃!刀身から刀身を生み出し、局面に合わせて姿を変える。
ジュォオオオ!
「水魔法を勉強しておいてよかった」
ネコオは右肩に鋭い痛みを感じながら反省をする。
とっさに“凝結”させ身を守らねばこの傷は命に届きえたのだ。
ドクン…ドクン…
右肩は疼き、止血に覆った水を赤黒く染める。
右腕全体を覆うほどの水の鎧が染まるほどの出血だ…勉強代として高くついた。
…しかし!
…っダ!
(逃がさない!)
吸血鬼が翼を出したその刹那、ネコオは一瞬で距離を詰める!肩の痛みなど構いはしない!…この一撃が振れればいい!
ドドドドドックン!
っガガガガガガキィイイ!
“16世飛べぇええ!”
魔剣ヘモグロは確実にネコオの放つ刃を受けた!…ハズであった。
自身が防御に徹し、16世が逃げに徹する!打ち合わせ通りに自分は魔王の音速の斬撃を受けた…ならば逃げおおせるはずだ!
吸血鬼の翼でもって空へ飛び、地はまたたくまに遠くへさって…行くはずなのだ!…なのに…なんでだ!?
なんで地面が迫ってくる!?
ドサァアア
振り向けば…相棒、宿主…いや…16代も見続けた一族の末裔。幼いころから見続けたその子の首は哀れにも同体から離れていた。
ドクン
“…じゅ…じゅうろく…せい?”
ド…クン
ド……
………
16世の鼓動が止まった。
「ハァ…ハァ!…勝った!」
消えかかるヘモグロが見直せば、魔王の右手には赤黒く血の混じった“水の刃”が握られている…戦いの最中相手から盗んだ無形の刃。
ヘモグロは確かに一撃を受けた、しかしネコオの刃に隠れた水の斬撃を防げなかった…ハハハ!
“魔剣”を再現した魔法の剣?ふざけるな…一朝一夕でできるものか!わずか…わずか一合の切り合いで…再現されてたまるものか!
“魔…王…!!”
消えかかるヘモグロの声は、仮面の剣士には届かない!
“魔王おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!”
戦い終われば被害はボロボロの城壁と多数の怪我人…幸運にも死者が出る事はなく、深刻なのは街の食糧事情だ。
…まぁ、それも翌日に到着した帝国からの増援、彼らの持ち込んだ兵糧でなんとかなった。
痛手は猫ホストを逃がした事、そしてネコオの受けた“負傷”と“呪い”だ。
ともかく…こうして、サカナールの街最大の危機は過ぎ去った。
後日談だが…この戦いで帝国初、人間以外に…猫魔族ネコオに“男爵”の地位が与えられた。
「スゲーや坊主!まさか奴隷から爵位持ちなんてなぁ!」
「どこの歌劇の英雄だっての!残飯猫とは思えないぜ!」
肩を包帯で固めたネコオを、街の人々が囲み騒いでいる。…どうやらこの男爵様は、城よりも街に居たいようだ。
「もう!ネコオ様ですよ!“様”!」
「ホレボーレ!様は辞めてくれって言ってるだろ!?」
「あらあらネコオ様!貴族には“様”を付けるものですよ?」
「あ~もう!!」
「様が嫌かぁ〜、なんかねぇかな?ただの愛称ってな失礼も行けない、敬いながら馬鹿にしたような…」
「はぁ!?ネコオ様を馬鹿にする?…消し炭になる覚悟は有るのかしら?」
ビール片手に、金色の衣をまとった揚げたてのフライを食べる兵隊達。
しかしネコオの皿にあるのは、真っ黒に焦げた消し炭だった。
モグモグ…うん、ホレボーレの料理は最高だ。
やんややんや
白熱する議論を無視して、笑顔で残飯を食べるネコオ…そんな彼を見て店の親父が手を叩いた。
「あ~思いついたぜ!“悪食”の猫男爵ってなどーだ?」
頭の悪い酒場での話だが、妙にゴロがよく…偉いんだか抜けてるんだか解らないおかしな響きがサカナールで瞬くまに広がり、定着した。
魔族を排し生まれた人間の国“帝国”その建国に伴って…住処を追われた海辺の猫魔族。
苛酷な幼少期を魔界で過ごし、帝国に逃れ“首輪付き”となった少年のこれは伝説の成り上がり。
「悪食=猫男爵の成り上がり」
なんとも気の抜けた英雄譚は、今も子供たちに大人気だ!
「ネコオ様…お怪我の様子はどうですか?」
「…あぁ」
ネコオが服をはだけると、その腹には赤黒い傷があった。
魔剣ヘモグロの、最後の一撃だ。
「…痛みは無い…だが問題は…」
吸血鬼一族に伝わる神器、その最後の一撃はネコオの体内に呪われた血を送り込んだ。
ネコオの命から沸き上がる、無尽蔵の魔力を貪り続ける呪いの血だ
「大丈夫ですよ!私たちはもっと強くなって…!今度こそネコオ様の魔法に頼らず…この平和を守ってみせますわ!」
さてさてコレにて終劇!
メガーネ外伝 悪食=猫男爵の成り上がり!
本編にて男爵の呪いは、神器“マンマ”と“オカシラ”がどうにか解いたとか!つまりは全てハッピーエンド!
ご拝読
ありがとうございました!
ご拝読ありがとうございます(二回目
いやぁ…駆け抜けました。
時間軸やら多少の調整は、後日読み返しながら加えるかもしれません。
名前や呼び方も統一なく、読みにくい思いをさせたかと思います…
ですが!!
沸き上がった情熱が、動き出したネコオ達が、ホレボーレが!
そんな事は良い続きをかけと!
カッコいいネコオ様をもっとみせろと!
その声のままに駆け抜けました。…そうです。
この小説の拙さは、私がわるいのではありませんよ!
全部ホレボーレが悪いのです!
…
やっぱり手綱が握れてない!あびゃーーー!
あ、ネコオではないですが、まだ妄想があり外伝は上げる予定です。
それではまた




