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インテリ・メガーネ~神の肉体を持つ叡智の化身~   作者: 前歯隼三
外伝  猫男爵の成り上がり
23/42

悪食=猫男爵の成り上がり 下 ~金色に輝く怒りの瞳~

あびゃあああ

やっとこのシーンに追いついたぁああ!




 2日後の夜…

 サカナールにはまだ援軍の到着はおろか、都に早馬が届いたかも解らぬほどの手早さだ。


 敗走からたった2日で軍隊を立て直し挑みに来た吸血鬼、その執念と本気の覚悟にネコオは敵ながら賞賛の気持ちを抱いてしまった。


 眼前のゴリラ達は靴を履いていて、ある者は人間のように武器を持っている。

 人間を嫌う、生来の牙ゴリラ族では出来ない作戦だが吸血鬼の眷属と化してなら従うようだ。


 前回猛威を振るったホレボーレの必殺技“火炎油クッキングフェスタ=クロコゲールショット”を封じるためだろう。痛みも恐怖もない河童の軍勢が。油を身にまとってヌラヌラと歩く…逆効果じゃないかって?否!


「…ック!火を放てば火だるまのまま突っ込んでくる気か!」


 吸血鬼のIQは200を超えるとかそんな眉唾の伝説も本当かもしれない…


 吸血鬼はあれから寝ていないのだろう…血走った目でふらついた足取りで、勝利を確信し笑いながら高らかに叫ぶ!


「進めぇええ!我が眷属たちよぉおお!」


 サカナールの街、帝国と魔界を隔てる平和の砦…今、人類の命運は猫魔族出身の守備兵長、悪食のネコオの双肩にかかっていた!



「バナナを投げろ!砂糖をまぶすのを忘れるな!!」


 時間が無かったのだ…!バナナ改良計画はこれが限界だった!

 …やはり前回と同じく牙ゴリラに反応はなく河童達を引きつけるに留まった。

 ホレボーレのコゲバナナも試されたが…食べないどころか避けられている。


「…おかしいな、河童まで食べないとは?味は悪くないはずなのに!」


「ネコオ様!戦いが終わりましたら是非ご馳走致します!うっふふふー!」


 ともあれ、イガグリは…靴を履かれた時点でもはや効果が無い、河童に炎さえも封じられ…


 ドーン!

 ドドドーン!


 泥仕合だ。


「…都から正規軍の応援が来るまでに更に3日、最寄りの街から派遣があったとしても、どれほど早くとも明日の朝か…!」


 バチーン!メキャァア!


 一人の兵隊がついに牙ゴリラに投げ飛ばされ…壁に深々突き刺さった!


「クっ…やはり俺が!」


 仮面の奥で奥歯を噛みしめ、ネコオは全身の毛が逆立つのを感じる。すまない…猫魔族よ…妹よ…俺は…!


「まだですネコオ様!私たちを信じて!…みんな!」

“火炎油=クッキングフェスタ!”


 燃え盛る河童達!愚かなり!と吸血鬼は笑う!

 火だるまに成ろうと河童は止まらぬ!このまま突撃させ返してやろう!己の炎で灰塵と化せ!クハハハハ!


 しかし…


「料理はまだまだ…これかららぜえええええええ!!」


 兵隊達はベルトに仕込んだバナナや魚、肉、お餅。卵

様々な食材をゴリラに投げつけた!


「「っな!!」」


 ネコオと吸血鬼は同時に驚きの声を上げた!


「ウホッ!?ウボオオオオオオオオオオオオオオオ!」


 しかし、もっとも驚いたのは牙ゴリラ達だ!

 体にまとわりついた食材達に燃える河童が反応し、戦場に幾つかの火柱を上げる


「なんだコレは!聞いていないぞ!?」


「すいませんネコオ様、研究に時間がかかりました!」


 ただ食材を投げつけても、地面にずり落ちた食材に河童が群がるだけだった…それを回避するために投げる食材は小さく、薄くスライスされていて…さらに卵を通う手間をかけられ、“敵にくっつく”粘りを持たせた!

 さらに!河童の食いつきがよくなるようハーブやこしょう、醤油、完成時の“匂い”まで計算された新兵器。


「これはもはや私の“クロコゲールショット”ではありません!」


 魔法の才能はあるホレボーレだが料理の才能は皆無であった。

 この技の完成にはサカナールに店を構える小料理屋の店主、専業主婦の方々…多くの市民に協力があった!


「へへ…おれの実家は串カツ屋でね…」


 火柱に向かい、矢を放つ兵隊達


「これは合技“クッキングフェスタ=カラットアゲール”」


「「「…の、串揚げフィニッシュってところだぜ!」」」


 守備兵達は物凄く良い笑顔だった。


 ……知らなかった!

 ホロリ

 みんなこの緊急時に…なんか居酒屋で延々と揚げ物食べてると思ってたら…


「けど…見張り台に届けてもらった弁当は全部丸焼きだったんだけど?」


「ウフフ…喜んでください!ネコオ様のお弁当は全部私の手作りです!」


 …うーん…美味しいからいいけど。


 沸き立つ帝国軍と対照的に驚愕するアネミーア16世。


「ぐぅ…なんという事だ!」


 食べ物で河童を引きつけての攻撃では、河童を倒せても牙ゴリラは倒せない!ところがどうだ!

 牙ゴリラに食べもを投げつけ…集まった河童諸共焼き払う!


「人間の知力!さすがだ!……しかし!そろそろだな!」



 戦場に上る煙を狼煙に、風にのるご馳走の匂いにつられて…森の奥から、魔界の奥から…ワラワラと魔族が現れてきた。


「……人間の国と戦争するって本当だったんだなアネミーア!ハハハ 力をかすぜぇ?」


「クケケ…旨そうな匂いがしやがるぜ!」


「“靴”は役に立ちましたか?お代は人間の奴隷というお話で」



牙ゴリラ 族長 バナナルン

河童族 族長 尻喰らい

猫魔族 奴隷商 猫ホスト


 互いにけん制し合う魔界の民達の中で、この三者に目を付けたアネミーアの狡猾さ…優秀さよ!


 牙ゴリラには人間の血を

 河童族には食いものを

 猫ホストには新しい奴隷を


 相手の欲する物をぶら下げて、欲望を刺激し掌で操る

こと“支配”に関して、吸血鬼の一族は長けていた。


「…なっ!?あれだけの援軍が!?みんな…カラットアゲールは行けるか!?」


「そ…それが!」


  連日の昼夜続いた試食…研究会で、かなりの食糧を消費していた。

 もう…つくりおきの食材はない…!


「ぐ…バナナをゴリラに投げて…河童を…」


「馬鹿にするんじゃねぇえええええぞおおおおおおおおおおおおおお」


 援軍の牙ゴリラ軍が突っ込んできた!

 怒りに目を燃やし、揚げ物と化した同胞達を踏み越えて!


 衝突!

 戦い!


「…っくぅ、やはり魔法を……っあ!」


 魔法を使う人間が皆無というわけではないのだ。

 皆はよく頑張ってくれた!

 使っても…河童と牙ゴリラには解らない…かもしれない!


 そんなネコオの目に飛び込んだのは敵軍の後方に控える“猫魔族”同胞を売り捌き…地獄を生き抜いた鬼畜の外道“猫ホスト”…彼の参戦が、ネコオに一瞬の躊躇を生んだ!


(同族の目は…誤魔化せない!)


 パァーーン!


 ネコオが魔法をためらった時、牙ゴリラの張り手が何かを弾いた。

 並の牙ゴリラよりとびぬけた“族長=バナナルン”その一撃を喰らったホレボーレは…門を飛び越え、見張り台の屋根に刺さる


「ホ…ホレボオオオレェエエエエエエエエエエエ!!」


パァーン!(ズドオン

パァーーン!(ズドオオン


パァアーーン!(ズドドオオオン


 ネコオは色を無くした世界で、その爆音を遠く感じた。

 なんだか鼓動が…ゆっくりと聞こえる。



 水の魔法を覚えてから、やたらもろくなった涙が…不思議と頬を濡らさなかった。

 愛する者を失った後悔…それはネコオの心を凍らせ…時間の感覚さえ遅くしたのだ。


“お兄ちゃん…”


 そんな中、遠く妹の声が聞こえた。

 目をやると、遠く猫ホストが笑っている、同胞を売り捌き生き抜いた鬼畜の外道“猫ホスト”…鬼畜…外道?


 何が違う?俺は…仲間と…家族を…天秤にかけて躊躇った。


 客観的にみて、ネコオの生い立ちの不遇、経緯、そしてこの迷い…彼には一切の非はないだろう。

 彼は多くを愛し、愛され、それに真面目に答えようと走り続け…最後に少し転んだだけだ。


 “ネコオ様…”


 ホレボーレの声が止まった時の中聞こえた…

 あぁ…耳をすませば聞こえる。

 妹とホレボーレの声が重なる


「「真面目なんだから」」


 ネコオはその声に目を見開いた…

 戦場の最中…絶望の最中…その台詞はあまりに呑気なものだ。…でも


 ホレボーレはそんな気の抜けたところが素敵だったな…妹もあんな苦境の中で、涙も見せずに笑っていた。


 そんな二人がネコオに言った。


「「お兄ちゃん<ネコオ様>は真面目なんだから…!いつも頭で考えて…もっと自由に…」」


<<……「心」で生きて……自由になって…>>


 押し寄せる牙ゴリラの群れと河童の群れ、勝利を確信した時、突然にその“雨”は振り出した。

 魔力を含んだその雨は、戦いで巻き上がった砂埃を溶かし、晴らし…


「危ない!さがれぇえええ!」


 アネミーア16世の叫びはしかし遅く


 ドドドドドドドドド


 魔力を含んだ大気は渦巻く巨大な水柱を幾十も生み出した…柱は連なり、壁となって街を守る。

 そして更にその壁を覆うように…“水の壁”が姿を現したのだ!!


 水に捕らわれた牙ゴリラ達は無力だった…河童は元々無力だから役には立たたず…


(ありえない…!こんな大魔法を人間が!?そんな事はありえない事だ!)



 アネミーア16世は蝙蝠の…、闇の王の翼を広げ前に出る。

 この混成軍の中、魔法に対応できるのは自身しか居ない…


(見極めなければ!…なんだこの魔法は!)


 水の壁の向こう…安堵に崩れる人間達の中心に…仮面の男が立っていた。

 仮面の奥で、金色に輝く瞳が見える…その瞳は怒りに燃えて…


「ッヒ!」


 巨大な獣を前にした威圧をアネミーアは感じた。


 パチン


 男が指をはじくと共に、水の壁は霧へと変わり…河童とゴリラ達が泥沼と化した大地に刺さる。


「……何者ですか、あなたは!?人間…では、ありませんね…」


「………」


 仮面の男はマントを翻し、腰につけられた剣を抜いた帝国の紋章が刻まれた、ありふれた守備兵の長剣だ!

(ただの守備兵?…これほどの魔法の使い手が!?)


……やはり!



アネミーア16世は確信をする、帝国に組みする魔族の存在!


「…やはり人間は油断が出来ない!ただの食糧調達のつもりでしたが…本当に攻め滅ぼさねばならぬ存在のようですね!」


 アネミーア16世は両手から8本の杭を投げた!その杭は沼にはまった部下に刺さり河童とゴリラ…二色の血柱を空へと上げる!

 空中に上がる血柱は、吸血鬼アネミーア16世の元へと集まり…魔剣“ヘモグロ”に姿を変えた!


 変幻自在の無形の刃は、前代剣聖をも屠った伝説の刃

伝説を知る守備兵たちの動揺を他所に仮面の男は前へと踏み出す…



「怒りに燃えるネコオ様…素敵!ゲホォオ(吐血」


「…あんた大概だよ!安静にしてくれよ!怒られちゃうよ俺!」


 ホレボーレはぎりぎり生きていた!

無職の間に書き上げたい

そして書き上げないと気になって

職探しに身が入らない…あばば

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