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インテリ・メガーネ~神の肉体を持つ叡智の化身~   作者: 前歯隼三
外伝  猫男爵の成り上がり
22/42

悪食=猫男爵の成り上がり 下 ~守るべき者と綺麗な月と~

ついに成り上がり冒険最後の局面

VS アネミーア16世


そして戦いの合間で深まる二人の関係

「そこだ!バナナを投げろ!」


 パラパラパラ!

 投石機によって門前にバナナが撒かれた!

 集まる河童に、帝国サカナール魔界門守備隊隊長=悪食のネコオは追撃の指示を飛ばす!


「撃てぇええええええ!」


 その集中砲火により、押し寄せる魔族の連合軍は勢いを無くす!河童と牙ゴリラ、そして吸血鬼の恐ろしき連合軍だ。


「隊長!牙ゴリラ軍が突っ込んできますので!」


「解っている!次はイガ栗を御見舞いしてやれ!」


 城門前にばらまかれたのは、サカナールの街で取れた甘い栗…そのトゲトゲだ!

 こんな事もあろうかと、ネコオは廃棄されるはずだったトゲをツボに入れ壁の各所に配置していた。

 壁沿いに広がる自然のマキビシに牙ゴリラ達はたまらず歩みを止めた!


「…やっかいな指揮官だ」


 吸血鬼=アネミーア16世は門の上の指揮官を見やる。

 仮面の瞳部分が太陽を反射し、ギラりと青く輝いて…吹き抜ける風がマントを靡かせる。


「あの指揮官は、魔族の習性に詳しいようだな」


 アネミーア16世は上空から部下を見やる、河童軍は数は多いが知能は低く、食べ物の罠などに簡単に引っかかる。

 しかし痛みにも鈍感で、ただのマキビシ程度なら止まらなかった。

 一方牙ゴリラ軍は知能が高く、見た目と裏腹に臆病だ

マキビシ程度でも、明確な苦痛を前に置けば足を止め作戦を考える。


「我が血を与え、眷属とかしても…本来の性質は変わらない…か」


 ゴリラ達が箒を持ち出し、掃き掃除をしながら進む作戦に出た。しかしそれでは弓矢のかっこうの的…仮面の指揮官の号令で矢が降り注ぎ…逃げるゴリラはバナナに滑る、中々攻略が進まない!


「…しかし、ここで諦めるわけにはいきません!生臭い河童の血も!獣臭いゴリラの血も!グルメな私にはもう耐えられない!」


 アネミーア16世が指を鳴らすとミンチになった河童族が蘇る。


「…さぁ!河童達!マキビシの上に身を投げ出して!勝利の踏み台となるのです!」


 地獄のような光景だ…遂に壁に到達した牙ゴリラ達と、守備兵達の直接的な戦いが勃発する。

 5トンを超える牙ゴリラ達の猛攻を前に、しかし捕まる守備兵は居ない!


 シュババババ!


「……見える!ネコオ隊長の剣にくらべたら!」


 シュバン!ッボ!バババババ!


「…あぁ!隊長の稽古は辛かったが!俺たちはかなり強くなってる!」


「行けるわ!ネコオ様!私だって…そおおおおおおい!」


 ホレボーレは調理用油を水魔法で浮かせ、火をつけた。

人間に出来る、簡易的な魔法の最大限の有効化だ!

 この技も、ネコオの手取り足取りの愛の特訓で開発された!


「ハハハハ!ゴリラ共!私が料理してあげるわぁああああああああ!」


 ホレボーレの得意料理は丸焼きだ。むしろそれ以外作れないし、それを食べるのもネコオしかいない。


「ぐぅうう!覚えていろよ!人間共ーー!」


 こうして、アネミーア16世との最初の激突は帝国軍、サカナールの守備隊の勝利に終わった。

 ……しかし


「敵の大将にバンパイアが居ました、吸血鬼一族は狡猾で、そして執念深い一族です。」


 伯爵に報告をし、王都に援軍を要請する。

 帝国の最北の地サカナールと王都では馬を飛ばしても3日はかかる。


「そこを吸血鬼が見逃すとも思えない」


 ネコオは兵隊達を集め、壁の補修と武器の補填そして新兵器の開発を指示する。


「バナナに牙ゴリラ達がかからなかったのが、今回の作戦の反省点だ…何故だと思う?」


 あの時…開幕の投擲で河童と共に牙ゴリラ達を一掃出来て居れば!


「…食物は腐った時が一番うまい!バナナも黒くなったぐらいが一番旨いんだ!……バナナを主食とするゴリラ達は

そうとう舌が肥えてるに違いない!」


 この時の議論“バナナのおいしい食べ方”が後の世に、チョコレートをかけたバナナ、チョコバナナを生み出すきっかけとなったのだが…それはまた別の話だ。


 ちなみにホレボーレが提案した黒焦げバナナから発展したのが焼いたバナナのスイーツ、焼きバナナ、そして更に進化したバナナクレープだ。


 ネコオは額に眉をそえ、確実に訪れる更に苛烈な戦いに想い悩む…しかし、その沸き上がる不安は兵達には伝わらない。


「…隊長の魔法があれば一撃だしな!」


「馬鹿!隊長に魔法を使わせないのが俺たちの仕事だろ!?」


 誰も手を抜いて任務につくものは居ない。

 しかし、優秀すぎるネコオの部下達は、どこか戦場に置いての“危機感”がなかった。


「駄目よ!ネコオ様が魔法を使えば…私の妹が危機に晒されるのよ!」


 良くも悪くも…危機感が無い平和な時間だ。

 …みんなは、これが当たり前だと思っている。

 ネコオはいささかの苛立ちを覚えた。帝国に来て以来…初めてのことだったかもしれない。


 ネコオは瞳を閉じて苛烈な幼少時代を思い返す。

 苛酷な魔界での逃避の日々、戦いの日々、泥水をするる日々…戦い死んだ父さん病に伏せた母さん、川でとった小さな魚を…おいしいと笑って食べた妹。


(…ここの人達は、この平和を当たり前だと思っているんだ…)


 価値観の違いには気づいていたし、恨みも無い…しかしだ。


(この平和を守りたいとは言いながら…本当にその“覚悟”があるのだろうか…)



<わかった!認める!…だがしかし、心得よ!おぬしはもう帝国の民!我らが同胞!

 …お前の為に頭を垂れるその者たちを決して裏切る事はするな!>


 伯爵の言葉が胸を過る。

 ネコオが魔法を使う時は「妹」を捨てる覚悟の時だ。

 …果たして、誰も“覚悟”なきこの部下達のため、俺は覚悟を決めれるのか…


「ハァ…険しい顔のネコオ様も素敵」


 ホレボーレの能天気さに、ネコオは脱力し兵舎を出る。


「ここから三日が正念場だ…」


 誰よりも目の良いネコオは見張り台に上った。

 月の隠れた空はどんよりと重く、暗い…


「ネコオ様夜食をお持ちしましたよ!」


 ホレボーレは梯子を上り、黒焦げのサンドイッチを差し出した。


「…助かる、お前は寝た方がいい、戦いはいつはじまるか解らないんだ」


「わかりました」


 ホレボーレは持参した毛布で丸くなった。


「………」


「月が……綺麗ですね」


 ネコオは首をかしげて夜空を見る、やはりどんよりと月は見えない。


「寝ぼけているのか?寝る前なのに?」


 ホレボーレはクスクスと笑い、やがて静かに寝息を立てた。


「……まったく、緊張感のない者たちばかりだ…」


 ネコオは黒焦げサンドイッチを食べながら闇を見つめる。冷たいよるの空気が下りてきて、背中にホレボーレの熱を感じた。

 …果たして、誰も“覚悟”なきこの部下達のため、俺は覚悟を決めれるのか…そう迷いがあったが…


 スヤスヤ…スヤスヤ…


(…多分、俺は魔法を使うだろうな…)


 闇の向こうに広がる魔界、そのどこかにいる妹ファンファン…遠い、…遠いのだ。

 ネコオは大した男ではない、守れるのはその目が届き、両手で抱えられる物だけだ。

 シンと静まる魔界の森が、うっすらと月光に照らされて…


「おおお」


 ネコオは夜空を見上げ感嘆を上げる。


「本当に月が綺麗だな…ホレボーレ…」



ホレボーレ!(それ

ホレボーレ!(あそれ!


この子書いてて楽しくなってきた。

この子に会えただけで外伝続けた意味があった。

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