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インテリ・メガーネ~神の肉体を持つ叡智の化身~   作者: 前歯隼三
地上に舞い降りたラファウェイ(天使長)編
2/42

巨大ゴーレムとメガーネ

いよいよ本編(デデン

 魔王国との開戦より半年、帝国の東端“サカナール”の街は戦禍に包まれていた。


「ぐぁあ駄目だ!牙ゴリラ軍の進撃が止まらないぃいい!」


「落ち着け!バナナを投げろ!それより南門だ!奴らの狙いは倉庫だぞ!」


 ポイポイポイ…………………………


「ちぃ、バナナの食いつきが悪いな!そうだチョコかけてみようみよう!これならイケるはずだ!」


 前線を仕切る名将・猫魔族でありながら帝国で武勲を立て、爵位まで賜った生ける伝説!

 “悪食猫男爵”の采配により、人類の最後の砦はギリギリで守られていた。


 魔王国軍国境侵攻軍、12魔族が一つ“牙ゴリラ”の軍隊はチョコバナナに気を取られたのか目を丸くして…土の上のバナナを見やる。


「う~ん、あとで回収して食べよう…食べ物は大切だ」


 ゴリラ軍の反応に作戦成功を確信した男爵の余裕の発言だった。時間さえ稼げれば、“最強の援軍”が姿を見せる。

 それに領民さえ逃がせれば、我らが死す事に悔いはないのだ!…しかし


 ゴウン

 ゴウン

 プッシャーッポッポー!!


「……っな!?」


 文献で読んだ事がある、小学生でも知っている。

 《古の大文明は、ゴーレムによって支えられていた》

 …と


 土から鉄を作る錬金術 鉄を加工する巨大な塔

 そうして造られた鉄塊に命を宿す“神の御業”


 そのどれもが、はるか昔に失われた技術、伝説の代物だ。


 ゴウン ギギギギ ドシュン

 ゴウン ギギギギ ドシュン


「山だ…山が歩いている…!」

 愕然とするサカナールの守備兵達、一方“山”…に踏みつぶされないよう、牙ゴリラ達は即座の撤退を開始した。


 歩く山と、土の上に残された哀れなバナナを見やりながら猫男爵は思い出す。こんな事を出来る人物は…博士しかいない!


 “元”帝国1の頭脳“丸頭光ハカセ”の失踪と失踪前の奇行の数々は有名だ。

 王都の研究所は魔王国の首領、魔王ラグナのラグナカラー<赤とピンク>に彩られ…夜な夜な研究所から、魔王ラグナのリリースした歌が漏れていた。


 ゴウン ギギギギ ドシュン

 ゴウン ギギギギ ドシュン


「アハハハハハ!ひれ伏すのじゃ帝国軍!ラグナ様に跪けぇええ!」


 山のような人型、巨大なゴーレムの足元で老人が高らかに叫んでいる!…やはり、あの頭の輝きは…丸頭光ハカセだ!


「博士!あなたは魔王軍に寝返ったのですか!?」


 猫男爵は悲鳴にもにた声を上げた!

 博士の裏切りは、在ってはならない最悪のシナリオだ。

 これが夢でないのならば、もはや敗戦は決まったようなもの…迫りくる巨大ゴーレムには成すすべもなく、サカナールの街は…いや、帝国は更地となるだろう。

 あとはワンチャン、撒かれたバナナ達に期待するしかない、食べ物を粗末にすることは気が引けるが…帝国のため、人々のためだ!たのむ…!バナナ!ゴーレムを大きく転ばせて壊してくれ!


 お前達がサカナールの!いや…人類の最後の希望だ!


「ククク、猫男爵よ…“裏切った?”何を言っている?私が仕えるのは古代化学、その叡智にだけじゃよ!帝国より魔王国の方が給料が良かった!施設も良かった!ラグナ様のライブ会場も近かった!それだけじゃ!」


「ぐぅ…このハゲじじいめ!」


 ラグナたんのライブに釣られただと、このじじいい…噂通りのエロハゲ野郎だ…しかしそれなら納得。

 実際、魔王ラグナの美しさと可愛さは控えめに言って神!

 帝国の内部でもファンクラブが誕生し、前線の兵士のカバンにもラグナたんキーホルダーがぶら下がっているのが現状なのだ…戦慄する!


 (戦いは、始まる前に終わっていたのだ)


 そんな言葉が頭を過り、猫男爵はその場に崩れ落ちた。

 …無力!世界は色を無くし、足元が崩れ去ったような絶望だ。


 ゴウン  ゴうン


 博士の指示で、巨大ゴーレムが歩を進める。

 帝国の前線で、平和を守り続けた猫男爵と彼の兵団にゴーレムは終焉の影を落とした。


「猫男爵殿、貴殿は魔界の生まれと聞く…、どうじゃ?共にラグナ様の聖地巡礼全国ライブに行く気はないか?」


 丸頭博士は優しく声で、重い決断を男爵に迫った。

 男爵は背中に冷たいものを感じながら瞳を閉じ、そして開いた。


「ぬかせ、俺は猫耳萌えなんだよ」




 轟音 土煙 …無慈悲なるゴーレムの一撃!


 それは帝国の…敗戦を告げる狼煙…のはずだった…が!

 サカナールの人々、帝国の人々は、何かに導かれるように立ち上る土煙を凝視した。

 冷たい恐怖からではなく、湧き上がる熱い何かを感じ…目が…離せない。


「…愚かな男じゃ…、ラグナ様の良さが解らぬとはのぉ」


 人々の瞳に遠く映る巨大ロボと土煙、異様な光景…しかし、不思議と不安はなかった。

 猫男爵の稼いだ時間により、今“最強の援軍”が到着したのだ!


 混沌の時代に生まれた英雄!魔王と対を成すカリスマ!人類の最後の希望!


「…危なかったですね猫男爵、もう大丈夫ですよ。」


「…っな!?」


 土煙が晴れると…そこにはスーツの男が立っていた。


 整った顔立ち、男にしては長い前髪…

 猫男爵を小脇に抱えるその腕は逞しくスラっとした背丈は逆三角形の影を大地に落とす。


「お…お前は!」


 “インテリ=メガーネ”

 帝国に突如現れたメシア、闇の時代に灯る最後の輝き!


「お初にお目にかかります、帝国一の頭脳、丸頭光ハカセ」

「ぐぅ…やめろ、“元”帝国一じゃ…!」


 博士はメガーネを睨みつけ、沸々と怒りを感じる。

 …そうだ、彼が現れて博士はNO2に成り下がった…魔王国に行った理由がラグナ様なら、帝国を去った理由は目の前の男なのだ。


「ハハハ…“現”帝国1の頭脳、メガーネ殿!参謀が前線に出てくるとは、いよいよ帝国も終わりのようじゃの!」


 博士は虚勢を張りながらポケットに手を入れる。


 彼を前にすると、自分がひどく矮小に感じる。

 長い年月で築き上げた地位も名誉も、技術も知識も、彼の前では何の意味もない…そう感じてしまう。


(…そんな事はない!こんな目に見えない不安!心の反応より!目に見える物を信じろ!自分で築き上げた偉業を信じろ!)


 震える指で、ゴーレム「巨大ロボット」のリモコンを握る。…そうだ、冷静に考えれば戦況は何も変わっていない!


 こちらには巨大ゴーレムがある!動く山の前には、平民も英雄もただの人!一体何を恐れているのだ!


「…ハカセ、魔王に進言して頂きたい。こんな不毛な戦争、もう辞めにしないかと」


「うるさい!交渉に来たのなら無駄な事!…死ぬがよい!メガーネ!」


 スイッチを入れた瞬間…山は空へと飛んだ!


 瞬間メガーネは抱えていた猫男爵を後方に投げつつ、前へと踏み出す!


「ウハハハハハハ!終わりだぁああ!潰れてしまえぇええ!」


 轟音  砂煙


「め…メガーネ殿おおおおおおおおお!!」


 猫男爵と兵団は青ざめながら叫んだ!そんな…帝国の、人類の希望がここで!

 …無残に踏み散らかされたバナナは無力で…もはやメガーネ殿が本当に最後の希望だったのだ!


「ククク」

 博士は悪辣な笑いを浮かべ、初めての殺人に震えていた

人として超えてはいけないラインを超え、これで本当の意味で魔王軍に迎え入れられる事だろう。


(この震えは、矮小で臆病な人の心からくる、情けない震えではないない…そうだ、これでラグナ様に認めらる!これは喜びの震えなんじゃ!)


 博士は強靭な精神と優れた頭脳で、心を防衛する砦を作った!崩れかけた膝に力を込め、不遜に大地に踏みとどまる。

 しかし、背筋を覆う寒気は消えず、指先の震えは止まらない!


「さすが巨大ゴーレム、素晴らしい威力ですね」


 背後から聞こえた声に、博士の心は潰された。


「うびゃぁああああああああああああああ!」

少し漏らした。



「本当に凄まじい威力です、こんな兵器を生み出す貴方を敵国に取られたのは、帝国最大の痛みです」


 土煙が晴れ…陥没した大地に佇むゴーレムが姿を現す。

 その場所からハカセまでの距離はゆうに300メートル

この一瞬で、いや、思考を巡らせていた数秒で、メガーネはハカセの後ろまで走り抜けたのか?


「き…貴様どうやって!?」


 失われた古代の技術、“ゴーレム”それを蘇られせた自分と同じく…この男も何かを復活させたのか?


(…ありうる、こやつはわしを超えた天才だ!)



「さて、ハカセ。どうしますか?私は老人を痛めつける趣味はないですし、ここにいればゴーレムで攻撃はできないはずです」

「ぐぅう」


 詰んだ

 確かにそうだ、格闘で勝てる見込みはないし、この距離を一瞬で詰めた相手だ。仮に銃を持っていても、一矢報いる事も叶わぬだろう。

 博士はポケットからリモコンを出した。


「博士、町や兵団を襲わせる気なら無駄な事です。即座にリモコンを奪いゴーレムを止めます」

「ふふ…解っておるわ。なに、機能を停止するだけじゃよ」


ポチ

ポッポッポッポー!(ブシャァアアアアアアアアア!



「…停止するようには見えないのですが」

「クハハハハ」


 博士はリモコンを空に投げ出した


「バーサーカーモードじゃ!もうどうにでもなれ!どうにもならんわ!ハハハハハ」



 ゴーレムは蒸気を上げながら腕を振り上げ…大地に振り落とす!土を蹴り上げバランスを崩し、大地に転がる!

そして構わず腕を振り上げ…


「よかった、森の方に行ってくれて」

「ハハハ、運がいいの!しかし動きは完全ランダムじゃ!サカナールを含め、この辺りは荒野と化すじゃろう!」


 博士は正気を失ったように泣きながら笑い、どうにでもしろと大地に寝転がった!

 ゴーレムの生み出す巨大な揺れに合わせポンポンと上下に跳ねている。


「…仕方ない、勿体ないですが、完全に壊すしかないようですね」

「ククク、出来る物ならばやってみろ!」


 メガーネは博士から少し離れ…森の木を手刀で切った。


スッパン ドォオオオン


「な…なんじゃ、やはり古代の技術か?ま…魔法か?な…何をした!?」

「鍛錬です」


 そういうとメガーネは倒木を小脇に抱え…ゴーレムに向けて一歩を踏み出す。


 ズッドッ!


 人の脚力で出る音ではない、メガーネが蹴った大地は爆ぜ爆風とクレーターを生み出していた。


「うびゃあああああああああ!」

 爆風に飛ばされながら博士はメガーネを見る。一瞬の出来事のはずなのに、走馬灯でもみるようにゆっくりと…そしてしっかりとハカセは見た!


 たった一歩で…数十メートル上空に飛び上がったメガーネの姿を!

 太陽を背にしメガーネは小脇の大木を担ぎなおした。まるで小枝でも振り上げるように軽々と…


「そい!」


 メガーネの剛腕から放たれた裁きの雷!それは正確にゴーレムの額を捉えた!


 ベギャァア!

 …パラパラ

 しかし!ゴーレムには傷一つなく!


「…フフフ!無駄じゃメガーネ!わしのゴーレムの硬度は惑星衝突にも耐える!お前が何をしようともう終わりなのじゃ!」


(心地よい!理不尽な英雄、絶対者たるメガーネの目論見を!自分の発明が上回った!何もかも終わりだが、これは良い冥土の土産じゃ!)


 …スタッ!

 15回捻りを加えながらメガーネは博士の横に降り立ち

顎に手を当てしばらく考えた。


(ククク…いかに帝国1の頭脳と言えど、この状況は覆らん!)

 博士の胸は燃え上がる…黒く、それでいて心地よい喜びの炎!

 しかしその身を焦がす熱も、メガーネの一言に掻き消えた。


「…108通り」

「…ぇ?」


 心の火は掻き消え、代わりにまた寒気が覆う…

(な…何を言っているんだ?被害、被害を減らす対策の事か!?)


「…108通りの攻略法があります、仕方ない久々にやりますか。」

「はぁあああ!?」


 嘘だろ!?大きな落とし穴作るとか?いやいや…山を落とす規模の穴って無理だろう…っえ?もう一体ゴーレム作るとか?作者のわしでも10年ぐらいかかるよ?ぇえ?


 混乱するハカセは、メガーネの発言を反芻する…が、無理だ、無謀だ、虚勢に過ぎない!でも何のため??


 混乱するハカセを他所にメガーネは首元のネクタイを緩めた。


「ハァアアアアアアアアアアア!!!」









…その雄姿を…

わしは生涯、忘れる事はないじゃろう。

粉々に砕け散るゴーレムは…

ワシの栄光と驕りの象徴じゃった。


 その後、降伏したわしに、彼は兵舎ココアを入れてくれた。ラグナ様のお姿がプリントされた、ライブ限定のプレミアムカップ…うぅ…裏切り者のわしの為に…こんな…素晴らしい神器を使って下さるとは…!

 わしはメガーネ殿の懐の深さ、慈愛の深さに改めて敗北を認める…認めるしか無い!


「…108通りとは一体なんじゃったのじゃ?なんで…なんで普通に殴り勝てたんじゃ?正面から…そんなボロボロになりながら…もっと、傷付かない方法も…あったのじゃろう?」


 わしは生まれたての赤子のような気持ちで教えを請うた。彼の前で、実際わしは赤子も同じじゃ…

 彼は自分で入れたコーヒーにメガネを曇らせながら

事も無げに答えた。


「策を弄するのは好きではないんです、…勝てたのは…そうですね。鍛錬…ですかね」


 わしは負けたのじゃ…帝国1の頭脳の何たる下らなさよ。目の前の男は帝国1の頭脳を持ちながら、それを頼らない…、帝国1の筋肉を持っているし、帝国1の男気に溢れた存在なのだ。


「そうでした博士…私は参謀ではありません、ただの…通りすがりの一般人です。」




 魔王軍 丸頭光ハカセと巨大ゴーレム

 サカナールの街 北方の森で敗れる




 このニュースは、帝国、魔王国…いや

 世界中に瞬く間に広がった!!


第一話ED「魔王ラグナ 愛のテーマ」



理不尽な世界に

戦いを挑むのよ


難しい事解らないわ

だけど迷わず行けるわ



貴方と私は欠陥品で

世界の歯車零れ落ちた

けれどお陰で二人出会えて

神様に感謝しちゃいましょう、ね?


ありがと神様!

だけど世界は、ムカついたからぶち壊します!

こんな私も貴方が居れば

きっと震えずに笑えてけるわ


ありがと神様!

さよなら世界、私たちだけの色に染める

こんな私も、あなたが愛して

作ってくれた命の形よね


信じています

さぁ行こう!


貴方も行こうよ

どこまでも(一緒に!


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