悪食=猫男爵の成り上がり 中 ~帝国軍入隊編~
へいへへい
「おい猫小僧!飯の時間だ!」
親切な人間が、お頭付きの魚の骨を投げてくれる!
あり難い!涙が出るほどうれしい…うぅ!うめぇ…うんめぇ!
「ありがとうございます!どんな仕事も申しつけ下さい!」
働かざる者食うべからずだ!
俺は受けた恩を返すべく、床に落ちた小骨も拾いむさぼりながらそう答えた!
「えぇ…!?あ、…あぁー。うーん…えっ煙突掃除とか?」
「喜んでぇええええ!」
……さすが人間族は頭が良い!
猫魔族の軽やかな身のこなしと、まだ子供の自分の体躯
それに完全にマッチングした素晴らしい仕事を与えてくれた!
俺は人間達が辞めろと言うまで、町中の煙突を掃除する勢いで働き続けた!雨の日も、風の日も!
体中の体毛が黒く汚れ、黒猫魔族のようになったあたりで…なんと体を洗ってくれた。
うぅ…ありがたい…
俺の頑張りが認められたのか、食事はお頭付きの魚の骨だけでなく、ジャガイモの皮やフルーツの皮まで付けてくれるようになった!
俺はますます精をだした!
煙突にこだわらず、排水講の掃除も担当になった!
仕事が増える…つまり認められている!
あぁ…捕らわれの身でありながらも、なんたる充実感!
俺は貴族の靴を舐める仕事も任された、人間の文化は不思議だ。
そんな俺が挨拶をすると商店街の人達が人間が食べるような丸々とした大きなパン(カビの生えた)やまだ食べれる所のある腐りかけの果実を無償でくれた。
うぉおお涙が止まらない!
その時の年はそうだな…多分10歳ちょっとだったと思う。
育ち盛りの俺は、食べれば食べるだけ成長し、やがて13歳、猫魔族の成人の年齢に達した。
まさか生きて大人になれるなんて、正直思って居なかった。ファンファンは…ちゃんと生きてるかなぁ
相変わらず首輪は付いていたし故郷を思うとセンチな夜もあったが仕方ない。
そんな夜はこっそりと、昔父さんから習った魔法の練習をしたものだ。
夜に目立つ火や雷の魔法は避けて、俺は“水の魔法”の練習をした。
それが良かったのかもしれない。
「おい猫男、今日は洗濯を頼むぜ!」
「ハイ喜んで!」
……渦巻け水よ!清めの力よ!…ダンスアクアクリーン!
「おーい!猫ちゃん皿洗いたのめるぅー?」
「ハイ喜んで!」
……水は形を変え、空と混ざる!ミストクラフト!
…からの~
…集まり下り悪しきを流せ!バブル・ナイアガラ!
父さんから教わった魔法は仕事に大変役立った!おかげで人間達に恩返しが出来る!
そんやある日、城壁の掃除を頼まれた時に使った<天に至る水の柱>がサカナール伯爵の目に止まり。
俺は異種族の奴隷でありながらも皇帝様の前に立つことになった。
時の皇帝サエワタール3世様は、首輪の鍵を手に持ちこう言った。
「この鍵を拾い、自由を勝ち取ってみよ。その暁には奴隷の身分を開放し、正式に帝国と民としよう」
そういうと皇帝は、国一番の湖に鍵を捨てた。
ドラゴンの末裔…ナイアガラワニが泳ぐ湖だ。
皇帝の取り巻き達や、サエワタールの街を支配していた伯爵は笑顔だった。あぁ、俺も笑顔になってしまう!
「私のような魔族に…奴隷に…このようなチャンスをくださった皇帝に深い敬意と感謝を、そして…忠誠を捧げます!」
「…っえ?」
…力なく、星に捕らわれ沈む、水底の聖霊よ!我の力を与え、星の束縛を解き放たん!…
ダンスター=ムー=レイクアップ!
湖が空へと浮かんだ。
ナイアガラワニ達は浮かんだことさえも築かずに空のプールでゆらゆらと寝ている。
俺は皇帝様を待たせるわけにはいかないので全速力で鍵を拾い、皇帝様の前に舞い戻り鍵をお渡しした。
そして一礼をし、そそくさと湖を元に戻す。
ボッドシャアアア!
…その時失敗して、跳ね上がった水が貴族たちにかかってしまい肝を冷やしたが、やさしい皇帝様が「良い」とたしなめてくださった。
俺は一礼では足りないと平伏…すると伯爵様が首輪をはずして下さり…俺は正式に帝国の民となったのだ。
「おいネコオ、俺も魔法使え合いかな?」
俺は帝国軍に入隊した。
一緒に新兵として働く同僚達は、魔族である俺を軽蔑せず教えを乞う時は頭までさげた。
魔界に居た時は同族さえ捕まえ売り払う悪人を見てきた俺だ異種族の俺にそこまでする…人間の懐の深さに涙が溢れる。
俺は一人一人に全身全霊で魔法を教えた。
雨の日も風の日も夜勤の時も、遠征の時も…睡眠時間を削っての厳しい特訓にみんなは良くついてきてくれた。
…まぁしかし、人によって適正も違うので報われぬ者たちも居たわけだが…それでも俺を責める者は居なかった。
そうそう、同じ時期衛兵になった男は肉体強化の魔法を熱心に学び。
今では華のコロシアム勤めだそうだ!
巨大な岩をヒョイヒョイ上に投げて、お手玉するのが得意な益荒男だ。
水魔法は人間には相性が悪いようで、ある程度覚えたのは女性の新兵さんだけだった。
ただ、彼女も川を捻じ曲げたり、水流で木を切ったりは出来ず…一時間も魔力を染み込ませた上でバケツ一杯の水をふよふよ浮かせ操る程度…おそらく実戦では使えないだろう。
……そんなこんなしてると伯爵の部下、魔界の出入り口その門番として配属が決まった。
半年ほどを過ごした街を離れ、懐かしのサカナールへ!
国中に分かれる同期達と涙の別れ、サカナールには水魔法の女性兵士と向う事になった。
「ネコオ様!どうかこの先も末永く魔法のご教授を!」
「様はやめてよ、同期じゃないかホレボーレさん。」
サカナールに戻れば必然として、魔界との狭間にある壁を目にする…懐かしの魔界を眼前に、一族の無事を願う時
俺は妹の元へ駆け出したくなる衝動と戦った。
今はまだ行けない…貰ったものが多すぎる…俺は背中に感じる恩義を守り武勲を立て、成り上がるのだ!
猫魔族は元々、人の国で共存できた魔族、俺の活躍が…もっともっと人間に認められた時に「サカナールの時代は良かった」そうボヤキ…魔界を彷徨っていた同胞をきっと受け入れられるのだ。
「まだだ…ファンファン、今戻っても、結局は何も変える事は出来ない。」
偉大な戦士だった父は死んだ。
今の俺が森に戻っても、きっと一族を救えない。
「おーいネコオ!トイレ掃除たのむわ」
「はい喜んでぇええええ!」
首輪から解き放たれた猫魔族の少年 ネコオ
メガーネ伝説の数々に立ち会い、やがては男爵…そしてサカナール侯爵として、人と魔族の共に暮らす、古代サカナール王国を復活させる男である。
「ネコオ様にトイレ掃除など…私が変わりにやりますわ!」
「いいよ…うーん、ありがとうやっぱり一緒に頼める?」
「ハイ!共同作業!共同作業ですね!」
(親切な人ダナー)
つづく
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