悪食=猫男爵の成り上がり 上 ~魔界脱出編~
メガーネは終わったけど
猫男爵が気になりすぎて主人公化
「お腹すいたなぁー」
もう3日間、ダンゴ虫しか食べていない、育ち盛りのネコオとって、それは厳しい生活だった。
猫魔族は森に暮らしネズミや魚を取って生活する魔族なのだが、完全な狩猟民族の常として一か所に大人数では長くは暮らせない。獲物を狩り尽くしてはいけないのだ。
家族単位ならば山が幾つかあればよいが、一族単位で暮らすならば広域間を移動しながら生活をする。
要するにだ、猫魔族が暮らすには広大な土地が必要だった。
その昔、人間と仲が良かった時代…海辺のサカナール王国に住み海で漁をした時代があったとか。
それこそ海辺ならば定住できる。
こちらが動かなくても、獲物は常に回遊しているのだから…
「昔はの、まんま村ちゅう村もあったんじゃが戦争でぇな…はぁ、懐かしいわぃ」
「定住かぁ…イイなぁ…っあ!芋虫いたよ!やったー!」
……さて
現在、猫魔族は大変厳しい状況にあった。
サカナール王国は排他的な人間の国に滅ぼされ「帝国」に呑み込まれ消えてしまった。
海辺の猫魔族は国を追われ、魔界の森に住む森の猫魔族の地を頼った。
2つの部族が合流し協力して新しい時代を目指す…当時はそんなノリだったらしい。
しかし…人口の過密さは餓死者を産み、同族同士の殺し合いに発展した。
仲間を奴隷として他部族に売り、口減らしと私腹を肥やす者まで現れ正に地獄の時代の幕開けだ。
「サカナールの時代は良かった」
猫魔族の中にある、こんな気持ちも問題だった。
人間との共存に夢を見るなど…魔界で言ってはいけないのだ。
魔界には多くの魔族が居て、その中には特に人間を嫌悪する種族もいた…先の思想が漏れたのだろう猫魔族は迫害を受けるようになる。
特にサカナール出身の猫魔族には人間の血が混じっていたため深刻だ。
他魔族から目の敵にされ…ほそぼそとした家族単位での定住は危険を増し、なくなく大人数で集まり暮らすようになる。
すると今度は食糧が足りず、惨劇が繰り返す。
「あぁ…定住かぁ…イイなぁ、足痛いなぁ…」
かといい魔界はすでに12魔族の縄張り分けが住んでいた。
…
……
…………
「おなかが空いたなぁ…、もう三日も毛虫しか食べてない」
ネコオは大きな袋を担いで森を行く、袋には人間の街で貰ったジャガイモがあったがこれは大事な種イモだ。
どんなにひもじくても食べるわけにはいかない
ネコオの家系はサカナールの漁村出身、人間の血が入っていたため、今回の…猫魔族の命運をかけた買い出しはネコオの家に任された。
父は里を守る戦士であったし、母は病に伏せていた…妹は幼いし魔力もない
ネコオは戦士である父の血なのか村の子供の中では一番強い、この買い出しは変装をして人間の街に忍び込むという恐ろしく危険な作戦だったがネコオは自ら志願した。
「農業をすれば、みんなご飯が食べられる!母さんの病気もきっとよくなる!」
それに幼い妹が不憫であった、サカナール時代を知らない妹は満腹というものを知らないのだろう。
妹はこんな苛酷な生活の中、不満の一つも零さなかった。
…
……
…………
「お腹すいたなぁ…もう三日も木の皮しか食べてない」
けれど里はすぐそこだ!
フラフラになったネコオは、後ろを付けてくる河童達に気が付かなかった。
河童達から報告を受け“猫ホスト”はようやく一息ついた。
猫ホストは仲間を他魔族に売った奴隷商で当然森に居場所は無い、魔界の最北の地トマト山の温泉街まで奴隷を売りながらたどり着いたがこれで一安心とはならないだろう。
「チィ…ここ迄来て、まだ残飯生活かよッペ!」
仲間を売り生き延びる…当然その所業はあの地獄を切り抜けるための一時しのぎにすぎない。
実質彼は温泉街に辿り着いただけの浮浪者だ、仕事は無い…また…仲間を売れば幾らかにはなるか?
奴隷商をやるにしてもだ、猫魔族の立場は弱い買い手はだれも買い叩いた…しかし今更里にも戻れない戻ってもまた殺し合いか?」
チャリチャリ…ひと村売った、ふた村売った…自身は食詰め小銭を貯める。
そうこうするうち、犯罪を取り仕切る河童族とも繋がりが持てた。
「なんとか商売を考えないとな、奴隷を売って終わりではなく…奴隷を使った店でも開くか」
集めた資金が尽きる前に猫ホストは動いた、トマト山の街で場所のめぼしと方針を決め…あとは“従業員”を用意すればなんとかなる。
そう思い故郷の森に戻ってきたが…今回の獲物、心当たりの場所に村は無かった。
「…まさかと思ってサカナールを見に行ったら、まさか人間と交流があるとはな」
猫ホストは生粋の魔界生まれ、サカナールから来た同族には辟易していた…
「あいつらが来たからこんな事になったんだ、更に人間と交流なんてされていたらよぉ…糞!」
魔界には人間嫌いのやっかいな魔族がいる。これ以上猫魔族の立場を悪くするわけにはいかない。他の誰でもない
自分と……家族の生活を守るためだ!
「あのガキをつけて、里を見つけたら襲ってくれ…あとの手はずは準備する」
猫ホストはどうすれば良かったのだろうか。
おとなしく餓えて死んでいれば…手を血に染める事は無かっただろう。
ヨタヨタと歩く少年の背を見つめ猫ホストの心を一瞬冷たい物が駆け抜けた…が、今更どうしようも無い話だ。
猫ホストは瞳を細く引き締め、かつての同族を“獲物”と定めた。
……ここは魔界、弱肉強食の世界なのだ。
河童達の襲撃により、ネコオの父は死んだ。
生き残った者たちは再び魔界中を転々と逃げ回り…ネコオの持ち帰った種芋は河童に食われ…結局畑は持てなかった。
二回目の移動に母は耐えられる命を落とし、ネコオは唯一残った家族を妹ファンファンを守ると決めた。
妹が7歳になった頃…再び河童族の夜襲があった。
ネコオは仲間を助けるために、否、妹助けるために駆け出した。父から教わった猫魔法を放ち石を投げ、河童の注意を惹きながら走り続ける。
自分が囮になってる間に、みんなが助かればそれで良い!
それにネコオには逃げ切る算段があったサカナールの街だ、命からがらたどり着き、塀を超えた!
かつて潜入に利用した見張り塔の死角からの猫魔族特有の身軽さを利用して滑り込んだ!
人間の街サカナールまでは河童達は追ってはこない!
「ハァハァ…あとは、大きく回ってみんなの元へ…」
…ネコオの意識はそこで途切れた。
極度の疲労、心労…そして過度の栄養失調。
ネコオは夢の中で、ジャガイモ畑を耕していた。
これでみんなでお腹いっぱい食べれる。
ガチャン
……当然のことながら、ネコオが目覚めたのは檻の中、ここは人間の国“帝国”の街サカナール。
ネコオの首には、赤い首輪がつけられていた。
正直一番好き(確信




