猫魔族兄妹の伝説 ~炎の街と水龍の主~
ちょっと抜けを発見、加筆しました。
R2.8.16
猫魔族の代表に選ばれた時、ファンファンは長老から神器を賜った。遥か昔から…歴代の猫魔王達の間で受け継がれた秘宝
「…ま、そういう事だから俺を敬えよ小娘」
ファンファンの首元でそう宣うのは白い子猫…の、生首のような人形だった。
「お知恵をお貸しください、大賢者オカシラ様!」
ドーナッツ宮殿の地下に作られた牢獄、正式に軍に引き渡され、監獄に投獄される前の仮の拘留場として、ファンファンは乱暴な目には合わずそこで沙汰を待つよう言われた。
牙ゴリラ族の暴挙を受け、緊急で拘束されたファンファンであったが、まがりなりにも魔王国の代表…使節団の団長だ。事件と魔王国の繋がり陰謀は疑惑でしかなく、ファンファンは神器を取り上げられる事もなく暗い部屋で言われたままに動きを待…てない!
牙ゴリラの暴挙、サカナールと言う場所…じっとなんかしては居られない!
「お知恵をお貸しください、大賢者オカシラ様!夕飯は鮎の塩焼きに致します!」
今ならば抜け出す事も出来る。…否
監獄に移される前、今を逃したら逃げ出す事は叶わない!
しかし、そう易々と「決断」が出来る決断ではないのだ。下手に逃げだせば、罪を認め、それは戦乱の世の幾度目かの幕開け、その後押しになるだろう。
個人の願望と国としての立場…比べるまでもない?ならば言い換えよう、身内と世界だ。
「助けて下さい…オカシラ様…」
震えていた、責任を人任せにする卑怯者の…自身無い、頼りない、縋るような声だった。
ファンファンは自身の人生を振り返り、そしてこの数年感の平安を思う…もう終わりにしなければならないのだ!こんな地獄のような時代を!でも!
「…ふん、たくわんも付けてくれ!それならば答えを出してやろう…」
「…オカシラ様!」
白い子猫の生首、神器の一つ「大賢者オカシラ様」は重々しく口を開いた。
「…今日のお前の恋愛運はだ。デートに誘うなら2日後がいいだろう…ちなみに、ラッキーアイテムはバナナの皮…いだあああああああ!」
…っハ!?
しまった、思わず髭を引っ張っていた。
「大丈夫ですか!オカシラ様!?一体何が!?」
「嘘だろ小娘!?えっとぼけるの?マンツーマンの密室、しかも現行犯自身が被害者を前にして!?」
…どうやら、オカシラ様はシエスタ(昼寝)をしていて事の流れを理解していないようだった。
オカシラ様の顎を撫で、擽りながら、ファンファンは的確に状況を説明する。
「…ホゥ、牙ゴリラ族の反乱か!それは行幸!」
「何を呑気な!折角の終戦交渉が水の泡ですよ!?三年間の血と涙の結晶が…メガーネ様と私の共同作業がこんな結末を迎えるなんて!」
「いだだ、髭を引っ張るな!…いや、お前がアタックしてただけだろそれ!」
オカシら様が語るには、これは魔王国の膿、ひいては人間との平和締結の最大の障害「牙ゴリラ族」を一掃する素晴らしい事件だという事だ。
本当に魔王国は関与していなかったのだから、堂々と構えていればいいとの事。
「…もちろん、ケジメは必要だ。牙ゴリラ一族にはラグナ嬢ちゃんの裁きの雷、13本目の火柱となってもらう事で歴史の穢れを清めてもらおう」
……そうだ。その通りだ、何を慌てていたんだろう。
賢者様のお話はいつも筋が通っていて、それに従えば間違いはないのだ…しかし
ファンファンは指先の震えが止まらなかった、気が付けば頬を伝わった涙のしずくが、オカシラ様の顔を濡らす。
「むむむ…どうした小娘」
オカシラ様は不快感を示す事も無く、道具として今の持ち主を心配し…違う、神器としてでも猫魔族を見守り続けたオカシラ様にとって…この娘は、そう…本当の娘と同じなのだ。
しゃくりあげはじめた娘を宥めるようにオカシラ様は声をかける。
「大丈夫だ…娘よ。我は大賢者オカシラである。国の大事から恋の相談まで…お前の涙の理由さえ、きっと解決に導こうぞ」
ファンファンは…サカナールの街を避けていた。戦争が終わるまでは決して、会ってはいけない人が居たからだ。
牙ゴリラの暴動はサカナールの街で起こったという。
あの街を任されたあの人は、きっと人々を守るため、きっと最前線で勇敢に戦っている事だろう…それは確信だ。
彼は…兄は…何時だって自分を投げ出し誰かを守る。
幼かったファンファンを守るため、囮になって走るその背中をファンファンは時々夢に見た。
「オカシラ様…サカナールに…お兄ちゃんが!」
牢獄を抜け出し…北の空へと飛び立つ影があった。
猫魔族に伝わるもう一つの神器 巨大な魚の骨 “マンマ”魔法を纏う鉱石、魔鉱石によって作られた…猫魔族に伝わる最強の矛!
<<…100年ブリか?オカシラ>>
「馬鹿言え…3万年近く経ってるぜ!…あとな!今は大賢者じゃ!」
ファンファンを牢獄に残し、マンマとオカシラは空を飛んだ。
<それにしてもしけた身体だ、前の魔王は雷の魔法で、その前は炎の体をくれたもんだが…透明な水の体じゃぁよ…骨が透けちまってしまらねぇぜ!>
マンマの能力は持ち主の魔力で作られた肉体での飛翔と攻撃、今回の持ち主は脆弱な魔力で、まんまを呼び出して倒れてしまった。
肉体とすべく魔力も少なく、それらは移動に注がれて…
空を駆けながらもどんどん体は細くなる!
「しけた身体とは馬鹿を言うな!お前の体を作ったのはあの子の涙じゃ!」
猫魔族の神器、二つの秘宝はサカナールの街、その領主…悪食・猫男爵の元へと向かう!
<知るかよ!初対面だわ!状況わからんわ!…次の継承者ってのは凄い魔法使いなんだろうな!?>
「…すまん、わしもあった事は無いんじゃよ」
◇ ◆ ◇ ◆
燃え盛る街を前に…猫男爵は必死だった。
思い出深きサカナール、あの裏路地でゴミを漁った日々があった
あっちのパン屋で、カビたパンに涙した日があった(嬉しくて)
町々の煙突は…奴隷であった、猫魔族の少年が…日々の仕事として必死に掃除を続けた思い出の塔だ。
「猫男爵…もう駄目だ!町はおしまいだ!」
猫男爵は必死に…己の中の魔力を練る。…否…命を!
この町は…奴隷だった少年を
この町の人々は…魔族であったそんな俺を育み…信頼し…今や…!
「猫男爵!住民の避難は完了しました!…どうか!どうか男爵も!」
「男爵!」
「猫さん!」
「猫男さん!」
おかしな人達だ、おかしな国だ。なんで敵方である魔族に…爵位なんて与えてくれたんだ?こんな身に余る信頼を…あぁ…応えねば、返さねば!
猫男爵は己の中に、水の流れをイメージする。
父は水魔法の優れた使い手であった…猫男は…駄目だ、魔力は練れない…っが、「命」を使えば…やり方はある!
シュパァアアアアン!
…それは、一滴の雨水と、白い猫の首であった。
「…ハ!?」
命を錬り、燃え盛る街に向け放たんとする男爵の…前に突き出した掌に…猫の生首が収まっている。
「…そのやり方は良くないなぁ、若造よ」
「な…生首が喋った!?だ…男爵これは!?」
周りの兵達がざわついた。それはそうだ…意味が解らない。
ただ…猫男を除いては…
猫魔族に伝わる二つの神器<大賢者オカシラ>と<魔槍マンマ>その見た目は…
「大賢者様…ですか?」
「いかにも、…さすがファンファンの兄じゃ、さっしが良いのぉ!ふぉっふぉっふぉ」
「ファンファン!?」
…それは故郷に残した、生き別れの妹の名だ。
「…まぁ、詳しい話は…仕事を片付けてからにするとしよう。貴様にファンファンから贈り物だ。…このワシと、魔槍マンマをお前に授ける」
(ハァ…もう、体が…雨水一滴サイズだぜ…アブねぇ…)
オカシラ様とは別の声が…テレパシーのように脳に響く、そしてチクリと…オカシラを掴む手に痛みが走った。
ズァン ズブブブブ…ッゴバッ!
「っな!?」
体の中心から…強制的に魔力が引っ張られる。そしてその魔力は水となり…否、水の体を持つ生きた槍…猫魔族に伝わる神器<魔槍マンマ>となり顕現する!
(うぉおおお!オカシラ…こいつぁ…久々にガチで…“魔王級”だぜぇえええ!?)
嘆き悲しむ人々を炎から守り、街を巨大な水龍で沈火したのは。
ファンファンの兄にしてサカナール領主 悪食の猫男爵
やがて猫魔族を統べ、歴代の猫魔王に名を連ねる男だった。
↓
猫魔族のイメージ元の絵
(話に出てくる昔の魔王の一人、兄弟のご先祖)
ファンファンはご先祖様にそっくりらしいよ
大賢者様曰く
好きなキャラランキング
1位悪食の猫男爵
2位魔王ラグナ
3位インテリ=メガーネ
4位大賢者オカシラ
5位ファンファン
6位ゲーム大会で出た衛兵