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さくら商店はお客様の心のケアもいたします!

「んー、中々でないなぁ。やっぱり普通は神話級(レジェンド)なんてそうそう簡単にでるもんじゃないよね」


 『竜人の祠』ダンジョンにやって来て3日目、私はひとり20階層の休息所で溜息をついていた。

 ここに入る前にポーションと食料、それからダンジョン内で長時間活動するなら必須と言われる火の実を山程購入し、外にも出ることなく休むこともなく、『鋼の肉体』の恩恵をフルに使って延々と20階層以降を探索していた。

 火の実は比較的温度の低いこのダンジョンでは必須だといわれていたけれど、私には正直いらない物だったなぁ。

 精神的に参ってしまいそうな環境でも『健康な精神』のおかげか特に苦にならないのはありがたかったけれど、流石に飽きてくるという感覚は防ぎようがなく3日目にはついに敗北し休息所へと足を運んでしまった。

 何せ効率優先で地図を作成しながら宝箱を片っ端から開けているだけで、戦闘も剛腕の篭手(パワー・ハンド)の力で殴り飛ばすだけだもの。飽きてしまっても仕方がないよね。


「うーん。もう少し階層を下げるかぁ? ここが全階層40階層だから……30階層以降をメインにすれば……でもそこまで行くと殆ど人に会わないから売り上げが……」


 そう、ここは上級ダンジョン。冒険者の数は初級、中級に比べると格段に少ないんだよね。

 ただでさえ敵が強くて階層数も多いとなると、深い階層にいるのはベテラン冒険者ばかりになる。

 そのレベルの冒険者になると自分の実力をしっかり管理できているので、無理なアタックはせずに引き際をしっかり見て撤退してしまう。

 そうなるとポーションもなかなか売れなくなってくる。

 他にアイテムはあるんだけど、そのほとんどが未鑑定品で鑑定が完了していないと価値がわからないんだよね。

 

「うーん、一度ミリアナの所に行こうかな? 未鑑定品だけで20個かぁ。武器が10本、防具が6個、消耗品が4個……鑑定費用が1個金貨1枚として20万リムになるね。まぁここでエクスポーションが1本売れたから問題はないかな」


 私はその場に横になるとぼーっと天井を見上げる。

 ここは20階層にある休息所『せせらぎ』。どうしてダンジョンにこんなところがあるのか知らないけれど、結構広い空間にポツンと『足湯』が設置されている。

 最初は「怪しい」と思ったけれど、やっぱり元日本人だけあってお湯の誘惑には勝てないよねぇ。

 足をつけてみるとまたこれが最高に気持ち良くて、まるで疲れが足の裏側から外へと滲み出ていくみたいに錯覚するほど。


「すまん、少しいいか?」

「はい?」


 私は身体を起こすと声の方へ視線を向ける。

 いつの間に近づいてきていたのかわからないけれど、そこには銀の軽装鎧を纏った凛々しい女性がひとり私の傍で立っていた。


「休憩中にすまない。貴方が噂のダンジョンのアイテム屋か?」

「あ、はいそうですよー。毎度どうもー」

「ああ良かった。よければポーションを10本ほど売ってはくれないか? 先程消耗品の入った鞄をトカゲに斬られてしまってな。全て割れてしまったのだ」


 女性はそう言うとズタズタになった鞄を持ち上げる。


「ああ、大変でしたねぇ。ポーション以外にも食料品、飲用水、あと予備の鞄がありますよ」

「おお、助かる。ダンジョンの中だというのに品揃えがいいな」

「私重量制限ないので!」


 私は即座に『異界商店(さくら商店)』を開くとアイテムを並べていく。

 女性は一瞬戸惑ったように見えたがすぐにコツをつかんだのか買い物を済ませ、手に入れたアイテムをじっと見ている。


「そういえば、このダンジョンで武器を拾ってはいないか? 宝箱から出ると噂されているんだが……」

「武器、まぁ10本ほどありますね。宝箱からでたのは……ええと3本かな?」

「槍は!? 槍はなかったか!?」

「や、槍はないですね」

「そ、そうか。すまん、驚かせたな」

「探してるんですか?」

「ああ、伝説級の槍でな。『竜の蒼槍(ブルーインパルス)』という槍だ。伝説級ながらその貫通力は神話級に匹敵するが扱いが難しいと言われている。いまだに5本ほどしか見つかっていない槍なんだ」

「ふむふむ、竜の蒼槍(ブルーインパルス)ですか。なかなかにお洒落な名前ですね」

「特殊な貫通スキル『インパルス』を常時纏っているそうだ。魔力を込めればいかなるものも貫通する特殊スキルは魔力の消費は多いが、私の固有スキルと相性が良さそうなのでな。目標としている」

「じゃあこのまま下の階層に?」

「ああ、補充もできたし30階層を目指そうと思う」

「じゃあ一緒に行きませんか? 私も少しそこの階層に用がありまして」

「ではPTを組むか。よろしく頼むぞ商人殿。私の名はシルヴィアだ」

「よろしくお願いします! 私はサクラです!」


 こうして思いがけない同行者ができた。

 これで『飽き』という最強の敵相手には余裕で勝利できるんじゃないかな?


 

 私達は順調に階層を降りていく。

 シルヴィアはかなりの腕前らしく、このダンジョンのメインモンスターであるトカゲ(リザードソルジャー)を難なく打ち倒していく。

 その速度は目で追うのがやっとで何をしているのかすらわからないレベルだ。

 まぁソロでこの階層まで降りてこられる時点で実力者なのはわかっていたけれど、まさかここまでとは思いもしなかったなぁ。

 多分シルヴィアならこの前の『巨大蜘蛛(アンデッドスパイダー)』も倒してしまえるんじゃないだろうか?


「ところでサクラ、貴方は何故30階層に?」

「ちょっと欲しいアイテムがありまして。欠損部分を修復するポーションを探してるんですよ」

「ああ、『エリクシルポーション』か」

「あ、そんな名前なんですね」

「ああよく知っている。何せ――む、敵だな」

「本当だ――って、なんか紫の光を纏ってませんか?」

「まずいな、ネームドか」

「ネームド?」

「ああ。上級ダンジョンにはボス以外に時折こうして他のモンスターよりも段違いに強い奴ができることがある。それゆえに上級者ダンジョンなのだ。ソロの時には会いたくはない相手だな」


 ネームドと呼ばれたモンスターは、見た目にはその辺にいるトカゲ(リザードソルジャー)と変わりないが、その手には槍を持ちまるで歴戦の強者の様な雰囲気を纏っている。

 いや私にはわからないんだけど、何となく圧迫感が凄いんだよね。

 そんな事を考えているとネームドトカゲは槍をくるりと回すと捉えることも難しい速度で距離を詰めてくる。

 シルヴィアが迎撃する為に一歩前へと飛び出すが、ネームドトカゲはあろうことか壁を器用に使い私の方へと突進してくる。


「え、ちょ」

「まずい! よけろ!」


 私は咄嗟に地面を転がり当たらない事を祈る。

 あんなの当たったら間違いなくぐちゃぐちゃになっちゃうよ!

 しかし避けたはずの私の左腕に1cm程の切り傷ができる。

 私は驚いてその傷口に触れる……あ、よかった、薄皮が切れたくらいだ。


「シ、シルヴィアさん! あれだ! あれが竜の蒼槍(ブルーインパスル)!!」

「なんだと!?」

「私のスキルを貫通する攻撃なんてそうないよ! だとしたらあの槍は相当な威力の物かそういうスキルを持っているとしか思えない! けれど私の商人としての勘が叫んでる! あれは凄く良い物だって!!」


 私は若干興奮しながらシルヴィアの後ろへと隠れる。

 この世界に来て初めて薄皮1枚とはいってもダメージを受けたんだから仕方がないけど、何より探していた目当ての物が目の前に現れた興奮と来たらそんな傷の事なんてどうでもいいと思えるくらいだ。

 シルヴィアも興奮からか眼つきが変わっている。

 しかしそれでも飛び掛からないのは、自己鍛錬によって感情を制御できている証拠なのだろう。


「ああ、待ちわびた……待ちわびたぞ! そこのネームド! その槍は私が貰い受けるぞ!!」


 ネームドトカゲはシルヴィアの言葉に反応したのか、目元をニヤリと歪めて笑っている。


「ハ、ハハハハハ! ニンゲンヨ、ヨクゾコノ槍ガ竜の蒼槍(ブルーインパルス)ダト見破ッタナ! ナラバ、最後マデ残ッタモノがコノヤリヲ手ニスル。ソレデイイナ!?」

「望むところ!! いざ参る!!」

「コイ! 女騎士ヨ!!」


 トカゲが喋ったことに驚いた私とは違い、シルヴィアはさも当たり前のように会話をしている。

 どうもいまだにこの世界の事には慣れていないけれど、今はそんなこと言ってる場合じゃない。

 万が一シルヴィアが負ければ私も死ぬかもしれないわけだし、ここはどうにかしたいけれど……シルヴィアは一騎打ちとか邪魔したら怒るよねぇ。


「はぁっ!!」

「マダマダ!!」


 そんな事を考えている間にも戦いは苛烈を極めている。

 私も段々と眼が慣れてきたがそれでも追いきれないほどの手数の応酬が目の前で繰り広げられている。

 時々シルヴィアの鎧が抉られ欠片となって私の方へと飛んでくるが、そんな事は意に介さず槍と槍による戦いはより加速していく。

 だけど後ろで見ているから分かる。

 徐々にシルヴィアが押されているのが。

 装備の差もあるだろうけど、一番の理由はその実力差だ。

 

「くっ!?」

「ドウシタ! 威勢ダケカ!?」


 段々と傷が増えていく。

 致命傷になるような攻撃は全て打ち払っているのは流石だけど、それでも無尽蔵の体力という訳にはいかないだろう。

 このままだとシルヴィアの負けで勝負が終わってしまう気がしてならない。


「後ロの娘ヨ貴様ハナニモセンノカッ!! ツマランナァ!!」

「え、いいの?」

「サクラ! 挑発に乗るな! こいつの実力は――」

「トカゲェエエ!! こっち見ろバーカ!!」

「ヌッ!?」


 私はネームドトカゲを大声で挑発する。

 声を掛けられたトカゲは視線をうっかり私へと向けてしまったのが運のツキだ。

 私が腰の短剣(デモンキャンセラー)を抜き放つとその場を真っ白な閃光が満たし影すら打ち払う。

 シルヴィアは丁度背を向けて立っていたから何が起こったのか見えていないが、シルヴィアの肩越しに私を直視したトカゲはその閃光の直撃を受けた。


「貰ったぁ!!」

「グブッ!?」


 刹那、シルヴィアの槍がネームドトカゲの胸を貫く。

 私が短剣を鞘にしまうと光は収まり、薄暗いダンジョンの通路へと戻る。


「あ」

「ど、どうしたサクラ!?」

「いや、ドロップアイテムが私の所に……」

「そうだろうな。私一人では死んでいたのだから、決定打を作ったのは貴女だ」

「おお! ほらこれ!」

「……あぁ、間違いなく竜の蒼槍(ブルーインパルス)だ!」

「やりましたねぇ!! じゃあ、はいどうぞ」

「え!?」

「ん? いや、はいどうぞ」

「待て待て!? どういうことだ!?」

「いや、欲しかったんでしょう?」

「だがPTプレイの基本は――」

「まぁそうですけど、私にも打算があっての事なので! 代わりにエリクシルポーションが見つかったら連絡くれませんか?」

「なるほど、そういう事か。交換という事だな……ならば私と一緒に一度町まで戻ってもらえるか? 宿屋にあるアイテムを預けていてな」

「構いませんけど?」


 私は頷くとシルヴィアと一緒にダンジョンを上っていった。



「ここが私の泊まっている宿屋だ。貴重品を預かってくれるサービスがあってな。重宝している。主人、預けたアイテムを頼む」

「おおシルヴィアさん、今回は早かったね! じゃあ出してくるから待ってな!」

「ここには伝説級アイテムで預かった品物を持ち主以外には取り出せないようにする金庫があるんだ。金貨5枚で預かってくれるから便利だよ」

「いいですね、安心して貴重品を預けていられるし」

「お待たせ。いつも通り取り出してってくれ!」

「いつもすまんな……よし、ありがとう、どれ、私の部屋へ行こうかサクラ」

「はーい」

 

 私は宿屋の2階にあるシルヴィアが借りている部屋へとやってくる。

 シルヴィアは部屋に入るなり槍をベッドに立てかけると、先程取り出してきた革のバッグをあさる。


「このバッグは便利なものでな。家にある専用の棚と中身を繋ぐことができる。棚にある物なら全て取り寄せることができるんだ。ただし棚に仕舞えるアイテムは10個までだが……あったあった。ホラこれを」

「え、これは?」

「エリクシルポーションだ。私の父が残したものだ」

「えぇー!?」

「さっきダンジョンの中で話そうとしたんだが、ネームドが現れたからそれどころじゃなかった。槍の礼だ受け取ってくれ」

「いいんですか?」

「むしろ少ない位だ。足りない分はまた金銭で払うようにする」

「いやいやこれでいいですよ」

「いいのか? まだ足りないように思うが……」

「じゃあ貸しって事で! 何か困ったことがあったらシルヴィアさんに頼ります!」

「ははは、わかった。その時は任せてくれ。私は王都シュバリオンで騎士団長をしているからいつでも訪ねて来てくれ」

「き、騎士団長!? 凄いじゃないですか!?」

「父の跡を継いだだけだ。勿論試験はパスしているからな。さて、貴方もそのポーションを待ってる人がいるのではないか? すぐに持っていってあげるといい」

「はい! じゃあまたお会いしましょう! ありがとうねシルヴィアさん!」

「ああ、こちらこそだ!」


 シルヴィアにお礼を言うと一目散にアルパンへと向かう。

 道中は走りながら、今回は運が味方してくれたおかげで早いうちに手に入ったけど毎回こういう訳にはいかないなぁと考えていた。

 けど今は仕事をちゃんとこなせたことの達成感の方が大きい。

 日本に居た頃はこんなに晴れ晴れとした気持ちになったことはなかったから純粋に嬉しいなと思う。


「早く届けに行くとしますか!」


 私はいつも以上に張り切って走った。



「しまったなぁ……あの子がどこにいるかわかんないや」


 私は息せいてアルパンまで帰ってきて気が付いた。

 あの女の子の家を知らないのだ。

 まぁ特徴的だしもと魔法使いの家なら誰か知ってるかもしれないね。


「ってなわけでパスティさん、教えてください」

「……こ、今回は特別ですよ」

「ありがとう!」


 市場で聞いてもわからなかった私はパスティに尋ねることにした。

 最初は訝しげだったけれど、事情を話すとため息をつき仕方がないといった感じで台帳を確認してくれている。


「ええと……あ、ありました。第4区画の5にある集合住宅ですね。その2階にいるそうです。魔法使いの方の方は、ですけど」

「ありがとう、早速行くよ!」


 私は登録所を飛び出すと早速地図を広げ第4区画へと向かう。

 進むにつれどんどんと人は減り、ついには建物も古めかしくなっていく。

 大通りとはまた違った、スラムの様な雰囲気が漂っている。

 10分程歩くと目当ての建物へとたどり着き、一度顔を合わせた少女を見つけることができた。

 心なしか以前よりも頬がこけ、目の下に隈も見える。

 かなり無理をして働いているようだ。


「こんにちはお嬢さん!」

「わ! びっくりした……」

「ご注文の品、お届けに上がりました」

「え、わ、私何も――あ、ダンジョンでお会いした!」

「覚えていてくれた? 毎度さくら商店でっす」

「あ、あの時はすみませんでした。無理なお願いをして……お金はそのまま相談料として受け取ってください」

「んー? あれは依頼料でしょ? 私はそう受け取ったんだけど」

「え!? そんな……あんな金額で私、そんなつもりじゃなくて……」

「はいこれ」


 私は俯きしどろもどろになる少女にポーション瓶を渡す。


「え? これは?」

「エリクシルポーション。眼、治せるよ?」

「――ほ、本当ですか!?」


 私は満面の笑みで頷く。

 少女の顔は一気に明るくなったが、同時にすぐに表情を曇らせる。


「けれど、これを買うお金がありません。折角とってきてくれたのに……」

「んー……あのさ、あなたこの前言ったよね? 『私を買ってくれ』って」

「あ、は、はい」

「じゃあ私があなたを買うよ」

「え?」

「お代はエリクシルポーションでどう?」

「本当ですか!? ありがとうございます!! 私なんてそんな価値ないかもしれませんが、どうとでも使ってください……!」

「よし、じゃあ君は今日から私の所有物だ。だからまずはお師匠さんの眼を――」

「じゃあ私の代わりにお願いできますか?」

「え?」

「私が行けば師匠の顔を見て別れが辛くなります。それにきっと要らないと突っ返されると思います……でも商人さんが代わりに行ってくれれば……私の事は『死んだ』と伝えて欲しいんです……もう忘れてくれと」


 少女は泣きながら震えるようにそう懇願する。

 それもそうか、普通身を売るという事は命を差し出すことと同意義なんだろう。

 この世界の事はまだよく分からないけれど、奴隷なんかもいるのかもしれないしそうなればもう2度と知っている人の傍には帰る事は出来ない。

 私がここで彼女の決定に文句をつけることはできないしそう願うならそうしよう。

 けど、そんなことまで頭が回らなかったなぁ……本当はミリアナの所で面倒見てもらおうと思ってたんだけど、この子は本当に命を差し出す気でいたなんて。

 それだけその師匠の事が大切なんだね。


「わかった」


 私はポーションを受け取ると少女を『異空の指輪』の中へ放り込み魔法使いの部屋へと入っていく。

 異空は開いたままだ。


「こんにちは魔法使いさん! さくら商店でーす!」

「え? え? どなた?」


 ベッドに腰かけて座っているのは想像よりもずっと若い女性だった。

 金の髪は痛みパサついていたが、その美しさはそう簡単には失われてはいないのか、薄暗い部屋の中に居てもなお輝いているように見える。

 しかしその両目は抉られ美しさとの対比が異質さを放っている。


「こんにちは、ええと、あの小さな少女のお師匠さんですか?」

「え、は、はい。エルフのメリンと申します……あの、私の弟子のマイルが何か?」

「私は商人のサクラです! 今日はそのマイルちゃんに頼まれて商品をお持ちしたんですよ!」

「まぁ……あの子、ここ数日は冒険者PTの荷物持ちの仕事を貰ったとかで出かけてまして……何かを頼んでいたのですか?」


 なるほど、あれからもお金を溜めようと色々と走り回っていたのか。

 どおりであんなに痩せて汚れているわけだ……健気すぎるよあの子。

 

「えーとですねぇ。取りあえずご注文の商品をお渡ししますね。はいっどうぞ」

「……ポーション?」

「そう、エリクシルポーション」

「え!? エリクシル、ですか!? そんな神話級のアイテムをどうしてあの子が」

「彼女の命ですよ」

「……え!?」

「彼女の命を対価に私が見つけてきました」

「ど、どういう……事ですか?」

「そのポーションの代価は彼女の命です。そして先程その代金を受け取りました。さぁ、彼女の命を代価にしたあなたの為のポーションですよ。飲んでください」

「い、いただけません……私は……あの子をそこまで追い詰めてしまっていたなんて…………これはお返ししますので、お願いです。あの子を、マイルを返して……! お願いします!!」

「いやそれはできません。ないものは返せない」

「そんな……そんな! お願いです! 私の命を差し出しますからどうかあの子だけは! マイルだけは助けてください!! 私の大切な弟子なんです!!」

「だってさ、マイルちゃん」


 異空の中からマイルを引っ張り出すと彼女は驚いたように尻もちをつき、辺りをキョロキョロと見回している。


「マイル!? マイルがいるのですか!? 返して! お願いですから私の大切な弟子を!」

「お師匠……」

「マイル!? マイル! 良かった……ああ、良かった!」


 メリンはベッドから落ちることも構わず必死でマインを探している。

 マインはそんなメリンの手を取ると涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら泣きじゃくった。


「マインちゃん、残念だけど返品されちゃったよ。でも私このアイテムを取りに行くのに凄くお金がかかってるんだよね。それはどうしたらいいかな?」

「そ、それは私が働いて……!」

「目が見えない人がどうやって働くの? それにあなた、マイルちゃんが今どんな状態なのかわかってるの?」

「え?」

「ボロボロで痩せこけて汚れてさ。眼が見えなくなったのは確かに可哀そうだけど……だけど引き取ったんならせめて大人になるまでは面倒見てあげてよ。自分でできないなら誰かに頼ってよ。落ち込んでベッドの上で座ってる暇があるなら足掻いてよ。貴方は……私とは違ってその力があるんだから。それからマインちゃんも、簡単に自分の命を差し出したりはしないで欲しいな。悲しむ人がいるんだから」

「商人さん……」

「さって、じゃあお金はメリンさんが払ってくださいね。はいこれマインちゃん」

「え?」

「お金を払ってくれる人がいるなら商品を売るのが商人でしょう?」

「あ、ありがどうごじゃいましゅぅぅぅ!」

「もう泣かないでよ面倒くさいなぁ。ホラ二人とも鼻水拭いて! 手がかかるなぁ! あ、ちょちょっと鼻水ついてるよ! ああもう! 困りますお客様!」

 


 その後メリルの眼は無事に元に戻りギルドマスターからの計らいもあって冒険者ギルド所属の魔法使いとして活躍している。

 マイルは家事をこなしながらギルドが開いている冒険者学校に通っている。

 この学校を出ればギルド職員としての道を選択することもできるし、冒険者としてダンジョンを駆けまわる事もできる。

 何を選ぶのかは彼女次第だけど選択肢はあってもいいと思うんだよね。


 そして私はパスティさん経由で毎月金貨2枚を受け取っている。

 これが私とメリン、マインが結んだ契約だから……。

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