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さくら商店はお客様をなるだけ悲しません!

完全なスランプでメインの小説は進みませんが、息抜きばかりが捗りますね!

どうぞよろしくお願いします!

「あのぉ……『さくら商店』って何ですか?」

「お、なんだそれなんかレアスキルか?」

「何を売ってるんだ? えええ!? エクスポーション!?」

「おーい、どうやって買ったらいい? ――おお、簡単だなありがとう!」


 売れ行きは好調でお客の入りも悪くない。

 何せ歩けば皆が振り返り物珍しそうに話しかけてはアイテムを買っていくのだから、買い置きのポーションはあっと言う間に少なくなってきた。

 ここは『コボルトの巣』。階層型で全15階層から構成される初級ダンジョンなんだって。

 階層の数が多いのはコボルト同士にも縄張りがあり、ある程度別れて暮らしているからだそう。

 比較的アンパルの街から近いから配達料は20リムと安くしておいたんだけど、どうやらそれが功を奏したのか皆が皆まとめて買えば100リムになるからと5本ずつ買っていってくれた。

 

「よぉし少しは儲けが出たかな! 少しでも稼ぐ感覚を覚えていかないと商売人じゃないからねぇ」

「あの、すいません……」

「はいはい! さくら商店でーす」


 私が振り返るとそこには誰の姿もなく……いや、姿はあった。

 視線を下げるとそこには私の背丈の半分ほどしかない少女が不安そうな顔で立っている。

 なんだろう、なんだか厄介事な気配がするよ。


「売っていただきたいものがあるんですが……」

「あ、はい! 何にします?」

「……あの、エクスポーションを売っていただけませんか?」

「あ、エクスポーションか」

「さっきダンジョンから出てきた人が言ってたんです! 『さくら商店』って変な看板を掲げた商人が売ってたって」

「変て……まぁ、ありますよエクスポーション。 値段は知ってる?」

「いえ……けれど高いというのは聞いたことがあります! だから私が貯めたお金を全部持ってきたんです! これ…………」

「どれどれ」


 少女が差しだしてきたボロボロの革の袋の中には金貨が1枚、銀貨が8枚、そして銅貨と劣銅貨が数えきれないほどはいっていた。

 私は少しだけ考えると今日のライア達に向けて放った言葉を思い出す。


『慈善事業じゃない』


 私はこの考えを変えるつもりはない。

 結局は格安で販売してしまったけど、お金はちゃんと貰っているから問題ないと思うんだ。

 だからと言って流石に安売りを繰り返すわけにはいかないんだよなぁ。


「たりませんか……?」

「そ、そうだね。はっきりと言うと全然足りない」

「じゃ、じゃあ私を買ってください!」

「いやいやいやバカ、ちょっと! 女の子がそんな事いうものじゃないよ!」

「けど、どうしても必要なんです!」

「んー……ねぇ、どうしてエクスポーションが必要なの?」


 私が聞くと少女は目を伏せた。

 訳アリなんだろうなぁと考えているとぽつりぽつりと話し始める。


「私、実は孤児なんです。本当の両親はダンジョンの攻略組をしていましたが、あるダンジョンを攻略中に死んだそうです。その時私は1歳でそのまま孤児院へと預けられました。それから4年後、私を引き取ってくれるという人が現れました。それが魔法使いの師匠なんです。」

「じゃあ君は魔法使いなの?」

「いえ、私は魔法使いには向かない体質で結局は基礎を教えてもらっただけです」

「そうなんだ。それで、もしかしてエクスポーションを使いたいのはその魔法使いの師匠?」

「そ、そうです。数年前、『蟲毒の洞穴』のモンスターが大繁殖期を迎えダンジョンから溢れたことがあります。その時私は未熟ながら師匠の手伝いの為に討伐隊と一緒にダンジョンへ向かったんですが……その時私がミスをしてしまって……私を庇った師匠はその時に眼を傷つけられ視力を失いました。魔法使いにとって視力は喉と同じくらい大事な所です。それから師匠は仕事を失い、私が何とか働いて生活してきました。けど私の稼ぎでは生活が出来なくて……師匠も段々と気力を失くしてしまって」

「その、肝心の眼は?」

「え、あ! そうか……エクスポーションは元になる物がないと……」


 エクスポーションは千切れた脚でも腕でも修復することができるけれど、それは千切れた部位があってこそなんだ。

 決して生えてくるわけじゃない。

 だから既に失って年数がたった部分はエクスポーションでは回復することができないんだ。


「すみません、あのお話は忘れてください……。ありがとう、ございました」

「あー……」


 少女はとぼとぼと出口に向かって歩いていく。

 その後ろ姿は幼さと相まって必要以上に小さく見えた。


「あ、すいませーん! ポーションくださーい!」

「あ、はい、ただいまー」


 さて、どうしたものかなぁ。




「マスター、聞きたいことがあるんですけど」

「バーのマスターみたいな呼び方をするな。……して、なんじゃ?」

「無くなった身体の部位を復活させるポーションってない?」

「……ある」

「あるの!? どこに行けば手に入る?」

「近い場所だと隣の街にある上級ダンジョン『竜人の祠』で産出している。だが最後に出たのは5年前じゃ。つまりそれほどまでに珍しいという事じゃな。ランクで言うとエクスポーションがランク6じゃが、件のポーションはランク9。間違いなく消耗品の中では神話級じゃ」

「うへぇ……まぁいいか。ちょっと行ってきますね」

「待て待て。昨日あの後他のメンバーから話を聞いてな。やはり『蟲毒の洞穴』は暫く封鎖することにした。幸い繁殖期ではないし暫くは大丈夫じゃろう。それと少し調べなければいけないこともあってな……故に封鎖を敢行した」

「成程、わかりました。また封鎖が解かれる頃には戻ってきますね」

「わかった。それとお主とPTを組んだあの二人がお主に礼を言いたいといっておったぞ。あの後お主が急に消えたもんじゃから困っておった。例の分配金は渡しておいたから金銭の問題はないじゃろうが」

「わぁ、何から何までありがとうございます! まぁそのうちまた会えると思うから、その時に挨拶しますよ!」


 私はそう言い残すと冒険者ギルドを後にする。

 このまま隣の街まで走って行って向こうのダンジョンで商売しながら目的のアイテムを探しに潜らなきゃいけない。

 確か『竜人の祠』って言ってたっけ。


「まぁ受け取っちゃったしね……前金」


 私は歩きながら手元にある革袋を眺めた。

 ボロボロで所々小さな穴が開いているこの袋は、きっと少ないお金をやりくりしながら大切な人の大切なものを取り戻すために努力した証なんだ。

 だったら私ができることをやってやる。

 商人を頼ってきたお客さんをガッカリさせたまま帰したら商売人の名折れ。


 さくら商店竜人の祠支店開店だよ!

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