初めてのPT。初めてのダンジョン。初めての……。後編
少し読みやすいように文章の構成を変えてみました。
何かお気づきの事がありましたら是非ご指摘ください!
よろしくお願いします!
「じゃあ少し行ってきます」
私は剛腕の篭手を装備するとボスの部屋まで進んでいく。
「ちょ、お、おい! ひとりでいくのか!?」
「え? まぁそうですね」
「さくら、階層の主は人食い蟻とは違う。いかに防御力の上がるスキルを身に着けていようと危険ではないか?」
「うーん、確かに言われてみればそうだけど。もし万が一また誰かの腕や足がもげたら困るし、首がもげたらどうしようもないもん」
「く、首は、確かにどうにもなりませんね……」
「それにゴレスは小型の虫型モンスターと戦うための装備しかないんでしょう?」
「確かに言われてしまえばそうだが……だが万が一というならお前の奥の手が通じなかったらどうする? 大人しく簀巻きにされて餌になるわけにもいかんだろう」
「ううわ、やだそれ。モンスターパニック映画の被害者じゃん」
「な、何を言ってるかはわからんが少しでも的は多い方がいいという話だ。なんにせよ出られなくて困るのは全員同じだからな」
私が少し考えるように首を傾げていると、ライアのPTメンバーが立ち上がり顔を見合わせて頷いた。
「それなら俺たちも行くぞ。ルーキーに全て任せて休んでいたらアレスに怒られてしまうからな」
「そうだな。早く帰らねぇとカカアに怒られちまう」
口々にそう声を上げると皆もう一度戦う準備を始める。
私は少し呆れたけどこういう強さは冒険者として重要な部分なんだろうなと少しだけ羨ましくも思ってしまう。
「なら……オレも連れていけ……」
突如かすれた声が聞こえ全員が準備の手を止める。
振り返ると、そこではアレスがライアに支えられ立ち上がろうとしている最中だった。
その顔は明らかに血の足りない重症患者のようだけど、死に向かう気配と言うか何とも言えない色は消えている。
「アレスさん? もう大丈夫なの?」
「いいや、立ち上がるので精いっぱいだ。おい、そこの……ガタイのデカイ……」
「お、オレか?」
ゴレスが呼ばれる。
アレスは自分の傍にある盾を指さすとニヤリと笑う。
「あの盾、あいつは伝説級の装備だ。お前に貸してやるから前衛をやれ。何かあったらお前が守るんだ。なぁに腕がもげても心配ねぇよ、なぁ? 商人のお嬢ちゃん」
「首じゃなかったら繋げるよ」
「だ、そうだ」
アレスは力なく笑う。その顔を見て全員が安心しきった顔をする。
彼らにとってこの青年がどれだけ柱としての役割を果たしているのかがよく分かる。きっと常に身体を張って皆を守ってきたんだろうね。
「じゃあ時間も惜しいし、作戦を説明するね。まずPTはお互いに統合しよう。何かあった時に状況把握するなら同じPTに居た方がいいんでしょう?」
「ああ、少なくとも生死はわかる」
「じゃあとりあえず纏まろう。今からボス部屋に行くわけだけど、ここから見ていてもどうにもそれらしい姿は見えない。多分ドーム……半球状の部屋だったから天井付近で私達を待ってると思うんだ。それならまずはゴレスを先頭として私、アンが出る。ボスが動いたら取りあえず私が切り札を切るよ。それで通じなかったら、その時は私達が気を引くから後ろから攻撃して。穴に戻れば追ってはこられないから後は持久戦になるね」
「その場合お前たちはどうする?」
「まぁ、隙を見て逃げ込むよ。ダメそうなら最後まで粘ってみるけど」
「危険な賭けだがやるしかない。万全なのはオレ達しかいないからな」
「ああぁ……緊張してきましたぁ!」
全員が黙ってうなずく。
アレスは少しでも血を取り戻すために携帯食料の干し肉と水を胃に流し込んでいたけど、ふと何かに気が付いたのか軽く片手をあげると質問をしてくる。
「そういえば切り札ってのはなんだ?」
「ああ、それを言わないとね。ほら、これだよ」
私は後ろを向くと全員に見えるように腰を突き出し短剣を見せる。
白い柄、白い鞘に金と青のラインがアクセントとなっているその短剣は、何かに反応してか細かく振動している。
「な、お、おいそりゃ……破魔の短剣か!?」
「えええ!? あの神話級の!?」
「おい、そんなこんなところでお目にかかれるもんなのか……」
その場がにわかに騒がしくなる。
そういえばミリアナも初めて鑑定した時は失神してたっけ? やっぱり神話級アイテムはあんまり人前では出さない方がいいなぁ。
「使い方は何となく聞いてるから大丈夫! これがあればアンデッドには効果抜群でしょう?」
「いや多分そうなんだろうが……その効果は見たことがないからな。話には聞くが」
「でもこれで生きて帰る可能性出ましたよ!」
全員の顔に生気が戻る。
さすがは破魔の短剣、人の心に巣くう魔……不安などの負の感情も消し去ってしまうなんて。
「じゃあ早速行こう! さっさと外に出て寝たいから! 朝早かったし!」
「じゃあ作戦通り。まず私達がでるよ!」
「ああ、借り受けた盾に恥じない働きをして見せる」
「わ、私も状態回復と聖域を張るなら任せてください!」
「よし……突貫!!」
ゴレスが盾を構えながら横穴から顔を覗かせ様子を確認する。
視界を上に向けるとどうやら対象を発見したようだ。
「いたぞ。こちらに気が付いているが甘く見ているのだろう。動く様子は見せない」
「よし。じゃあ一気に飛び出して挑発、接近させよう!」
「ははははいいい」
私達はゴレスの背中に隠れながら外へと飛び出す。
すると待ってましたと言わんばかりに天井から全長10メートルはあろうかという巨大な蜘蛛のモンスターが飛び降りながら私たち目掛けてその鋭い脚を伸ばした。
「今ださくら!!」
「おおともさ!! 任せろぉー!!」
私は盾の下から身を乗り出すと腰に手を回す。
柄に手が触れるとまるで待ってましたと言わんばかりに破魔の短剣がひときわ大きく振動し、するりと抵抗なくその身を抜かせる。
その瞬間、抜き放った刀身からは凄まじい量の光が溢れ出し辺りを白く染め上げる。
そしてその光は意志を持った蛇のように巨大な蜘蛛の身体へと突き刺ささり、間髪入れずその身体の内部から爆発的な光を爆ぜさせた。
蜘蛛はまるで光の濁流に飲まれるようにその姿を消し去り、後にはただ驚いて固まる私達だけが取り残される形になった。
「……え、なにこれ……ビーム兵器なの?」
「何も、することが無かったな……」
「私ただ驚いただけで終わりました」
相変わらず驚き固まる私達の元へとアレス達が走り寄ってくる。
その勢いたるや、さっきまで死にかけていたとは思えない程だ。
私は目を丸くし、ただされるがままに何度も何度も頭を撫でまわされていた。禿げそうだからやめて欲しいけど……。
それからは楽だったよ。
後は外に出るだけだから全員でモンスターを討伐しながら1階層を目指し階段を上っていく。
PTメンバーの数も当初の3人から14人に増えていたから、特に何もすることがないままただぼんやりと後をついていくだけだった。
道中で何人かのPTとすれ違ったが、事情を話すと探索を切り上げ一緒に外へと向かった。
「やぁっと出たー!」
地上へと戻りまた歓声が響く。
時間にして昼を過ぎたころだろうか、段々と冒険者の数も増えて賑わう頃にボロボロのPTがダンジョンから出てくるのを不思議がっている人が多かった。
アレス達が経緯を詰め所に報告すると、その日の『蟲毒の洞穴』は立ち入り禁止になってしまった。
何人かは「嘘ついてるんじゃないか?」と疑っていたが、私のアクセサリー真贋のネックレスでちゃんと証明をしておいたよ。
「すみません、冒険者ギルドから要請がありまして、怪我の軽い者は説明に来てくれとの事です」
詰め所に居る男性が私にそう告げる。
正直面倒だな、とは思ったけれど事が事だし行かない訳にはいかないよね。
私は一足先に帰ると告げると、そのまま冒険者ギルドへ向かって全力で駆けていく。勿論、早駆けの革靴の能力を使って。
「さて、では話を聞こうかの」
「いやその前に、どうして昨日のおじいさんがここに?」
先に冒険者ギルドへと到着した私は受付に座っていたパスティさんに挨拶をする。
一瞬登録所と間違えたかと思ったけど、日によってあっちとこっちを兼任していると教えてくれた。
ギルドマスターの部屋へと通された私はそこで思わぬ再会をすることになったんだ。
「まぁ、ギルドマスターじゃからな。しかしお主も昨日の今日でとんでもない事に出会う才能をいかんなく発揮しておるのぉ」
「まぁほら、イベント体質なんだよね多分。フラグ立てるのが上手いんだよ」
「よく分からんが……。で、何があった?」
私は見聞きした全てをギルドマスターへと報告する。
最初は信じられないといった顔をしていたけれど、私があるアイテムを異空の中から取り出したことで信じざるを得ない状況になったみたい。
「なんと……『汚れた魔石』か」
「私には何かわからなかったけど、ちょっと皆の前で出すのは問題があるかな? と思って黙ってたんだ。勿論、ネコババしようとしたわけじゃないんだけどね。その、なんていうか……凄く禍々しいよねコレ」
「……ああ、見せなくて正解じゃ。これはな、アンデッド化した魔物が稀に落とすものだが貴重な素材であると同時に精神汚染耐性を持たぬ者を錯乱させる効果がある危険なものだ。迂闊に見せびらかすものではないからのう」
「そんな危険なものもあるんだね。それギルドで買い取って皆に分配してくれない?」
「ああ、構わんよ、他の者にはワシから事情も話しておこう」
「ありがとう! さすがに卸先がないと私も売れないしね」
「して、めぼしいものは見つかったか?」
「全然! まぁ今回はアクシデントもあったし。ただ神話級装備の可笑しさを味わえただけでも意味はあったかな。誰も死んでないし」
「ではギルドから要請しても良いか?」
「え、何を何を?」
「明日から暫く『蟲毒の洞穴』内でダンジョン地図を作成してくれんか?」
「あー、それなんだけど、どうもあの地図は『自分が今居る場所』の地図は作れるみたいだけど、それ以外は一々足を運ばないといけないみたいなんだぁ」
「なるほど、それが問題であったか。ならば10階層までで構わん。走り回って地図の安全確保を頼みたい。そして万が一の事があった時は……コレを預けよう」
ギルドマスターは席を立つと机の引き出しの中から何やら小さな箱を取り出し私の前へと差し出す。
開けてみろという事なのかな?
「……ん、これは?」
「ああ、一応は伝説級のアイテムに分類される物で名を『脱兎の陣』という。ダンジョンのいかなる制限をも突破し一瞬で外へと逃げかえる事が出来る」
「おおお! 凄い、緊急脱出用のアイテムだ!」
「だがその仕様上一度使うとなくなる消耗品じゃ。考えて使ってくれると助かるな」
「なるほどぉ、じゃあ本当に緊急脱出用だね。これ持って数日あそこを探索すればいいんだね?」
「ああ、その間報酬も出す。10階層までは通常通り開放するがそれ以降は自己責任としておく」
「あ、じゃあ1個こっちからもお願いしていい?」
「なんじゃ?」
「世界地図の件だけど、冒険者ギルドで販売してくれないかな?」
「ほう?」
「冒険者ギルドならスキルの秘匿もしてくれるだろうし、何より信頼がある。いきなり地図を私みたいな初心者商人が売りに出しても鼻で笑われておしまいだよね? だったら少しでも信用できるところで販売して貰えばいいかなって」
「考えたな。やはりその機転は商人向けじゃ。少し考えればわかる事を考えられぬものが多い中、柔軟な思考をしておる。いいだろう、ではまず少数をパスティに預けるがいい。あれは歳は若いがギルドの幹部候補じゃから信用もできる」
「わかった! じゃあ私の取り分が5、ギルドが5でどう?」
「……良いのか? やけに少なくないか?」
「勿論その5には私の情報隠蔽料も入ってるよ」
「わかった。明日契約書を渡そう」
「はーい、じゃあ今日はとりあえず夕方まで『コボルトの巣』へ行ってくるよ」
私はそう言うと手を振って部屋を後にする。
何故かギルドマスターが苦笑いをしていたけれど理由はわからない。ああ、いや、何となく『まだ行くの?』的な感じだったなぁ。
だってポーションまだまだ残ってるし、初心者が多い所ならきっと買ってくれる人も多いよね!
私は鼻歌を歌いながら街の西門を抜けていく。
目指せ完売! そう歌いながら全速力で『コボルトの巣』へと脚を進めるのだった。