アーティファクトの存在価値は
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是非これからもご覧になってくださいね!
「ではギルドカードをお預かります。こちらへどうぞ」
パスティさんに促されるまま私は3メートルはあるクリスタルの前に立っている。説明によるとこの『ジョブクリスタル』が私の職業を決定・保存してくれるらしい。それと同時に職業に応じた『固有スキル』を獲得する。これは私の潜在能力によるものだけど、一体何を獲得するのか楽しみで仕方がない。
「ではジョブクリスタルに手をかざしてください」
「これでいいですか?」
「どうですか目の前に何か見えませんか?」
「お、おお! 凄い! 見えます見えます。えー何々、商人……あった! これかな?」
「はい、間違いありません」
「じゃあ、ポチっと!」
『職業選択。商人を選択しました。これにより商人由来のスキルを取得します。なお固有スキルは最初に一度しか獲得できません。他の職に転職しても固有スキルに変化はありません。よろしいですか?』
「お願いしまーす」
『サクラ・ハナオウギを商人として認証しました。固有スキル獲得。おめでとうございます』
身体から力が抜けるような感覚に少し驚いたけど無事に固有スキルを獲得したみたいだ。こういう所は本当にゲームみたいだなぁ。こういうゲームがあれば、もう少し長生きできたかな。
「はい、お疲れ様でした。ギルドカードをお返しします。スキルの確認はギルドカードで行ってください」
「わーい! どんなスキルが手に入ったんだろう? どれどれ……」
《固有スキル:異界商店Lv1を獲得。異空の指輪と接続されました》
「えーと……」
「なんでしょうね、これ……」
「パスティさんに分からないなら私にもちょっと……」
「と、とりあえず使ってみればわかります。ええと、登録所の裏庭を使って検証しましょう。先にどうぞ、私は休憩の札を掛けてきます」
私は冒険者登録所の中を通り裏庭へと出る。裏庭は芝が綺麗に整えられ十分に綺麗だ。周りを2メートル程度の壁に囲まれ少し圧迫感があるけどこれなら覗かれることもないし。
暫くするとパスティさんがやってくる。本当に休憩を取るつもりなのか小さなカゴにパンを入れて持ってきた。
「ええと、どうやって使うんですか?」
「そうですね。まず自分がそのスキルを使えると認識する必要があります。この場合ギルドカードに記載されてますから問題ないですね。あとは頭で念じるだけで大丈夫です。上手くいかなければスキル名を口頭で述べても構いません」
「ええと、じゃあ初めてなんで…『異界商店』」
私がスキル名を呟くと同時に私を中心として白い光が明滅する。すると頭の中に『開店』の文字が浮かんだ。
『販売商品の補充をしてください』
機械的な声が聞こえる。直感的に異空の指輪を操作し収納空間を開くとアイテム一覧の中に販売可能アイテムのタブが追加されている。なんてゲームみたいな都合のいい機能だろう! こういうのが見たかったんだよ!
試しに薬草を1枚選んで値段を設定してみる。すると私の視界に文字が浮き出る『薬草販売中:在庫1 値段銅貨1枚』と表示される。
「面白いスキルですね」
「そっちからはどう見えますか?」
「『薬草販売中』って文字がずっと頭上に表示されています」
「試しに買ってみてください」
「え、どうしたらいいんだろう。……薬草ください」
「はい、銅貨1枚です」
私がパスティさんから銅貨を1枚受け取るとパスティさんの手に薬草が1枚現れる。
「わ、これは便利ですね。何種類も販売するとどうなるんでしょうね?」
「やってみよう」
今度は薬草、そこら辺の草、小石を銅貨1枚で販売状態にする。
「あ、頭上に販売中のアイテム名が追加されてます。まさにこれは移動商店ですね」
「移動商店か成程! 目的にピッタリだね!」
私は手を叩いて喜ぶとギルドカードのスキル欄にある『異界商店』の文字を撫でる。するとギルドカード上にスキルの説明文が表示される。
『異界商店。その名の通り異界に存在する商店。同系統のスキル、アイテムと接続することが可能。販売可能商品を選び値段を設定することで商店として機能する。レベルの上昇により店舗を設置することが可能になる』
なるほど、凄く便利。レベルが上がれば店舗の設置も可能なんてお店買う必要がないじゃないか。それにこれならダンジョン内を歩き回っていれば出会う冒険者=お客さんになるわけだ。相手に買う気があればだけど。
あとはお金を素早く受けとれるなら戦闘中にも販売が可能というのが凄い。まぁそうなるとお客さんが近づいてこないだろうけどさ。
あとPT組むならアイテムは別に用意したほうがいいね。流石に料金を受け取ってる暇もないだろうし。
「よし、じゃあ早速仕入れしてダンジョン行ってみようかな! そろそろお金も少なくなってきてるし……まずはアイテム集めだね!」
「え、もう行くんですか?」
「はい、時は金成り!って言いますから」
「聞いたことないですね」
「あれぇ……?」
私はパスティさんに挨拶をすると裏庭の扉からそのまま外へと移動する。まずは消耗品と食料品を買い込んでダンジョンへ突貫だ。装備品なんかも考えたけれどまずはダンジョンを見てみないとね。
私はまず大通りで冒険者っぽい格好の人にこの辺で一番活気のあるダンジョンを尋ねることにする。少しお金を渡せばモンスターの情報も教えてくれるかもしれないし、傾向を知れば対策が立てられるというのは当然の事だからね。毒を持ったモンスターが多いなら毒消しとかそんな感じでさ。
「お、丁度いい所に――すいませんお兄さん」
私はやや赤みがかった髪の青年に話しかける。よく見ると身に着けている鎧も相当年季が入っているし、場数を踏んでいるんじゃないかと思った。
「オレか?」
「そうですそうです。お聞きしたいことがあるんですけど」
私はすっと手を出すと青年の手に金貨を1枚握らせる。
「この辺りで活気のあるダンジョンとモンスターの傾向を教えてくれませんか?」
青年は一瞬「ん?」というような顔をしていたが、すぐに状況を察して懐から何やらメモのようなものを取り出した。
「そうだな、この辺だと初級が2つ、中級が1つ存在している。少し離れた村の近くに特殊が1つあるらしいが相当対策を立てなきゃ入り口からも進めないらしいな。そういえば最近その洞穴にサキュバスが出るらしくて近々討伐隊が出向くらしい。どっちにしろ近づかないのが無難だ」
「へ、へ~……」
「まぁメインとなるのは初級の2つ『ゴブリンの巣』と『コボルトの巣』だな。どちらも低級モンスターだが数が多い。特にコボルトは安いコートの材料として時期によるが一定の値段で毛皮を買い取ってくれるし、モンスターの性質としてアイテムを拾ってきてはため込むんで、たまぁにレアなアイテムが出ることもある。ゴブリンは人間に近い動きをするモンスターだがその数はコボルトよりも多く厄介だ。だがそれゆえに戦闘の基本を学べるんで人気がある。一対一、一体多を学ぶならゴブリンだな」
「ふむふむ。中級はどんなところなんですか?」
「中級ダンジョンは『蟲毒洞穴』と呼ばれている。名の通り毒を使う昆虫型モンスターがメインだ。厄介だが経験値も良いし頻繁に数が増えるから近隣の安全のために討伐依頼が出ることも多い。更に特定の虫からは甲殻が採取できてそれが防具の素材になる事からドロップ品も悪くない」
「あの、経験値っていうのは?」
「あー、ギルドカードあるか? そこの名前の前を見てみろ。Lv1ってなってるだろ。それはその肉体のレベルを表すものだ。どういう理論かは知らないけどな。んで職業の隣にある数字が職業レベルだ。教わらなかったのか?」
「というか聞く前に飛び出してきました!」
「せっかちな奴だなぁ。……だがこうやって情報を買いに来るってことは無謀じゃないな」
「蟲毒洞穴に入るには等級制限はないんですか?」
「ああ、等級制限もレベル制限もない。だが犠牲者も多いから最初はおすすめは出来ないな。特殊なスキルがあるなら話は別だが……」
「なるほどぉ」
「それとこれは貰いすぎたんでオマケの情報だが、近々あの山の麓に新しいダンジョンが出来そうだと観測者の連中が騒いでたぞ。この街が今、人が多いのはそういう事情もあってだ。お前もまだ滞在するなら覗いてみたらどうだ?」
「ダンジョンってそんな植物みたいにできたりするんですか?」
「ああ、ダンジョンってのはこの世界の生活基盤だ。常に開放されているもの、そして期間限定で開くもの、更には新しく定着するものもある。滅多にはないが裏庭にダンジョンができたなんて話もあるそうだぜ。そのおかげで家の持ち主は街の領主にまで成り上がったってんだから面白いよな」
「夢がありますね! けどそうなると街のど真ん中にダンジョンが出来ちゃうから管理が大変そうだなぁ」
「そうだな。その街はダンジョン都市って通称で呼ばれててな、ちょいと海を渡るが今でも最下層まで攻略されてなくて攻略組でにぎわってるぜ。まぁ管理に関しては冒険者ギルドが一括で見てるから問題ねぇだろ」
「冒険者、ギルド?」
「お前もギルドカードの登録に行っただろ。あそこが冒険者ギルドの経営する登録所だ。ギルドってのは個人でも組めるが本来は『管理するもの』って意味があるらしい。だから正当なギルドと言えば冒険者ギルドだ。この街にもあるが……ええと、ほら、あの赤い屋根の建物だ」
「なるほど! いやぁ何から何までありがとうございます!」
「なぁに、情報に金出す奴は信用できる」
青年は金貨を指で弾きあげるとニコっと笑った。なかなかどうして、面倒見もいいし好青年じゃないか! これはモテるだろうなぁ。
私は頭を下げお礼を言うと市場を見るために歩き出す。なるほど、活気があるとは思っていたけれど、その理由は新しいダンジョンが関係していたのか。
この世界を知れば知るほどゲームのように感じる。『何故? どうして』という部分を徹底的にファンタジーでカバーしている作為的な感じ。まぁ私はそんな世界を望んで来たわけだけど、ある日急に「セーブデータがきえてしまいました」なんて言って虚空へ放りだされたりしないよね?
私はその後ノーマルポーションと毒消しポーションをそれぞれ100本買い込んだ。1本が銅貨3枚で300リム。まぁまぁ高い。
銅貨1枚が100リム。銀貨1枚が1000リム、金貨1枚が10000リムだから計算も簡単だけど100リム以下が面倒くさい。銅貨の下にも劣銅貨というものがあってそれが私達の世界でいう10円のようなものでここではあまり好まれていないらしい。なので100リム以下の商品は大体が100リムになるように調整して販売されるんだって。
そう考えると日本の貨幣システムは異常な程優秀だったよね。
買い物を終えた私はその足で中級ダンジョンの『蟲毒の洞穴』へと向かう事にする。とりあえずダンジョンの中で道具屋をしてますー!って宣伝しておきたいしね。
「でもどこにあるんだろう。それも聞いておけばよかったなぁ……地図、なんて売ってないよね」
私は辺りをキョロキョロと見渡したがそれらしいものがない事に落胆する。少し考えながら歩くがなんだかんだでこの街は大きい。今まで街を歩くなんて経験ない訳だし、そういう環境に恵まれていなかった私は瞬時に場所を把握する能力に劣っているんだと思う。
暫くウロウロしていたが、それじゃあ埒が明かないのでとりあえずギルドカードができたことだしこの腕輪を外してもらおうかな。
「すいません、身分証作ってきましたー!」
「はいはい……はい。じゃあ外すよ。はい、OK。問題は起こさないようにね」
相変わらず忙しそうな所だなぁと思う。流れ作業でやってるのが嫌でもわかるよ。まぁこの人の多さだし仕方がないかな。
晴れて冒険者になった私はとりあえずと人気の少ない路地のベンチに腰掛ける。風が良く通って涼しいんだここ。
「あ、そういえば私地図持ってるじゃん。――って、あれはあのダンジョンの中だけの地図だったかぁ」
ふと『錯乱の洞穴』で手に入れた地図を思い出した私は指輪をタッチすると中から地図を取り出す。何の気なしにそれを広げるとその表面は真っ白になっている。
「あれ? 白い――お!? おおおおお!」
最初は何も書かれていなかった地図は端の方からどんどんと光が走り線が書き込まれていく。あっという間に1枚の地図になってしまった。左上には『アルパン』と書かれている。その右には丸い円の中に矢印のようなものが……あ、なるほど方角か!
「何これ、すっごい便利じゃん! オートマッピングってやつ? わぁ凄い!」
「お、お前さん……それは……」
「え?」
後ろへと振り返ると上品な仕立てのローブを纏った立派な髭の老人が口をあんぐりと開けて目を血走らせて立っていた。その顔はお化けを見たような信じられない物を目撃したようなこの世の終わりみたいな顔。うーん、こんな顔は私が3回目の意識不明で集中治療室に入って目を覚ました時のお父さんくらいしか見たことないや。
「お主そのその地図は……いやしかし……だがあんな規格外の品物は神話級でも…………」
「この地図がどうかしたんですか?」
「その地図は何処で手に入れたのだ!?」
「ええと、特殊ダンジョンで……」
「なんと……『錯乱の洞穴』か?」
「う、うん。そうですけど……」
「……お主の持つそれはアーティファクトかもしれんな」
「アーティファクト?」
「そう。この世界には多くのアイテムがあり、そのランクに応じて神話級、伝説級、民話級、と分けられている。それとは別に消耗品には1から10までの数字が割り振られているがな。そしてそのどれにも当てはまらないのが『アーティファクト』と呼ばれる遺物じゃ」
「へぇ」
「アーティファクトは古代の魔法使いが作り出したアイテムと言われている。それこそ神の域、いやある意味ではそれ以上の効果をも獲得してしまった物だ。存在が確認されている物ではこの世界に1つ情報のみの物が1つ。ひとつは大陸の中心聖王国が所持しておる。もうひとつは行方が知れんが『滅びの勇者の剣』と呼ばれているらしい。発見後に移送していた大規模商隊が嵐に見舞われ消失した。発見したという情報のみが伝わるアーティファクトじゃ。……そしてお主のそれ……恐らくは3つめのアーティファクト」
「ってことは凄いんじゃない?」
「凄いどころじゃない! 世界がひっくり返るぞ!」
「へぇ~……」
「ううむ、まさかお目にかかれるとはのう」
「おじいさんは欲しいとか思わないの?」
「いやいらんな。命がいくつあっても足りんからな。お主がそれを持っていることが知れ渡れば世界中から命を狙われる。ワシに見られたことも本来ならまずい」
老人は少し困った顔をしながら髭を撫でている。個人で所有するには問題がありそうだけど、こんな便利なものを手放すのは勿体ないし。
「あ、良いこと考えた。おじいさん、地図買いませんか?」
「ん? いやだからいらんと――」
「いやいや、地図だよ地図。アーティファクトじゃなくて! ちょっと待ってね……ええと、あったあった。『魔法の墨石』ぃ~!」
「なんとそんなものまで……いや待て、お主まさか!」
「それ! この街の地図を紙に『複製』して!」
私が『魔法の墨石』を紙に押し当てると地図と同じ光が紙にも走る。そして瞬く間に街の地図が複製された。
「なんと……魔法の墨石は『真実を判明させる』スキル、アイテムの効果を紙に転写させるもの……。つまりアーティファクトの地図が映し出したものを『真実を暴き出した』と拡大解釈したな! なんと柔軟な思考じゃ」
「はい、500リムだよ」
「なんとまぁ……なるほどな、お主商売にするつもりだな?」
老人は笑いながら銀貨5枚を手渡してくれる。私は複製した地図を渡すとお金を仕舞った。
「こうすれば地図の価値も下がるよね? お金で買えるんだから! しかも地図が流通すれば皆の生活も楽になるしダンジョンの中の地図を売ればお金稼ぎもできる! いうことなしでしょう!」
「考えたな。少しでもアーティファクトの価値を下げるつもりか」
「便利なものは皆で使わなきゃ!」
「はははは! なるほどのう……それもそうじゃ!」
ひとしきり笑うと老人はその場を去ろうとする。しかし何かを思い出したように振り返るとひとつアドバイスをくれた。
「その地図じゃが、転写するなら全てを映し出したりはせん方がいいな。例えば大陸地図ならお主が行ったことのある街のみを転写するのがいいじゃろう。まぁ応用が利くかどうかは知らんがな」
「なるほどぉ、そうすればスキルで周りの事が分かるけど街の有無まではわからないっていい訳が効きますしね! アーティファクト持ってるっていうよりはよほど安全か」
「その通り。もしダンジョン地図も売るなら道の形状はわかるが罠やアイテムの場所まではわからんと念を押しておくがいい。あとは一所に長居しすぎない事じゃ」
「うん。わかった! ありがとうございます!」
「ではな」
老人はひらひらと手を振ると雑踏の中へと消えていく。私は今日ダンジョンへと行くのはやめて、明日の朝早く出かけることにした。まずは入り口でダンジョン地図を複製しアイテムと一緒に販売する。その後は状況に応じてダンジョン内を散策しながら販売しようと決めた。
「う~!! やっと商人らしくなってきたよ! 明日が楽しみだね!!」
私はスキップしながら宿屋を探す。
ようやく私の『商人生活』が始まろうとしている! チュートリアルを終えて冒険が始まる! そう考えると胸がドキドキしていた!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「あれギルドマスター、やけに上機嫌ですね。視察においでになると言ってたのに遅かったですし」
パスティが不思議そうに小首をかしげる。彼女の目の前にいる老人は逞しい髭を撫でつけながらニコニコと笑っていた。
「パスティよ、昔お主に話をした『アイテムリンカー』の事を覚えているか?」
「はい。数百年前にこの世界の生活基盤を作り上げた商人の事ですよね」
「そうだ。ワシはな、生きておるうちにもう一度その存在に出会えるかもしれん」
そういうと老人は1枚の紙を広げ満足そうに頷く。
その顔は孫の成長を見守るようなそんな温かな雰囲気をまとっていた。