商人見習の旅立ち
ブックマークありがとうございます!
自分でも気分転換になり、段々と世界観がまとまってきたように思います!
是非これからも読んであげてください!
よろしくお願いします!
「え? アイテム屋になるにはどうしたらいいか……ですか?」
「そう! 私もアイテム売りながら歩きたいなぁって。ミリアナ見てたらいいなぁって思ってさ! そもそも何したらいいの?」
「ええと、まずはアンパルの街で冒険者登録を……ってもうそれはしてますよね」
「してないよ」
「え?」
「してない」
「じゃ、じゃあまずは冒険者登録を行います。この先の街に行けば冒険者組合が手続きを請け負っています。銀貨5枚で登録してくれますので、そこでなりたい職業を申告して登録すれば完了です。お店を構えるなら私のように親族からの相続かお店の権利を購入しての出店と――」
「ああ、私ダンジョンの中でアイテム屋やろうと思ってるからお店はいいや」
「……え? ダンジョンの中で、ですか?」
ミリアナは首を傾げると私の顔をじっと見ている。さぞおかしなことを言っていると思っている事だろう。けれどこれにはちゃんとした考えがあっての事なんだよ。
「いやさ、街でアイテム屋開くのは普通でしょ? けどダンジョンの中でアイテム屋って普通はないよね?」
「それは、危険すぎますから……」
「だからだよ! もしダンジョンの中で食糧が尽きたらどうする? 回復アイテムがなくなったら? 装備が壊れたら? そんな時にアイテム屋が偶然通りかかったら!?」
「そ、それは……助かるとは思いますけど……」
「でしょ? それにダンジョンの中のアイテムもゲットできるし、そのアイテムを売って次の資金にすれば……ね? 色々な所を回ることもできる! 幸い今すごくいいアイテムが手元にあるみたいだし、ミリアナの鑑定書もつけてもらえれば売れると思うんだよねぇ」
なるほど、と手を打って納得するミリアナに私は笑顔で頷き返す。
私の身体は食料も水も少なくて済むように作り替えられている。さらには体力もほとんど減らないし、何より頑丈だ。まぁ勿論この先どんなダンジョンでも大丈夫とはいかないだろう。例えば酸とかマグマとかかけられたら流石に死んじゃうだろうし。だけどそういう情報は大体どこの街でも得られることだし対策を考えれば何とかなると思うんだ。
「でも、あの装備アイテムは売らない方がいいと思いますよ。もし旅商人に――あ、違うダンジョン商人になるなら身を守る事も必要です。どれも性能は一級品を超える特級。錯乱の洞穴はその特性上、意識を保ったまま隅々まで探索することはほぼ不可能と言われています。そんな所で出土したアイテムなら捨てない限りはずっと使えます」
「へぇ、あの洞窟そんな凄い所なんだ。あ、でも私以外に居たあの5人組のPTは……」
「恐らく何かしらのレアスキルで精神異常耐性をかなり上げていたんだと思います。それでも恐らくは自傷行為や同士討ちの危険もあったでしょうし、寄り道している余裕もなかったでしょう」
なるほど、だからあんなにボロボロだったんだ。モンスターなんて1匹も出なかったのにどうして傷だらけなのかと思ったけど……よく死ななかったなぁ。いや、もしかしたら死んでるのかもしれない。そう考えるとなんだか胸がモヤモヤしたけど……自業自得だからね。ごめんね。
「とにかく、破格の装備で冒険を始められるのできっとすぐにランクも上がっていきますよ」
「あー、やっぱりランクがあるんだね」
「はい。単純に10等級から始まります。1等級まで行けば世界中で引っ張りだこですよ!」
「そうなんだ! まぁ興味ないけど」
「えー……」
「さて、そうと決まれば善は急げ! このまま町までひとっ走りしよっかな」
私がそう言うとミリアナは驚いたような顔をする。
「え、も、もう行くんですか!? まだ全然お礼も……」
「お礼? んー、じゃあその薬草の本貰える? それでチャラって事で」
「構いませんけど、本当にこんなのでいいんですか?」
「それがあれば途中で採取できるしね! 情報は金成りっていうじゃない!」
「え、聞いたことないです」
「今作った」
私は『誰でもわかる薬草初級』と『帰ってきた誰でもわかる薬草中級』を異空の中へ仕舞うと、代わりに装備を取り出し身に着けていく。取りあえず2日あれば到着するらしいからこのまま出発しようかな。
「じゃあ行くね。ミリアナ元気でね!」
「あの、わ、私も一緒に……」
「なぁに言ってんの! 君の家はここでしょ? それに一緒に行ったらお店どうすんの? ね?」
ミリアナは寂しそうな顔をするとポロポロと涙を流し始めた。
私は慌ててどうにかしようとするが、どうしていいのかは知らない。
「わ、私お世話になってばかりで……なのに何の力も……」
「い、いいってば! 気にすんなよ! ね!? またここにも立ち寄るしさ! 鑑定をお願いしに来ることもあるから!」
「本当ですか!?」
「うんうん、そりゃ私鑑定できないしさ。それに一生会えない訳じゃないからね。それにミリアナは私に色々教えてくれたでしょ? 十分だよ十分。だからさほら、気にするなって!」
「わかりました……また是非訪ねてきてくださいね!」
私はなんとか笑顔を作ると頷く。
自分の笑顔なんて見たことないけど、多分、恐らく、問題なく笑えていただろう。
私は手を振り街を目指して村を後にする。ミリアナはいつまでも手を振り続けてくれていた。私の姿が見えなくなるまでずっと。また来るからね!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「大丈夫かいミリアナ」
「あ、食堂のおばちゃん!」
「なんかあの娘、物凄い邪悪な顔をしてたから……」
「あぁ……た、多分笑ってたんだと思いますよ! 心配しなくても良い人です! あの人は私にとっての勇者ですから……」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
遠くに白い山が見える。もしかしてアレ雪ってやつかな? そうだとしたら一度は食べてみたい。そんな事を考えながら私は街道を走る。走る。
「っていうか……なんかやけに速くない?」
そう、私がミリアナの村から出発してまだ1時間ほどだというのに既に眼前に街が見えてきた。ミリアナは街まで歩いても2日はかかるって言ってたのにどういうことだろ?そんなことを考えていると道の先に馬車が見える。
「そうだ、道聞いてみようかな――――おおお!?」
そう考え脚を止めた。はずだったんだけど気が付いたら馬車の隣を猛スピードで駆け抜けてしまった。
「あ! この靴の効果か! 気が付かなったや!」
私は何とか停止すると小走りで馬車まで戻る。
私のせいで驚いた馬を宥めながら馬車のおじさんは信じられないといった顔をしている。まぁ高速移動する美少女なんてそう拝めないよねぇ。
「こんにちはおじさん! 聞きたいことがあるんだけどいいですか?」
「あ、ああドウドウ! 落ち着けって!――――ふぅ。で、何の用だいお嬢ちゃん。やけに速く走ってたみたいだが……なんかの魔法かい?」
「うん、ちょっとね! ところであそこに見える街ってもしかしてアンパンの街?」
「あんぱん……?あ、あぁ、アンパルだな。そうそうそうだよ」
「ああアンパルか、聞き間違えてたか」
「あんたアンパルへ何しに行くんだい?」
「冒険者登録さ!」
「ほう? 何を目指すんだい?」
「ダンジョンでアイテム屋やろうかと思ってさ!」
「は?」
「ありがとねおじさん!」
なんかハトが豆鉄砲喰らった顔してたなぁ。やっぱり普通の人はあんな顔するんだね。自分でいうのもなんだけどこの人を驚かせるアイデアを生み出す感性が恐ろしい!
しっかし、この早駆けの革靴だっけ? これ凄いね。2日かかる距離を1時間で来ちゃったよ。何だったら冒険者登録してからミリアナの所に帰れそうだ。まぁ帰らないけど。変な顔されるしね。
なんてことを考えながら、私は街に入る列に並ぶと順番が来るのを待った。
「はい次~」
「はーい」
「身分証だして」
「ないです!」
「じゃあ金貨一枚、はい……うん。それじゃあ制限の腕輪つけるよ。冒険者登録所で身分証作ってきたら腕輪外すからね。はい次~」
なんだか凄くあっさり入れたけど、この腕輪はなんだろう?制限、とか言ってたからどこか立ち入りできない所があるのかな。
「おばさんおばさん!」
「何だいお嬢ちゃん」
「冒険者登録所はどこにありますか?」
「ああ、ほら、あそこに見える青い屋根の」
「あ、ありがとうね! あ、ついでに薬草頂戴100枚くらい」
私は店中の薬草を買いあさると冒険者登録所へと向かった。
街の中は活気にあふれていて人通りも多い。お店も所狭しと並んでいるし、中には見たこともないような生き物が荷車を引いている光景も見える。街の奥には大きな屋敷があって、さっきのおばさん曰く領主様の家なんだとか。十字の大通りを左に抜ければ冒険者登録所が見えてくる。
「さぁたのもー! なんちゃって!」
「……!?」
勢いよくドアを開けると、そこはカウンターがひとつ、椅子が一脚の小さな場所だった。店員は目の前で驚き固まっている金髪眼鏡の女性が一人。パッと見ると凄く綺麗だけど性格がきつそうだなぁ。昔こういう感じの看護師さんに血管3回も注射器で突き破られてちょっと苦手なんだよね。
「あの、どういった御用ですか?」
「ん? あ、そうそう。冒険者登録お願いします!」
「かしこまりました。ではおかけください。こちらの書類に指を切って血判をお願いします」
「え……あ、はい……」
「……はい結構です。では登録しますので少しお待ちください」
彼女は奥の扉へ入ると何やらごそごそと忙しそうだ。私はカウンターの上に置いてある『冒険者パンフレット』を1枚取ると目を通す。そこには色々初心者に向けてお知らせが書かれている。
・ダンジョンは場所によっては国が管理し入場料が必要な所もある
・ダンジョン内に生成されるアイテムは完全にランダム
・ダンジョンには初級、中級、上級、特殊と4つが存在する
・死亡した場合の持ち物は全て発見者の物となるが故意に殺害した場合にはその限りではない
・職業は自由に選択できるが向き不向きは人それぞれ
・職業ごとにスキルを獲得できるが転職には大金が必要
・転職するとスキルは最初から覚え直しになるのでよく考えよう
・死んでも恨むな
・ルールを守りましょう
何と言うか……病院の掲示板に貼られていたお知らせみたいな感じだ、タメになる事は書いてるけど確信はついてこないみたいな。でも私にとってはありがたい事もある。知らないことも多いからね。
「お待たせしました。こちらあなたの情報を記録したギルドカードです」
「ギルドカード?」
「そうです。冒険者登録が完了した証、それがギルドカードです。提携先のお店で買い物をすればポイントが溜まりますし、街へ入る時の身分証明にもなります。更には等級の証明にもなります。特定のダンジョンはある程度の級数がないと入れませんからね。例えばこの近くなら『錯乱の洞穴』とかですね』
「……は?」
「いえ、だから」
「いやわかりましたわかりました! 他に何か注意点はないですか?」
「……そうですね。ああ、ダンジョン内では気を付けて行動してください。たまにですが冒険者を狙って待ち伏せする盗賊まがいの者もいますから。勿論ダンジョン内だけじゃないですけどね」
「あ、ここに書いてた」
「見てくださったんですね。ありがとうございます。少しでも長く活動していただければそれだけ冒険者の活性化にもなりますから。そういえば職業は何か就かれますか?」
私は手をポンと叩くと受付のお姉さんを指さす。
「それだ! 私商人になりたいんです!」
「成程、冒険者相手に商売をするんですね。ご自身でもダンジョンへは潜られますか?」
「はい! というかダンジョンでアイテム屋したいんですよ!」
「……ふふ」
「いや冗談じゃなくて」
「そんな……ふふふ……だって今までそんな人いませんでしたし。そ、それにそんな危険な行為する人いませんよ……」
「いやいやお店構える訳じゃなくてですね。いうなれば流しの商人ってやつですね! ダンジョン内でアイテム売れば困ってる人も助かるし、私も一攫千金狙いながら活動できますし! 飽きたらどこかにお店でも構えてのんびり老後を過ごそうかなぁなんて」
「へぇ、意外と考えてるんですね。なるほど、それならモンスターに襲われる心配も少なくなりますし、人の多いダンジョンなら利用者もいるでしょう。お金が溜まればPTの荷物持ちとして参加して要らない物を買い取り分配すれ清算役としても活動できますし」
「あ、それいいですねぇ。私アイテム幾らでも持てるんで向いてるかもなぁ」
「そういう固有スキルが? あれ、でもまだ職業には就かれてませんよね?」
「これですよこれ! はい!」
私が指輪をとんとんと叩くと私と受付のお姉さんの間に四角い星空が開く。中からさっき買った薬草を取り出すと指輪を閉じてドヤ顔で見せつける。
「ねっ――――あれ?」
しかし受付のお姉さんはそこにはいない。カウンターの中を覗き込んだけどそこにもいない。首を傾げながら薬草を仕舞おうともう一度異空を開くとさっきまで中に入ってなかったアイテムが表示される。
「んん? なにこれ『パスティー・ドーント』?」
異空の中に手を入れパスティーなるアイテムを引っ張り出す。と、その瞬間、金髪眼鏡の受付のお姉さんが中から飛び出してくる。私は余りの驚きに椅子をひっくり返して盛大にぶっこけてしまう。
「うわぁああああああああ!?」
「きゃぁああああ!?」
二人して床に転がっているとお姉さんが申し訳なさそうに声を掛けてくる。
「す、すいません……なんだか綺麗だったので、触ってみたら吸い込まれて……」
あー、触っちゃったのか。
私が言うのもなんだけど、意味の分からない物には触らない方がいいよパスティさん。
私は天井を見上げなら久々に心臓が止まりそうになる感覚につい笑ってしまっていた。なんだかわからないけれど凄く面白かったんだよね。