憂鬱
なんとなくパンを買った。
昼休みにはもう購買に人がいない。
大抵甘いパンが残っていて、人混みに気圧される事無く楽に買える。
糖分が口の中にしつこく残る、全然美味しくないけど腹を満たすのに貢献は出来る。
「いっつもそれ食ってるよな、うまい?」
隣の席から話しかけられた。
「さっぱうめぐねー」
「甘ったるそうだべなー」
名前はユウジ、余り関わりはないが学校で話すくらいには仲が良い。
「もう食いたくね、貰ってくんね?」
「えーやだ」
「俺の親切心が」
「もっと太りやがれ」
ちなみにうちの高校は田舎出身が割りといるので訛りが強い人が多い。
自分もそのうちの一人だし、だからといって普通は気になることでもない。
「太郎ー」
後ろから声をかけられた。
振り返るとスマホでゲームをしてる友達だった。
「マルチやろ」
「だる」
「殺すぞ」
「やります」
気兼ねなく話せる親睦の深い彼、吉田一樹は、高校から仲良くなった同中の奴。
同じ部活になったのもあるが、一番は趣味が合ったことにある。
自分の好きなゲームが割りとマイナーなこともあり、同じのが好きと聞いた時は正直飛び跳ねるほどうれしかった。
それからいつも一緒に行動したりプライベートでも+αで遊んだりしてる。
「えーそいづ雑魚じゃね」
「おめさのレベルに合わせでんだべや」
「たしかに」
一樹はやりこみが半端ではなく、俺より後から始めてるのにレベル差がすごい、やばい。
だからいつも寄生してお世話になっているのだ。
「太郎いっつも同じキャラ使ってるよなー」
「だって可愛いじゃん、めっちゃ好き」
「きも」
「はい」
女の子キャラ、結構好みの容姿をしているのでめっちゃ使ってる。
というかこの子以外全然使ってない、腐ってる。
「昼休みあとどんくらい?」
「今一時」
「三回行けるな」
「稼げるべ」
残りの時間を全てクエストに消費し、経験地とお金を稼いで今度のイベントに備えるのだ。
一樹も俺も準備完了し、出撃のボタンを押した。
そしてとうとう二人の意識はゲームにのめりこんでいった。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
放課後、特にやることも無いので家に直行した。
地元の高校なので、少し遠いが徒歩で帰れる距離。
一時間もすれば着くようなところにあった。
玄関に入り、靴を脱ぐ。
そして着替える為に制服を脱ぎ、すぐ前にある服掛けにかける。
やっぱり歩いたせいで結構汗が染みていた。
そんなワイシャツをすぐに脱衣所へ行き、洗濯機に投げ入れた。
かけてあるズボンのポケットからスマホを取り出し、急いで居間へ向かった。
そこら辺にブチ投がってる部屋着を適当に着て、座布団に腰をかける。
「暇だ」
スマホをひらく。
一樹からLINEがきていた。
『お前今日部活は?』
やることも無いとは言ったが今、普通は部活の時間なのだ。
『だるいからサボるわ』
『珍し』
『体調悪いからって言っとくわ』
『よろぴく』
今日は気分が乗らない、部活なんてする気も起きない。
トーク一覧に戻る。
山西美月
『そうなんだ』
『そうだよ』
最後に俺が送ってそこで会話が終わっている。
おとといの事、土曜日の悲劇。
あれ以来少し反省してLINEを控え中。
憂鬱な気分の原因は大体これ。
(なんでこんなに淡白なんだろう)
付き合ってから一週間は経ってるけど、冷め切った対応がどうしても抜けていない。
否、お互いの事をよく知らないままだったから仕方ないのかもしれない。
胸がズキズキする、心の奥が痛い、くすぐったい。
「はあ~~~~~~~~~~~~~~~」
でっかい溜息をついて、一層暗い気分に拍車をかけながら座布団を丸めた。
そして頭をのせ、枕代わりにするとついに不貞寝をし始めたのだった。
家族が帰ってくるまで、すこしのリラックスタイム。