アイリス
父の話の続きです。
私は、勇気という物がなかった。
周りの人間に勇気を持ってる人がいなかったからだ。
他の人が何気なくしてる事が、なぜか怖かった。
私が唯一緊張しなくて、普通になれるのは、花をみてる時だ。
母は綺麗な人で、家の庭でよく花の世話をしていた。
お母さんは、訳あってもういないけど、
私の家ではお母さんの話はしないようにって、
祖父に言われたから、話してない。
家の庭は、お母さんがいなくなって、酔った父がぐちゃぐちゃに踏み潰して、花はもうダメになった。
その庭は、綺麗にしてずっとそのままだ。
祖父は無くした方がいいとゆう。
父と私は、それはしなかった。
高校に通う途中に、お花屋さんがあって、毎日店の前で店員さんに見つかりそうになる前まで、花をみてる。
学校には友達がいない。
暗くて、地味で、面白くない私は、相手をしてくれない。
ある日、祖父からお小遣いをもらった。
欲しいものなんかない。
でも、父の暗い顔が浮かび、
お母さんが好きだったお花をあげたいなって思って、
通学路の花屋さんに行った。
今日はいつもの店員さんじゃなくて、
バイトのお兄さんだ。
優しかった頃の父の笑った顔に雰囲気が似てた。
緊張して、いい感じに喋れなかった。
母が好きだった花を買い、家に帰った。
父が喜ぶ顔を想像した。
母が居なくなり家の空気が暗くなってから、初めて勇気を出した。
家に着くと、一番に父の元に行く。
またお酒を飲んでいた。
父にプレゼントがあると言って声をかけても、
振り向かなかった。
また話しかけようとしても、父の背中は重たそうだった。
私は、父に花をあげるのをやめた。
母が好きだったアイリスの花だ。
それで私は、アイリスの花を花のない庭に置いた。
また学校に行く途中、花屋さんに行った。
アルバイトのお兄さんがいて、話しかけてくれた。
お兄さんは、大学生で、私が高校生で、2つ違いだった。
お兄さんの家がお花屋さんらしい。
初めてちゃんとした友達ができたかもしれない。
お兄さんになんのお花が好きか聞かれて、
アイリスが好きと言ったら、花言葉を教えてくれた。
花言葉は勇気だった。
母は強い人だと思ってたけど、本当は弱い人だったのかもしれない。
お兄さんとは、高校を卒業しても、仲が良くて、
ある日告白をされて、付き合うようになった。
私が父に出した勇気は無駄だったかもしれない。
でも、私が父に向けた思いは変わらない。
私はまだ弱いままの人間かもしれないけど、
少しずつ勇気を持ちたいと思うようになった。
私は、周りと打ち解けるようになり、
性格も変わった。
まだ父にあれから会えてないが、
私にも子供ができて、
父の気持ちも、
大切な人がいる気持ちも、
少しは理解できるようになった。
また父に振り向いてもらえないかもしれないけど、
また父に勇気を持って、会いに行きたいと思った。