食べたい
今回のお題は「人食」。
2人で同じ題材を指定して書くの結構楽しいです。
すごく、お腹が減った。
「お腹空いたなぁ、ご飯食べたいなぁ。」
家が燃えてからろくに何も食べていない。
軍人さん達に聞いたけど、戦争で畑も焼けちゃったから何も食べ物が残ってないって言ってた。
「……お肉、食べたい。」
ふと思い出したのは家が街ごと燃えていた時のこと。
お母さんもお兄ちゃんもお隣さんも皆、一緒に燃えていたらしい。
髪の焼ける匂い、叫び声、逃げまとう人々の足音、それから……肉の焼ける音。
「燃えてる所ならお肉が、ある……?」
目が見えないからよく分からないけど、
確かに肉の焼ける音だった。匂いもちょっとだけ、した。多分、まだ何処かにあるはず。
探しに戻ろう。
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しばらく歩いた。ずっと持っている白旗が重く感じてきた。お母さんに渡された白旗。
『誰かがいると思ったらこれを全力で振るのよ。』
いつもそう言われていたから、逃げてくる時にも決して離さず持ってきた。
「血の、匂い?」
ふと血の鉄臭い匂いが鼻をついた。
どこだろう、と周りを旗の先端でつついてみる。
ペシャッ
「あっ、あった。」
近づいてみると血の匂いが濃くなり、確かにそれが血溜りだと確信した。
その辺を触るとプニプニした何かに触れた。少しブヨブヨに近いかもしれない。
引っ張ったら思いのほか硬く、中々ちぎれない。
そして、触っているうちに気が付いた。
「っ!これ、ヒトの形だっ。」
もし見えていたなら、もっと早くに気が付いただろう。腐りかけた死体は軍服姿で、周辺にもいくつも転がっている事に。
それでも空腹が限界に達してしまった。
段々とプニプニした所が本当は他の動物の肉なんじゃないだろうか、と思考が鈍り始める。
「……ちょっとだけ、なら」
とうとう齧りついた。腐敗で柔らかくなっていた“そこ”は子供の歯でも簡単に噛み切ることができた。
「おい、しい。」
久々に口に運んだ物だ、例えそれが元はヒトであったとしても空腹というスパイスが食欲をどんどん刺激する。
一心不乱にかぶりつき、気付けば満腹になるまで血塗れになりながら肉を頬張っていた。
「ヒトのお肉って、こんなに美味しかったんだ。」
腹が満たされたとはいえ、極限状態にあった時間があまりにも長すぎた。
正気を失った虚ろな目でさっきまで食べていたヒトの一部に触れる。
「……もっと温かいお肉も食べたい。生きてるヒトのお肉の方が美味しそう。」
そうは思うも生きた人間は会っていない。足音どころか物音ひとつなく静かなここにはきっと誰も居ないだろう。
ただ一人を除いて。
ガブッ
「痛い……。」
自分の腕に噛みつき食らってみようとしたが上手くいかず、思うようにいかない。それに激しい痛みが全身を貫き、とてもじゃないが耐えられない。
「食べたい、食べたい、食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい。」
何度も噛みつきその度に悲鳴をあげる。いっその事刃物で切り落としてでも食べてみたいのに血の一滴も流れない。
白旗が足下で真っ赤に染まっている。
再び自身の腕に噛みつこうとしたその時、誰かの声がした。
「……い、……れか、い……!」
振り向かずとも位置は分かった。
もたつきながら走る。やけに響く男の声は生きた人間を食らうことができる、という希望の光だった。
「はぁ、はぁ……。」
「なんだ!子供?なんたってこんな所にいるんだ?」
男は驚いたような、呆れたような声を出した。だが、そんなことには興味がない。今はただ、食べたいのだ。
「お肉、食べたい……。」
「こんな時に何を言ってるんだ?取り敢えずこっちに……ぎゃあああああああああっ!!!」
走ってくる時に持ってきた小さく尖った骨を男の足に突き刺した。
何度も何度も刺しては抜き、刺しては抜きを繰り返す。
「痛てぇ……痛てぇよぉ……。」
「お肉、お肉だ、生きてるお肉。」
嬉しそうに男の足を壊す。男も激痛に抵抗ができず、あっという間に足は肉片と成り果てた。
「いただきまーす。」
幼い声が夜空に響いた。
読了ありがとうございました。