濁った茶色
二章との兼ね合いですこし文言を変えています。
3週間後。
埋葬も終わり、しばらくしたが、いまだに彼のあの時の表情について考えていた。なぜ笑顔であったのか、彼はどんな思いで死んでいったのか。
しかし全く納得のいく答えが湧かなかった。
散歩日和のよい天気だった。ここ数週間、疲労で起き上がることすらできなかったので、気晴らしに、鷹の国の画家たちが集まる区域に繰り出していた。
彼という恐ろしい芸術家を知りながら、結局絵を嫌いになることは無かった。
まだ完全な復興を遂げたわけではないが、生き残る為にそそぐ必要のあった時間が少しずつ以前のようにもどっていき、また絵を描く人が増え始め、絵描きが集まるこの一角は再び活気を取り戻し始めていた。
絵の内容は様々で、どこかの風景、大鷹の雄姿、麗しき美女や貴族、王族など。
そして、はずかしいことに、私らしき絵もあった。頭巾のついた外套を羽織ってきて正解だったと思った。
既にできている絵を並べている者もいれば、中には描いている最中の者もいる。
ひとつ覗いてみれば、どこかの岩山を描いているようだった。
そのおどろおどろしさを表そうとしているのか、その者は複数種の色をまぜ、濁った茶色を作り出していた。
その茶色が、濁りが、彼の瞳と重なった。全身が粟立ち、息をするのを忘れた。
どうして思い至らなかったのだ。どうして濁りそのものに忌み嫌っていたのか。なぜ憎んでいたのか。
もはや聞くことはできない、確かめるすべはない。
あぁ、、、父よ。あなたは。
いったい、、、何に瞳を濁らせていたのですか?
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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