とんだ大馬鹿者だよ。まるで
7話と一気に投稿です。
「ははっ」
そんな乾いた笑い声が聞こえた。口をあんぐりと開けていた彼からであった。
「翡翠色に輝く瞳、神の力を大きく引き出したときに起こる現象か」
私の目の話だった。確証はないが、おそらく、私の口調が変化しているのもこの瞳と同様、神の力を強く引き出しているからだろう。
彼はあきれ顔で言った。
「あぁ、君の方が強いかもしれないという点をどうして考慮してなかったんだろうなぁ。、、、とんだ大馬鹿者だよ。まるで」
「、、、まるで」
そこで彼は言葉をやめた。
突如破顔し、その顔を隠すように手で覆って、私が幼少のころすらも聞いたことがないような全身から噴き出すような笑い声をあげた。突然の事に、刹那、気味の悪さを感じたが、実際のところ、そう気持ちの悪いものでもなかった。
しばらくして、ようやく笑い声は収まった。彼は小さく呟く。
「あぁ、こんなことにも気づかないとは、本当に大馬鹿者だ、、、」
何の話か分からなかったので、私は尋ねた。
「なんの話だ?」
彼は世間話でもするように返した。
「なんでもないさ。ちょっと面白いことに気づいただけだよ」
そうか。と言って。私は続けた。
「潔く罪を受け止め、贖罪のために己の命を絶て。さすればあなたの罪も、少しは軽くなるだろう。もはやあなたをこの世に生かす理由は無い」
彼はなにも応えなかった。
彼は顔を覆っていた両手を除けて、腰に提げた鞄から金属の棒と、同じく金属の棒に蹄鉄のような形の金属塊をくっつけたものを取り出した。
精霊術の効果を高める道具だ。
私は心底不思議に思った。
「断らせてもらおう」
彼はなぜか笑っていたのだ。
「せっかくの機会だからな」
それを合図に彼と私は最大の一撃の準備を始めた。
彼は右手に持っていた金属をおもいきりぶつける。
すると、蹄鉄のような金属から一定の音が鳴り響き、彼はその音に重ねるように朗々と術を唱えた。
それに何か別のものが声を重ねているようにも聞こえた。
『「水よ。この世を川へ、海へ、霧へ、そして雨となりて巡りゆく水よ」』
対して私は、自身の周囲で蠢いていた三つの竜巻を生糸の様に紡ぎあげ、両の掌で押し固めていった。周囲のありったけの風の気をかき集めたからか、徐々に徐々に、周囲の風は弱まっていった。
『「我と歌おう勝利の歌を。共に踊ろう不敗の舞を」』
私は水の精霊を見ることはできないが彼の周りを楽しく激しく踊っている気配が感じられた。唱えずとも精霊らとつながれるのだ。直接言葉で伝えればそうであろう。
『「土を穿ち、火は消して、風は飲み込み笑い合おう」』
私は風を更に集めた。さすがに気が溜まり過ぎたのか体に痛みが走ったが、この体様々で、無視できる程度のものであった。
彼の頭上には一軒の建物程の大きさの水の塊があるが、しかしそれは、これまでのものと異なって、私の右手の中の風のように、強く強く押し込めたが故の大きさであった。
彼は両手を掲げた。私は右手を引き絞った。
周囲に風の気が消え、水の気の集結が終わった。
乾いた空気が佇み、遠くから微かに鳥の声が聞こえる。
「、、、ひとつ言っておく」
私は彼に言う。
「死が、人生の完成であるならば。それを成し得るのは、その者本人か、神々だけだ」
鼻で笑う声がいう。
「私は、神というものが好かぬ」
彼は私に言う。
「精々、足掻いてみるとしよう」
私と彼は言った。
「我はデリシウス。そなたらの隣人なれば」
「我、ライエルグ。かの神の力賜りし使徒である」
彼は振り降ろし、私は突き出した。
「勝利以外の結末はいらぬ!」
「この私に、敗北は許されん!」
直後、風と水は衝突した。その衝撃はすさまじく、周囲にのこった僅かな瓦礫はもちろん、村の一角が砂塵の様に吹き飛ばされた。
その惨状は神代に起きたといわれる戦を思い起こさせるほどのもので、煙や音は、遠くの街から見ることが出来たほどだという。
そして、水の精霊術師たるデリシウスの亡骸はその数日後に発見され、私は凶悪な犯罪者を討伐した者として、讃えられた。