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その瞳はひどく濁っているように見えた。

 その後は会話もなくなってしまって、交代で不寝番をし、何事もなく朝が来て、軽い朝食をとり出発した。

 馬達の調子も良かったのだろう。おかげで予定通り、昼頃には目的とした廃村を目視できるまでに近づくことができた。

 

 「、、、さてと、ここで二人に頼みがある」


 村の入り口にさらに近づいたころ、そう振り向いて言った。昨日の話から何を言うか分かっているのだろう。二人は無表情のままに私の言葉を待っていた。


 「二人には村の入り口付近で待っていてほしい」

 

 そう言うと勿論、「嫌です!」「受け入れられません」と、すぐさま反対されてしまった。

 ストゥメイルが私にいった。


 「わが国では私刑が禁じられていることはライエルグ様もご存知のはずです。それに、ライエルグ様のお父さまがあの村にいるとも限りません。別の者がいて、なおかつ複数に一斉に襲われればいくら貴方様でも危険です」


 となりでクラルクが大きく何度もうなずいている。


 「仕方ないか」と心の中でため息をついた。傷を付けるような事は控えたかったが、二人をここに留めるにはそう言うしかなかった。


 「あの人と接敵した場合、、、言いづらいんだが、君らは足手まといだ。そして、私に君らを逃がす余裕があるとも思えない。ストゥメイルのいう懸念が当たった場合もそれは同じだ」


 ふたりは侮辱ともとれることを言われ、しかし言い返さずに俯きながら拳を握りしめていた。

 その様に胸にずきりとした痛みが走った。しかし、彼らの力が不足しているのは事実であり、彼らも分かっているからこそ言い返さない。彼らを守るためにはどうしようもないことだった。


 「別の何かだった時、何もなかった時、そしてあの人との戦いが終わった時はこの鐘を鳴らす」


 彼らにそう言って腰に提げた袋を叩くと、中に入っている鐘の音が小さく鳴った


 「もし、戦いの音がして、止んだにも関わらず、またはしばらくして何の音もせず、鐘の音もしなかった場合は、報告のために一旦街へ戻れ。大鷹による偵察を要請するんだ」


 長がもう一度大鷹による調査を行おうとしていたのを止めてこうして赴いているのだから、その要請はすんなり通るだろう。

私はふたりがついてこないように、改めて言った。


 「、、、いいか、これは命令だ」


 二人は俯いたままだったが、私はその場を後にした。そのほうが都合が良かった。私怨によってここまで引っ張ってきて、挙句の果てに職権を濫用し彼らを遠くに置いておいたのだ。


 彼らの失望した目を見たくはなかった。



 馬は村の入り口とみられるところに放しておいた。賢い馬だから、呼べば聞こえるくらいの場所で遊んでいるだろう。


 廃村は、無残な姿だった。

 無傷な建物はない。10年近く放置されていたせいで朽ちたものもるが、大部分は魔の日の傷跡だ。

 時折雨風は凌げそうなものもあって、中を覗いてみると、そこには骨と化した亡骸があった。路上にころがっているものもいた。

 カラビトがいる可能性も考えて、すぐに剣を抜けるようにしていたが、死臭もなく、村はただ、無音に満たされているだけであった。

 そうして歩いていると、遠くに石造りの建物が見えた。木造ばかりの村であったから、恐らく教会であろう。そこに向かうことにした。


 あの人はおそらくそこにいるだろう。そんな気がした。


 教会であろう。とは言っても、それは元々の建物は、という話だ。今は他の建物に漏れず叩き壊されていた。

 避難所になっていただろうから、当時は今以上に惨い状態だっただろう。死臭はなかったが念のために内部を確認しようとした。


 が、その必要は無くなった。

 

 その教会横の墓地に、ひとがいたからだ。

 その者は全身を茶色いローブで覆っているから、背格好はよくわからない。向かい側を向いていて、そこには最近立てられたであろう墓があった。

 なぜ最近のものと分かったか。


 その墓標が、大鷹乗りの持つ剣だったからである。

 私は聞いた。


 「大鷹はどうした」


 

 

 その者は私にようやく気付いた様子で、おもむろに振り向いた。

 

 

 まぎれもない、奴だった。

 奴は皮肉気に笑った。


 「5年ぶりの再会の第一声がそれかい?もっとなにかなかったものかね」


 奴の顔は嫌でも忘れられない。あの時よりは皺も増え、少しやつれているようだったが、茶色い髪に私と同じ茶色い瞳には見覚えがあった。

 、、、その瞳はひどく濁っているように見えた。


 「そんなことはどうでもいいだろう。それで、大鷹はどうした?」


 すらりと長剣を抜きながら、私は聞いた。

 

 こわいこわいと呟きつつ、奴は答えた。


 「殺したよ。戦士に逃げられないようにね」


 「その墓は?」


 奴は飄々と答える。


 「戦士達のものだ。見ればわかるだろう?」


 「殺したのか」


 私は無意識に足に力を込めていた。




 「、、、、無論だ」


 私は重心を落とし、左足で思い切り踏み込んだ。

 風の気を纏い、疾風となった。


 「貴様あぁ!」


 両手で確りと握ったつるぎの剣先にすべての力を込めた左からの横薙ぎ、それは見事、奴の胴体を捉えたかに思えた。

 

 しかし、弾き飛ばされた。全身に衝撃が走り、かすかに意識をとばされた。

 頭を振り払って奴を見てみると、奴の周囲に、子供一人を包めるくらいの大きく茶色い泥水の塊が三つ浮いていた。

 いつの間に精霊術を唱えていたのか。

 また、妙な点が一つあった。それが頭にちらつき、無理やり息を整えた。


 「なぜ反撃しない」


 私は我慢できずに怒りに任せ、不用意に踏み込んでしまった。弾き飛ばした後の隙に私を攻撃できたはずなのだ。

 

 彼は言った。


 「ここが墓だからだ。戦うことはこっちとしても望んでいたことだ。移動しよう」


 私は怪訝に思った。彼は大儀なく人を殺していながらその命に対する敬意を忘れているわけではないのか、と。

 しかし、腹立たしいことに、確かに戦いの場として墓地はふさわしくない。わたしは提案した。


 「だったら広場はどうだ?」


 彼は淡泊に答えた。


 「あぁいいな。そこにしよう」


 私は剣を右手で握ったまま、彼は水の塊を浮かせたまま、ある程度離れるまでは向かい合ったまま、別の道でそれぞれ広場にむかった。


拙作を読んでいただきありがとうございました。

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