出会い
短編の最後を変更して、連載に変更しました。
~プロローグ~
スタスタスタスタ…男は廊下を早足に歩く。
スタスタスタ、男は扉の前で止まり大きく深呼吸して、ドアノブに手を掛けてゆっくりと開いた。ガチャリ。男は部屋の中をキョロキョロして彼女を見つけると、
「やぁ。」
男は初めて彼女をみたとき、彼女を一生守ろうと誓った。
~第一章 出会い~
1
私が視力を完全に失ったのは、36歳の時だ。
〜十二年前〜
私は、生まれつき視力が弱く、25歳を過ぎた頃から視力が弱り始めた。
今まで見えていたものが、歳を重ねるたびに見えなくなっていく。
当時、医者からは治療は難しく、視力を失うのも時間の問題だと言われた。
私はさほど驚かなかった。
いつかはこうなると心のどこかで思っていたのかもしれない。
2
医者からそんなことを言われてから5年の月日がながれ、私は今年で30歳になる。
私はこの5年間、点字の練習とまだ読めていなかった本を読んだ。
失明宣告の半月前に小学校の教師になった。
私は島に行きたいと思っていたから、三年前に異動届けをだした。
翌年、異動先が決まり新しい学校に馴染むのに二年かかった。
今年から私はクラスを持つことになった。多くの生徒たちとふれあう中で、私は最後に担任を持つことになった。
「君は優秀だと聞いているよ。目が見えなくなってしまったら担任をやるのは難しいだろう。ぜひ君には最後までとは言わないが目が見えるうちは、今年から入る生徒たちをみてほしい。」とのことだった。
2年前に異動してきたときは驚いた。
異動場所が決まったとき、以前そこにいた先生が「生徒は少ないが、個性的な子たちで楽しかったなぁ。」とか「先生たちも負けてなかったですよね。」と言っていたのを思い出した。
生徒の数が年々減っており、今年入学するのは1クラスのみのようだ。
3
〜六年後〜
私は彼らを最後まで持つことができた。
もう私には彼らの顔がほとんど見えていなかった。
私は校長先生はもちろん他の先生たちにも感謝している。
一年前私は校長に、もう私の目はほとんど見えなくなっていて授業をするのは難しいため、彼らを五年生までしかみれない旨を伝えた。
しかし校長は、「最後の一年だし、彼らも急に担任が代わっては、慣れるまで大変だろう。」
「それに君は彼らのことをよく知っているし、彼らも君が最後までみてくれると思っている。だから、他の先生たちに君のサポーターとして手伝うように頼むから、君は口頭で授業をしてくれ。」
「君の説明は分かりやすいし、他の先生たちの勉強にもなるだろうから最後まで頼むよ。」と言ってくれたので最後まで持つことができた。
彼らとの六年はとても長いようで、短かった。
4
~卒業式まで後7日~
今日は六年生に内緒で先生たちから、メッセージを一人ずつに書いてもらうことになっていた最終日だ。
三年前私は職員会議で、
「今年の六年生は人数が少ないので私達で、生徒一人一人に寄せ書きか手紙を、書いてあげられたらいいと思うのです。いかがでしょう?」
となんとなく提案してみた。
すると校長が、何か考えているのか、とても怖い顔をしていた。
しばらくすると校長が立ち上がり、
「とてもいい案ですねぇ~。うちは生徒が少ない分生徒話す時間が多いですからね。今年の卒業生はたしか15人でしたか?先生方一人ずつが、後1ヶ月で15枚書くのは大変でしょうから今回は寄せ書きにしましょうか。」
と一人で話をまとめてしまった。
他の先生たちはうん、うん、とうなずいており賛成のようだ。
いったいあの怖い顔はなんだったのか…職員会議の後、他の先生に聞いてみたところ、
「あ~先生はここにきて三年くらいでしたか?ここ数年は他の先生からの提案も特にありませんでしたからねぇ~。」
とか言いながらむかしを思い出すかのように目を細めながら語り出した。
「僕がここに就任して半年くらいだったかなー、先生と入れ違いで異動した先生が居たんですけどね?その先生が職員会議で、『翌年から地元の農家さんに頼んで、田んぼを貸してもらい生徒たちに田植えや稲刈りなどの体験をさせてあげたいと思うのですが、どうでしょうか?』って言ったら校長がすごい怖い顔してたんですよ。」「なんかやばそうだなーって思ってたら『そうですね!とてもいいと思います!知り合いに米農家の人がいるので、ちょっと頼んでみたいと思います。なんなら育てるのはもち米にして餅つき大会をやるのもいいかと。』なんて言ってあっさり承諾しちゃったんですねぇ〜」なんて言いながら懐かしそうに苦笑いしていると思ったら、真剣な顔になって、
「校長先生は考える時とても怖い顔になるんですよ!」
なんて言われたので苦笑するしかなかった。
それからは毎年もちつき大会が行われるようになったとか。
5
私が提案したものも恒例行事になったようで、とうとう私の持つクラスも、卒業の年になったというわけだ。
毎年、卒業式の一ヶ月前に職員会議で、今年の卒業生に書くものを決めて、それぞれ授業の準備を進めながら手紙や色紙を書いて行くようになる。
色紙は回って来ないと困るので、校長先生の机の上に放課後から置かれており、手の空いた先生が書いて行くようになっている。
最終日が近づくとまだ書いていない先生が呼ばれるようになっている。
今回は手紙だ。なので、書き終わった手紙から卒業生の名前がついた棚に、投函していく形になっている。締め切り1週間前に担任がチェックして、まだ書いていない先生に伝言をするようになっている。
しかし、呼び出された先生はまだ誰もいない。
提案したその翌年に私が呼び出された以外は誰もいないため、みんな手際がよいようだ。
私は手元が不鮮明で書けないので、子供達への手紙は、妻に代筆を頼んでいる。
三年前はなんとか書いていたのだが、二年前に手紙を書くことに決まって、はりきって書いていたが、妻が横から手紙を覗き
「なんて書いてあるのか読めないですよ。」と笑いながら言ってきた。
目を凝らして見ると確かにナメクジの這ったような後にしか見えなかった。試行錯誤して目を凝らして字を書くことに成功した。しかし、時間がとてもかかるのだ。それを見かねた妻が
「ほら、あなた、そんなんじゃ間に合わないですよ。私が代わりに書きますので、何を書こうとしてたのかをおっしゃってください。」
と言って、妻が筆を取ってくれた。
それからは、毎年妻に代筆してもらっているのだ。
そんなある日、妻がふと思い出したかのように言った。
「今年でこれも最後になるのかしらね。」
私はそれを聞いてとても悲しくなった。
「いつもありがとう。」
そう言って妻に続きを促した。
ようやく最後の手紙を書き終え、妻が言った。
「私が代わりに書かないで、あなたの声を録音してそれを渡せばよかったんじゃないかしら?」
そんなことを言われて不覚にも納得しかけてしまった。平静を装いながら
「そんなことしたら私のだけすぐにみれないじゃないか。」と言ってみた。
妻は「それもそうね」と言って席をたった。
翌日私は学校にいく準備を妻に手伝ってもらい、家を後にした。
「いってきます。」
「いってらっしゃい。あなた、顔が怖いわよ?笑顔笑顔!」
そんなやりとりをしながら私はタクシーに乗り学校に向かうように伝えた。
「じゃあ行ってくるよ。」
「ええ、きおつけて。」
タクシーが出発した。
6
「先生!おはようございます!」
「おぉ、おはようみんな。今日も早いな。」
学校につくと生徒たちが入り口まで迎えにきてくれていた。
なんでも私のいない時に、皆で話合って決めたらしい。それが一年半前のことだった。
さすがに悪いと思い、迎えに来なくても平気だと言ったのだが、「先生、世の中どこに危険が潜んでいるかわからないんですよ!」
「だから私たちが先生の目になってあげます。」なんて生徒に言われてしまった。皆やる気だからいくら言っても、引き下がらないと思ったのでお願いすることにした。飽きたらやめるだろうと、その時に盲導犬を飼おうと思っていた。私は甘く見ていた。まさかこんなに続くとは思っていなかったのだ。もう一週間したら彼らも卒業していく。私は彼らの声を聴きながら、立派になったものだと感心していた。するといつものように生徒に手を引かれた。
「先生早く早く〜!」
「ちょっと!先生を急かしたら危ないじゃない!」
「少しくらい平気だよ!ね?せんせ!」
「ん?あぁ、大丈夫さ。」
「ほらな?大丈夫だってさ!早くいこうぜ!」
「あ!ちょっと!」
「おっと!」
何かにつまづき転びかけたようだ。
「だから言ったじゃない!先生、平気?」
「ちょっとつまづいたようだ。ありがとう、なんともないよ。」
どうやら私は少し甘く見ていたようだ。
もう慣れた道とはいえ、さすがに見えていない状態では早歩きでも危ないようだ。
「すまなかったね。やっぱりいつもどうりの速さで頼むよ。」
「わかったぜ先生!」
「それじゃあ、行こうか。」
私たちはいつものように校舎の中に入っていった。
7
とうとう彼らが卒業する日が来た。
彼らの顔を見られないのがとても残念だ。
いつか彼らと再会する時は彼らの顔を見られたらいいと思いながら彼らの言葉を聞きとどけた。
卒業式が終わって生徒たちと別れの挨拶をした。
「先生、中学校に慣れたら皆で会いに来るよ!」
「そうか、楽しみに待ってるよ。その時は私の友だちも紹介しよう。」
「へぇー、先生にも友だちが居たんですね!」
「ははは、まぁね、これでも教師である前に1人の人間だからね。友だちくらいいるさ。」
「それじゃあ気をつけてな。」
「はい!先生、お世話になりました!」
「困った事があったら相談にくるよ!」
「あんた、図々しいわね。先生、お世話になりました。体に気をつけてください。」
「あぁ、みんなも元気でな。」
こうして私の担任生活は幕を閉じた。
to be continue…