みにやくん
あるショッピングモールの片隅に売られてた、くまさん。
つんつんしてポンポンしてちょっかいをかけるこども達の相手を終え、暇を持て余してた所にやって来たお姉さん。
ぱあって顔を輝かせて、小さいこども達と同じようにむぎゅむぎゅしてポンポンして、僕を撫でる。
でもこのお姉さんは今までの子とは違った。
僕に付けられた値札を見て、にんまりと笑い、僕を抱きかかえてぎゅっと抱きしめてくれた。
その時は意味がわからなかったけど、レジに連れて行かれてピッてされた僕はお姉さんの『みにやくん』になった。
3280円だから『みにや』。
なんて安易なネーミングなんだろう。と思ったけれど、やっぱり名前を貰えたのは嬉しい。
僕はお家に連れて帰られて、家族のみんなとご挨拶した。
こんにちは。お姉さんに『みにや』ってつけてもらいました。これからよろしくお願いします。
うまく言えたっ!てドヤ顔してたらみんなもお返事してくれた。
「あら、かわいい。」
「でっかいな〜!」
「そうか。」
お父さんは少し素っ気なかったけど、お母さんとお兄さんは物珍しそうに可愛がってくれた。
「ふふーん、いいでしょ〜!」
お姉さんは得意げに笑って、それから僕をお部屋に連れて行き、今日からベッドで一緒に寝ることになった。
お姉さんは寝相が悪くていつも壁に押しつぶされそうになったり、ベッドの下に転がされたりしたけど、いつも朝には「ごめんねっ」て笑ってもとの場所に戻してくれた。
時には布団をかけて「うん。可愛い」なんて言ってたけど、僕自前の毛皮を着てるから暑かったよなんて言えなかったなぁ。
とにかく僕は幸せでいっぱいで。
でも、少しずつ少しずつ。お姉さんの関心は別の物に移っていき、大きくて邪魔な僕は椅子の上に置かれるようになった。
そのうち一度も僕の事を見ない日も増えて、僕は悲しくて寂しくて毎晩ひっそり泣いてたんだっけか。
何年か過ぎてお姉さんは僕の事を置いてどこかへ行ってしまった。お部屋の他の小さくて邪魔にならないものは連れて行ったのに…
お姉さんがそれからまたしばらくして帰ってきた時には僕は埃を被っていた。
お姉さんは僕を見てまた『ごめんね』って、言いながら埃を手で丁寧に払ってくれて、僕を初めて会ったあの時みたいに抱きしめると、そのままどこか他の場所へ連れて行かれた。
僕はついに捨てられてしまうんじゃないかとヒヤヒヤしていたけど、やってきたのはお姉さんの新しいお家だった。
お姉さんの指には銀色の輪っかがはまってて、玄関に出てきた男の人と「ちゅ」ってしてた。
男の人は僕がいたからハグは出来なかったからちょっとさみしそうだったけど、苦笑しながら僕の頭を撫でて受け入れてくれた。
そのうち赤ちゃんも生まれるんだって。
僕赤ちゃん見た事あるよ。お姉さんに会う前に、赤ちゃんのお兄さんやお姉さんが僕をさわりに来てたとき。
でも気づかなかったなあ。…だって僕のお腹はお姉さんよりも大きいもの。くまさんだからね。
…ふふ。
僕はぬいぐるみだけど、自分で動いたり喋ったりできないけど、またお姉さんや新しいお兄さん、それに赤ちゃんを優しい笑顔にしてあげられたらいいなあ。