紗奈の始業式
今回は紗奈ちゃんの視点です。最後は少し颯太の視点もありますが。
紗奈side
先輩と玄関前で別れてから、私はいつもとは違う道を通って中学校に向かっていた。
先輩はいつもこの道を通って登下校してたんだぁ。
紗奈はそんなことを思いながら道を歩く。
時々すれ違う人に挨拶をしていると、すぐに伊野杉中学校の校舎が見えてきた。
紗奈は教室に入ると、一人の女子生徒を見付ける。
紗奈はその女子生徒に近付き、声を掛ける。
「やよちゃーん!」
「あ、おはよう、紗奈ちゃん」
やよちゃんと呼ばれた女子生徒は、笑顔で紗奈に挨拶をする。
やよちゃん──改めて橘弥生。身長は百五十センチ程。やや垂れ目の瞳に、光も呑み込む様な漆黒の髪をポニーテールにしている女子だ。
「やよちゃん今日も早いね~」
「そりゃ、私は生徒会長ですもの」
そう、弥生は伊野杉中学校の現生徒会長なのだ。
「生徒会長はお忙しい?」
「もちろん」
そっかぁ、と紗奈は返すと、黒板にある紙を見て、自分の席に向かう。
自分の机に鞄を置くと、再び弥生の元に行く。
「やよちゃんやよちゃん、聞いて聞いて」
「何回も呼ばなくても聞くわよ。それで、何か良いことでもあったの?」
そう訊ねてくる弥生に、紗奈は笑顔で答える。
「実はね、先輩と再会したんだぁ」
「えっと、氷室先輩だっけ?紗奈ちゃんが片想いしてた」
「そうそう」
「それで、何処で再会したの?」
「家」
「…………は?」
弥生は少し時間を置き、驚愕の声を上げる。
「正確には先輩の家で」
「……ごめん待って、ちょっと理解が追い付かないわ」
弥生は手で頭を押さえながらそう言う。
「えっと、どういう流れでそうなったの?」
弥生が訊ねると、紗奈は何食わぬ顔で答える。
「えっとね、まず私のお母さんと先輩のお義父さんが再婚して──」
「待って待って待って待って!」
「なんでぇ?」
弥生が声を上げて止めると、紗奈は疑問の声を上げる。
「展開が急すぎるわよ!なんでいきなり親同士が再婚するところから始まるのよっ!」
「だってぇ、ホントにそこから始まるんだもん」
「……まぁいいわ。続けて」
弥生は諦めたようにそう言う。
「えっとね、その時初めてお母さんの再婚相手が、先輩の親って知って、兄妹になったんだよぉ」
「……うん」
弥生は必死で突っ込みたい気持ちを抑え、相槌を打つ。
「それでね、それから殆ど毎日頭撫でてもらったり膝枕してもらったり一緒に寝たり、お風呂入ったり──」
「ストップッ!」
再び弥生は声を上げて、紗奈の言葉を遮る。
「えぇ?」
「えぇ?じゃない。明らかに最後の一つはおかしいでしょ!いくら兄妹だとしても、血の繋がってない年頃の男女なのよ!?もう少し常識を弁えなさいっ!」
弥生は声を荒らげ怒るが、紗奈はそれをのらりくらりと受け流す。
「でもぉ、一回はフラれたし、このくらいは──」
「待って!なんで紗奈ちゃんは毎回毎回突っ込まなきゃいけないようなことを言うの!?」
三度、弥生は声を荒らげ、紗奈の言葉を遮る。
「一回フラれたって?いつ告白したの?」
その問いに、紗奈は少し頬を赤く染めて答える。
「その、卒業式の後に体育館裏で……」
「照れる要素がどこにあるのかはあえて聞かないけど、それでフラれたの」
「うん」
「そっか。まぁまだチャンスはあるんだし、頑張ってね」
「うんっ!」
そう答えると、紗奈は自分の席に戻る。
それから暫くして始業式が始まり、その日の授業は全て終わった。
始業式は部活が無いので、HRが終わると、生徒たちは次々と教室を出ていく。
紗奈が荷物を鞄に入れて帰りの支度をしていると、弥生が近付いてくる。
「紗奈ちゃん、そろそろ帰ろ」
「あぅ、ごめんね、今日は先輩が迎えに来てくれることになってるの……」
「そっか。じゃあまた明日一緒に帰ろ」
「うんっ!」
そう返すと、紗奈は鞄を持つ。
「それじゃあ、校門のところまで一緒に行こっ」
「そうね」
弥生がそう返すと、紗奈は嬉しそうに笑みを浮かべる。
「あれ?これなんだろ」
紗奈は、下駄箱に入っていた一通の手紙を取る。
「あらあら、もしかしてラブレター?」
「うーん、どうだろ?」
「開けてみたら?」
「そうだね」
弥生の言われるままに、紗奈は内容を確認する。
『放課後、体育館裏に来てください、待ってます』
手紙には、そう書かれていた。
「明らかに告白の流れよね」
「そうだねぇ。じゃあ私行ってくるよ」
「はいはい、待ってて上げるから、早く戻って来てね」
うんっ、と返すと、紗奈は急ぎ足で体育館裏に向かった。
体育館裏かぁ、懐かしいなぁ。先輩に告白した時を思い出すよぉ。
そう思いながら、紗奈は足を進める。
体育館裏に着くと、そこには一人の男子生徒がた立っていた。
紗奈は、その生徒に見覚えがあった。
「大伊野くん、お待たせ」
「夏目さん、来てくれてありがとう」
大伊野くんと呼ばれた生徒は、紗奈に礼をする。
大伊野道政。紗奈と同じ三年生で、サッカー部のキャプテンになる程の実力者である。
「それで、何かようかな?」
そう言うと、道政は少し間を置き口を開く。
「夏目さん、二年の頃から好きでした。よかったら僕と付き合ってください!」
そう言い、道政は頭を下げる。
道政から伝わってくる真面目な気持ちに、紗奈は真剣に答える。
「ごめんなさい、大伊野くんと付き合うことはできません」
そう言うと、道政は顔を上げ、目尻に涙を溜める。
「理由、聞いてもいいかな?」
「私ね、好きな人がいるの」
紗奈がそう言うと、道政は無理矢理笑顔を作り、口を開く。
「そっか。その想いが届くといいな」
「ありがとう。また明日ね」
そう言い、紗奈は体育館裏を後にした。
なるべく彼の泣き姿を見ないように。
「お待たせ、やよちゃん」
「誰からだったの?」
「大伊野くんだった」
「そう」
「それでね、このことは誰にも言わないでね?」
「分かってるわよ。そんな無粋なことはしないわ」
その言葉に、紗奈は笑みを浮かべる。
「やよちゃん優しぃ」
そう言い、紗奈は弥生に抱き付く。
弥生は赤面し、慌てて紗奈を剥がそうとする。
「ちょっと、はーなーれーてー!」
「いいじゃんいいじゃん。あれ?やよちゃん胸大きくなった?」
そう言いながら、紗奈は弥生の胸に顔を押し付ける。
「ちょっ、だから離れて!あっ、胸に顔押し付けないでっ……ああっ」
くすぐったいのか、弥生は熱っぽい声を上げながら紗奈を押し剥がす。
その度に紗奈は弥生に抱き付き、結果颯太が迎えに来るまで、百合百合しい行為は終わらなかった。
「紗奈ちゃん、謝りなさい」
颯太が、咎めるようにそう言う。
「うぅー、ごめんね、やよちゃん」
「う、うん。今回は許すけど、もうしないでね?」
紗奈は「分かった」と返すも、その顔から反省の色は窺えなかった。
颯太と弥生は苦笑いを浮かべ、紗奈を見る。
紗奈は二人の視線に恥ずかしくなり、先に一人で歩き出す。
「あ、まって紗奈ちゃん。じゃあね、橘さん」
「はい。また」
弥生は手を振り、二人を見送った。
□ □ □ □ □
「紗奈ちゃん、友達に迷惑掛けちゃ駄目だよ?」
「はーい」
この子、反省する気無いな……
颯太は少し呆れながらも、紗奈の頭を撫でる。
「ふぇ?ど、どうしたんですか?」
「いや、なんとなく」
そう返すも、颯太は撫でる手を止めなかった。
結局、家に着くまで颯太はずっと紗奈の頭を撫でていた。
家に入ると、二人は自室に行き、部屋着に着替える。
そのままリビングに降り、紗奈はソファーに腰掛ける。
「ふぅ、疲れましたぁ」
「お疲れ。お昼何がいい?」
颯太がそう訊ねると、紗奈は顔だけ颯太の方に向け答える。
「ミートソーススパゲッティがいいです」
「分かった」
そう返すと、颯太は台所に向かった。
それからすぐに作り終え、颯太と紗奈は席に着いて食事を取り始める。
食べている途中、紗奈が何度も「美味しい」と言うので、颯太は恥ずかしさに顔を赤く染めたのだった。
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