1話 告白そして再開
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2017/12/14.改稿
時は三月上旬。
地域によっては桜の花が咲き始める頃。
俺、氷室颯太は体育館裏に居た。
勿論、一人ではない。
俺の目の前には、一人の少女が立っていた。
俺を呼び出した張本人、夏目紗奈だ。
紗奈ちゃんの金混じりの茶髪は、木々の隙間を通り抜けてくる風に、ふわりと靡く。
俺は、紗奈ちゃんを真っ直ぐ見つめ、口を開く。
「それで紗奈ちゃん、話って何かな?」
そう訊ねると、紗奈ちゃんは覚悟を決めた様に、ゆっくりと口を開く。
「……先輩、私は先輩のことが好きです! 大好きです! 私と付き合ってくださいっ!」
紗奈ちゃんの口から放たれたのは、正真正銘、愛の告白。それも、俺に向けられて。
どうしてこうなったのか。
俺は空を見上げ、今日という日を思い返していた。
□ □ □ □ □
卒業式。
それは学校の最上級生が教育課程を終了し、学校を去る式。
俺の先輩方も、卒業式を終え学校を後にした。
そして、今年は俺が卒業する側。
卒業式は何事もなく無事に終わり、俺たち三年生は後輩や教師、保護者の拍手の中、体育館から退場していく。
この後、一度教室に戻り、担任の教師と最後の言葉を交わした。
運が良いのか悪いのか、俺は三年連続同じ担任だった。
決して嫌だったわけではない。
担任の宇津木先生は、真剣に生徒と向き合ってくれた。
どんな時も真面目で、生徒思いの良い先生だ。
この人が担任だったから、俺の中学校生活は別段楽しいものとなった。
宇津木先生は生徒からも人気で、今は女子生徒を中心にした、元クラスメイト達に囲まれている。
俺はその光景を尻目に、一足先に教室を出た。
それから少しして、他の教室からも生徒が次々と出てくる。
俺はその生徒の波に紛れ、校舎を出る。
外では、後輩達や先生、保護者の方々が拍手で俺達、卒業生を迎えていた。
卒業生達は、友人と話し合う者、部活や委員会の後輩と話す者、保護者に泣きついている者、教師と会話している者。皆、中学校生活の最後のページを刻んでいた。
そんでもって俺は、友人と言葉を交わしていた。
「じゃあな、颯太。お互い頑張ろうぜ」
俺の友人の一人──藤本と握手をかわす。
「あぁ、また暇なときに遊ぼうな」
俺は笑顔でそう返す。
「あぁ!」
そう力強く返事をし、藤本は小走りで校門に向かっていった。
友人の背中が見えなくると、俺は人が少ない方へ行き、小さくため息を吐く。
「おい氷室」
黄昏ていた俺に話し掛けてきたのは、宇津木先生だった。
「なんですか先生、泣かなくて良いんですか?」
俺は誤魔化そうと、軽口を叩く。
「強がるな氷室。顔がくしゃくしゃになってるぞ」
だが、宇津木先生の目は誤魔化せなかった。
「ははっ、流石ですね先生」
俺は、静かに嗚咽を漏らした。
「先生、ありがとうございました」
「おう」
「三年間、本当に、ありがとう、ございましたっ!」
「……おう」
宇津木先生は、昔のことを思い出すかの様に、空を見上げる。
俺もそれに習い、空を見上げる。
時間にして十二時前、太陽はほぼ真上に位置していた。
「卒業おめでとう。これからも頑張れよ」
そう言い残すと、宇津木先生は他の生徒の元に向かった。
「さて、そろそろ帰るかな……」
もうすることは無くなり、校舎を見上げそう呟く。
「せ、先輩!」
不意に、後ろから声を掛けられる。
「何かな──って、紗奈ちゃん? どうしたの?」
声の主は、一つ下の後輩、紗奈ちゃんだった。
金混じりの茶髪は風で靡き、黄金色の瞳は、真っ直ぐと俺を見つめていた。
「その、私に付いてきてもらえますか?」
紗奈ちゃんは、少し震えた声で訊ねてくる。
「いいよ」
俺は笑顔でそう答える。
そして、俺は紗奈ちゃんに連れられ、体育館裏に向かった。
□ □ □ □ □
「先輩、返事を聞かせてもらえますか……?」
俺が無言で紗奈ちゃんを見つめていると、少し不安になったのか、紗奈ちゃんが訊ねてくる。
そうだよな。答えないと、紗奈ちゃんに失礼だな。
そう思い、俺はゆっくりと口を開く。
「……ごめん」
そう答えると、紗奈ちゃんは涙目になる。
紗奈ちゃんは泣きそうになるのを必死に我慢し、口を開く。
「ど、どうして、ですか?」
紗奈ちゃんの声は、震えていた。
「俺はもう中学校を卒業した。一ヶ月後からは高校生だ。紗奈ちゃんとはもう会う機会はない。
それに、紗奈ちゃんだって受験生になるんだ。俺に構っている時間は無い筈だ。
だから俺は、紗奈ちゃんと付き合うことはできない」
紗奈ちゃんは俺の言葉を聞き、俯いてしまう。
「うぅ、ひっぐ……」
遂に我慢できなくなったのか、紗奈ちゃんは泣き始めてしまった。
そんな彼女を見て、胸の奥がチクリと痛む。
「ごめんな。でも俺なんかと付き合うより、もっと良い人を探してくれ」
そう言いながら、彼女の頭を優しく撫でる。
「ふぇぇ……、ひっぐ、せんぱぁぃ……うぅ……」
そのまま、紗奈ちゃんが泣き止むまで慰め続けた。
□ □ □ □ □
卒業式から二週間が経ち、高校への入学が近づいてきた。
「はぁ、俺も遂に高校生か」
どうも実感がない、受験のときもそうだったがやっぱり自覚が持てないんだよなぁ。どうなんだかなぁ。
まともな感想を抱くこともなく、俺はソファーに深く腰掛ける。
既に時刻は午後六時を過ぎており、カーテンの隙間から茜色の光が室内に射し込んでいた。
「おーい颯太、起きろー」
父親の声に、颯太は目を覚ます。
どうやらソファーに座っていた間に、寝てしまっていたようだ。
「あぁ、お帰り、父さん」
「ただいま。飯作っといたぞ?」
「ごめん、俺の役割なのに」
颯太が謝ると、仁一郎は苦笑いを浮かべる。
「いいさ。本来なら僕がやらなければならないことなんだ。颯太はもっと子供っぽくしてくれてもいいんだぞ」
「父さんに無理はさせられないよ。ただでさえ仕事で忙しいんだから。家事くらいはさせてくれよ」
「……颯太は子供らしくないね」
なんという辛辣な親なんだろうか。
「まぁいっか。冷める前に食べちゃおっか」
「そうだね」
──父さんの料理は俺よりも下手でした。
□ □ □ □ □
三月下旬、既にあちこちで桜の花が咲き、その事がニュースで取り上げられている。
そんな中、俺は一人静かに父さんの帰りを待っていた。
昨日の寝る前、父さんから「明日大切な話がある」と言われ、神妙な気持ちで待ち構えていた。
大切な話、か。なんなんだろうな。
速まる鼓動を鬱陶しく思いながら、俺は椅子に腰掛け、父さんの帰りを待った。
ガチャ、と玄関の扉が開く音がする。
ふと時計に目をやると、時刻は午後七時過ぎ、いつも通りの時間である。
「父さん、大切な話って────」
玄関に向かい、父さんを問いただそうとし──唖然とした。
そこには、スーツ姿の父親と、お洒落な服を着ている女性。そしてその女性の隣に、綺麗な金混じりの茶髪の少女、紗奈ちゃんが居た。
「父さん、できるだけ簡単に説明してくれ」
俺は戸惑いを孕んだ声で父さんに問う。
「実は、僕、再婚することにしたんだ」
なるほど。
「それで、この人が僕の再婚相手の」
「夏目夏希です。仁一郎さんとは、半年前に偶然知り合いました」
「は、はぁ」
「それで颯太、結婚することは確定なんだけど、今まで話さなくてごめん」
そう言い、父が頭を下げる。
「いや、別に怒ってるわけじゃないんだけど。
再婚だって、父さんが決めたことなら文句はないし、嬉しいことだよ」
「そうか、ならよかった」
「でもね、一つ聞きたいことがあるんだよ」
「なんだい?」
ふぅ、と息を吐き、真っ直ぐと父さんを見つめる。
「彼女は?」
そう言い、紗奈ちゃんに視線を向ける。
「彼女は夏希さんの娘さんで、名前は──」
「紗奈ちゃん、でしょ?」
「颯太、知り合いだったのか?」
「まぁ、ね」
知り合いどころか、卒業式の日に告白されましたけどね。
「えっと、颯太、これから兄になるんだ、仲良くしてくれ」
「えっと、うん」
まぁ、言わなければ問題はないだろう。
そう思い、目を閉じると──
「お母さん、この人が、私の好きな人だよっ!」
紗奈ちゃんが爆弾発言を発した。
「あら、そうなの?」
「本当なのか? 颯太」
二人は驚きの声を上げながら、こちらを見る。
「ほ、本当だよ」
でも、と続けようとするが、それよりも先に紗奈ちゃんが口を開いた。
「先輩! 私はまだ先輩のことが大好きです!」
………………………………。
「私と付き合ってください!」
「……ごめん」
再び颯太が断ると、あのときの様に泣き出しそうになる。
「颯太、お前……」
流石に怒られるか。
そう思い、目を閉じるが、
「お前もちゃんと青春してたんだな」
何故か嬉しそうにそう言った。
「まって父さん、そこは怒るところじゃない?」
「なにを怒れと言うんだ。僕は心配していたんだ、颯太が僕の代わりに家事をしているせいで、まともに青春を送れていないのでは、と」
「えっと……、夏希さんは怒ってないんですか?」
「紗奈が幸せになれるなら、私は何も言いません」
こちらも嬉しそうな顔をしていた。
俺は天井を見上げ、静かに目を閉じた。
□ □ □ □ □
俺は今、自分の部屋に居た。もう一人、少女と共に。
「紗奈ちゃん、久しぶり」
「はい、先輩。っと、先輩じゃなくてお兄ちゃん?」
お兄ちゃん、と言われた瞬間、なにかに心を射抜かれた感じがした。
「えっと、今日から俺は紗奈ちゃんの義兄で、紗奈ちゃんは俺の義妹、でいいかな?」
「はい!これで、これからもずっとせんぱ──お兄ちゃんと一緒にいれますね!これはもうカップル越えて夫婦ですね!」
「うん、まずは落ち着こうか」
どうどう、と紗奈ちゃんを落ち着かせる。
「えっと、まぁ宜しくね、紗奈ちゃん」
「はい!」
うん、良い返事だ。
「それで、せんぱ──お兄ちゃん、一緒にお風呂に入りませんか?」
「え?」
「一緒にお風呂に入りませんか?」
……。
「無言は肯定と看做しますよ?」
「分かった。入らないけど落ち着いて」
「えぇ……」
いやだって、いくら義妹と言えど、大好きだと告げられ、告白までしてきた相手と一緒に風呂なんて、無理がある。
「……頭撫でてあげるから」
その言葉に、パァーと笑顔になり、近付いてくる。
「よしよし」
俺は優しく、ゆっくりと紗奈ちゃんの頭を撫でた。
程なくして、紗奈ちゃんはお風呂に向かった。
「はぁ……、これから大変になるな」
そう確信し、颯太はまた一つため息を吐いた。
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