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5 新装備


「ラウラも訳アリっぽいけどね」


 帰り道、魔導士の少女――トリシャ・エアラッハに言われる。


「え?」

「さっき、魔物のスキルを使った」

「ああ……うん。まあ」


 確かに訳アリだ。彼女の指摘で新たな問題も気づく。人前で魔物のスキルを使うのは結構、拙いんじゃないかと。

 【ラーニング】の知名度は無きに等しいし、下手したらまた余計な悪評を呼び込むかも。余計なトラブルを誘発する行動は慎むべきだろう。


「それにボクの目を見ても、怖がらなかったし」

「その眼が凶相だってのは、無知な占い師のせいだよ。そんないい加減な難癖を信じる方も問題あるけど」

「……正しいかどうかは、声の大きさで決まる。例え間違いでも大勢が肯定すれば、それが真実になってしまうから」


 残念だけどそれが今の帝国だ。声と人数で事実さえ捻じ曲げる。

 聖騎士の名もそうして堕ちていった。現皇帝は良い人柄だったのに最近おかしい。


「嫌な時代だな……」


 それでも比較的、自由が約束されているノイスガルドは他の街に比べれば恵まれているという。


「なあ、本当に報告しなくていいのか?」


 俺はもう一度提案する。


「いいよ。彼らを信頼したボクも少し浅はかだった」


 しかしトリシャは頑なに――というよりは、完全に諦めてる様子だ。彼女が首肯しない以上、第三者の俺があれこれ言うのも良くない。当事者たちで決めるべきことだろう。


「ねぇ、ラウラ」


 迷宮の出口まで来たところで、声をかけられる。


「ん?」

「もし、だよ。もし良ければ――」


 何かを言おうとして、トリシャは首を振った。


「……何でもない。これ以上、ボクは……」


 小さい声で呟き、


「今日は本当にありがとう。また縁があったら」


 街の方へ走り去っていった。




 俺は本日の成果が詰まった袋を背負い、武器道具屋『燃える金床』に足を運んだ。

 店内に入れば途端に外の喧騒と切り離される。


「いらっしゃい」


 カウンターの傍で座る小柄な男はドワーフ族だ。背丈は殆ど俺と変わらないが、身体の半分以上を髭に覆われている。

 いかにも頑固な職人といった風貌だが、その分信頼できる。付き合いも長い。


「これ、買い取ってもらえる?」

「ほぉ随分と稼いだな。やるじゃねぇか」


 ドサッと置いた袋を見て、男――ギルはひゅうと口を鳴らす。


「ハリーから聞いたぞ。お前さんが、あのラウラだとは驚いたぜ」


 袋の中身を確認しながらギルが言う。

 あのお喋り神父が……。


「ギルでも原因分からない?」

「何とも言えないな。性別を変えるアイテムはいくつかあるが、お前さんの場合はそうじゃないだろ」

「……多分」

「ま、あのアホ神父の言うことはアテにならねぇよ。ほらよ、今日のお前さんの稼ぎだ。最高記録だぜ」


 ギルはカウンターに銀貨と銅貨を並べる。すごい量だ。目測で数えられないのはこれが初めてだろう。


「今日一日で何日分の飯が食えるんだ……」


 金銭で示され、改めて【ラーニング】にお礼を言いたくなる。いや、本当に大したスキルだ。


「ああ。だが、ここで商談といこうじゃねぇか?」


 ギルは俺の装備を睨む。


「へっ! 俺が見繕ってやった鎧をそんなにしちまいやがってよ」

「う……だ、だってしょうがないじゃん! サイズ合わないし、お金なかったし!」

「でも今はあるよな?」


 ニヤリと笑みを浮かべ、商人魂を発揮するギル。もう逃げられない。


「あ、あります……」

「よし。じゃあさっそくお前さんに見せたいものがある」


 店の奥に一旦引っ込み、何かを抱えて戻ってくる。


「ほら、これだよ」


 運んできたのは鎧と防具一式。


「前に貴族のマヌケが自分の子に鎧を着せようとして頼んできたんだが、ドタキャンしやがってな。アホ神父からお前さんのサイズの見当も聞いたから、そん時の奴を弄ってみたんだ」


 ハリーのスキルの一つに、女性のスリーサイズを見抜くという実にしょうもない、糞みたいな効果の奴がある。それを俺に使ったんだろうけど……普通断りくらい入れるだろ。もう一度じっくり懺悔室でお話をする必要がありそうだ。


 ま、今はこいつの着心地を試してみよう。


「おい、ここで脱ぐのか……客はいねぇし良いだろ。着替えたら教えろ」


 そう言ってギルは使い古したパイプに火を灯し、古ぼけた本に目を落とした。




「中々の男前……いや女前だ」


 姿見で自分の姿を眺める。白と金を基調とした重鎧。脆いとされる各関節部には防御魔法が付与され、防御力を高めていた。

 背には純白のマント。魔法効果を発揮する紋章の刺繍もある。裏地も透き通るくらい綺麗な白色だ。篭手や脛当ても鎧と合わせる配色になっていた。


「恰好だけは一人前の聖騎士だな」

「うぐ……いずれ本当の騎士になったるわ」


 今はただのはぐれ騎士だが、ゼッタイ聖騎士の名を授かってやる。


「さて、料金だが『ルーンアーマー』銀貨九枚。『風と水のマント』銀貨三枚。『ルーンガントレット』銀貨五枚。『ルーンブーツ』銀貨四枚。しめて銀貨二十一枚」

「いいのか? こんなに安くて」

「ヘッ、俺はお前さんに賭けてるのよ。タルタロスを踏破してくれるってな。そう考えれば安い出費だぜ」

「……そうか。ありがとう、ギル」

「お前さんと俺の仲だろ。これからも期待してるぜ、友よ」


 俺はギルと固い握手を交わし、店を後にした。


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