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「そうか……分かりましたよ。貴方が、主が言っていた【ラーニング】の使い手ですかっ!!」

「……だとしたら、どうする」


 俺も有名になったらしい。ちっとも嬉しくないが。


「まあ、そこまで知ってんなら話は早いよな」

「どういう意味――」

「みんなのスキル、返してもらうぞ」


 『劜縮地』で加速する。青色の怪人が反射的に身構えようとするが、遅い。

 俺は勢いそのままに奴の顔面を掴み掛り、押し倒す。五本の指がメキメキと頬骨に食い込んでいく。


「イギィっ、痛、カ、カハル、イアサール、カルカア!! は、早く私を助けなさい!!」


 マウントを取られた怪人が呻く。両手で俺の手首を掴んで引き剥がそうと暴れるが、そんな情けないパワーじゃダメダメだな。


「テメェ! 調子乗ってんじゃねぇぞ!! 【烈火燐】!!」

「おで、お前、嫌い!! 潰す!! 【泰山巌拿】!」

「さっきからアンタ、超ムカつくんですけどォ!! 【風束斬】ッ!!」


 三者三様、三つの属性のスキルが俺に向かって飛んでくる。

 馬鹿が、これじゃ例え食らったとしてもコイツファヤダーンまで巻き込まれんじゃねーか。


「な、何を考えてるんですか! 私まで巻き込まれっ!」


 俺はため息をついて、腕を振るう。

 さあ、出番だぞ。


 新しい盾アマルテイア――その力、見せてやれ。


「何!?」


 手甲の上に取り付けられていた円形状の機構が作動し、自動で浮かび動いて俺の前面に半透明のエネルギーの幕を形成する。

 幕の向こうでは激しい爆発が巻き起こるが、こちらには余波すら届かなかった。


「完璧だよ、ギル」


 今まで使っていた金属製の盾とは全く違う、別次元の代物だ。ミラリの素材をふんだんに使ったそれは、ミラリ同様自動で動いで最適な守りを構築する。

 魔法に強いのはもちろん、ギルが銀色山脈で採掘された上質な真銀ミスリルと、世界に一匹しかいない言われる黄金の山羊の羽毛を混ぜ合わせた結果――物理にも驚異的な耐性を有す盾となった。

 これならヨルムンガンドの群れの突進を受けても揺らぎもしないだろう。何よりも片手がフリーになるのが大きい。アマルテイア自身が自立するのだから攻防一体、手早い攻守の入れ替えが可能になった。


「馬鹿な! あんな猛攻を受け止めて、揺らぐことすらないなんて!?」

「俺の親友が作ってくれたからな。じゃ、返して貰ったからお前、もう良いよ」


 【スキルドレイン】でカイルたちのスキルは奪い返せた。【レベルドレイン】同様、人間が対象になるスキルなので魔物は含まれない。

 俺はファヤダーンを適当な所へぶん投げて放り出し、ヴェルトヴァイパーを構える。


「ふぅ……じゃあ、行くぞ? 【衝け焼き刃レッドスミス】――!」


 灼熱の炎を纏わせ、真っすぐに伸びる切っ先。咄嗟に躱していく怪人たちの頬を掠める。すかさず手を引くと、刀身を繋ぐワイヤーによって刃が不規則にしなり始めた。


「うぉッ!?」


 変幻自在に曲がるヴェルトヴァイパーの能力と、射程無限の炎の刺突の組み合わせ。もはやそれは炎のムチだ。驚異的かつ変則的な動きでのたうつ猛火の一撃は、四人の怪人共を容赦なく痛烈に打ちのめしていく。


「何、でテメェが!? その技を!」

「それが【ラーニング】だ」

「ふざけんな!!」


 炎の怪人、カハルが鞭の一打に耐えて突破してくる。まあ炎を宿してる魔物だしな。この程度で倒れたらプライドもクソもないだろう。


「なら冷やしてやるよ。【氷・Ⅴパゴス・ペンデ】」


 魔眼、大紅蓮の淼眼。アリアは矢弾に氷の力を宿すが、あくまでもそれは魔法攻撃を得手としない彼女なりの工夫だ。

 本来は相手を〝視〟るだけでも効果は発揮される。アルアインから魔眼系のスキルを学んだ俺なら最大限活かせるはずだ。


 バギン! と巨大な氷塊がカハルを押し包む。凍らされた事にすら気づいていないのか、奴は駆け出す姿勢のまま凍結している。


「凍ったままじゃ可哀想だよ。治してあげるね……【大気よ、我が命に従い鉄拳と化せ! 暴風打ルフトハンマー】!」


 受け身も逸らしも効かない凍結からの打撃粉砕。魔物でも耐え難い激痛なのか、絞り出せたのは無音の悲鳴だった。

 トリシャも容赦ない。


「冗談じゃない、こいつ、本当にアタシたちが奪ったスキルを奪い返して――!!」

「だからそういうスキルだって言ってんじゃん」


 俺は跳躍で距離を詰め、風女の頭上を獲る。


「ちょ、待って、アタシはこいつらに脅されただけで、本当はこんな事――」

「あーはいはい、言い訳は地獄の鬼にでも言ってくれ。【大激破】!」


 直上からのヴェルトヴァイパーの振り下ろし。ガラフ自慢の一撃を、糞ムカつく奴の顔面へと叩き込んだ。


「ウゴ、オオオ!?」


 風女は下半身から地面にめり込んでいき、俺の腰くらいの高さにまで沈む。

 

「ウゥウウウ! おでの仲間、イジメる駄目!! お前、嫌い!!」


 土の怪人……カルカアとか呼ばれてた奴が両手を突き出して突進してくる。トリシャから援護射撃の火炎弾が飛ぶが炎が弾けるくらいでは意にも介さない。

 なるほど、少しは打たれ強いらしい。なら、特大の一撃をブチ込んでやろう。


「【大斬】、【チャージ】……悪しき存在へ、神の断罪を――」


 力自慢のシィナが放つ打撃の神の奇跡。それに、高性能な魔物の強化系スキルを重ね掛けたらどうなるだろうな?


「五体満足でいられると良いなァ……【セレスティアル・パージ】!」

「ッッッ!?」


 ありったけの破壊の力を這わせたヴェルトヴァイパーを力任せに叩きつける。その一発の前に、貫く閃光と共に土塊野郎は文字通りバラバラに弾け飛んで行った。

 そういやこいつ、再生持ちらしいけど限度ってどの辺なんだろうな? 爆散しても戻れるのか、一部の欠損までなのか。

 ……まあ、どっちでも良いか。復活するなら復活しなくなるまで殴り倒す。


「さて、一応残るはお前一人だけどどうする?」


 呆けたように立ち尽くすファヤダーンに俺は呼びかける。


「……う……、ぐぅうう、み、認めない!! 認めない、こんな事!! 私は、私たちはマスターピース!! 至高なる主に生み出された、究極の生命!! 人間なんぞに、人間なんぞにィイイイイイイイイイイイイイ!!」


 頭を掻きむしって地団駄を踏み始め、奴は仰々しく天を仰ぎ見る。

 ……何かするな。


「主よ!! 貴方が言いつけた禁を破ります! タルタロスが、ノイスガルドが、いや! この大陸がどうなろうと最早知ったことかぁ!!」


 叫ぶと同時、身体中から触手のようなものが無数に、縦横無尽に伸ばされ、周囲の岩肌や鍾乳石に張り付きピンと糸を張るように固定されていく。

 更に別の触手は倒れている炎の怪人や風女、土塊野郎の身体(と残骸)にも纏わりついていった。


「な、あ……ファ、ファヤダーン! ちょっと、あんたまさかアレをやるつもり!? やめなさい、あたしは――!」

「黙れ!! 大人しくしろ!!」


 すると突然、掴まれていた部分が泥のように崩れ出してファヤダーンの両腕と融合し始める。

 俺はこの現象を前にも見ている。合体して巨大化したマミーの群れだ。


「くく、クハハハハハァ! いいぞぉ、力が溢れてくる! 素晴らしい、実に素晴らしい!」

「じょ……、冗談じゃねぇぞ!? テメェマジでイカれるぜ……!」


 変貌していくファヤダーンを目の当たりにするカハルは、這い蹲って逃げようとするがその足首を触手のように伸びてきた水が搦め捕る。


「おっと、逃がしはしませんよ! あなた方は少々マスターピースとしては分不相応な態度が目立ってました。しかし、安心なさい。これからは私があなた方の模範となって、生きていくでしょう!」

「やめろ、放しやがれ!」


 宙づりにされながらも、カハルは両手に爆炎を発しその顔へ叩き込む。

 しかし直撃した頬の辺りを鬱陶しそうに指先で擦るだけで、ニヤリと笑みを深くした。


「強烈な一撃をありがとうございます。これで防御も完璧だと証明されましたね!」

「ば、バカな!?」

「では、頂きます」


 パカっと、人外じみた大口を開けてカハルを丸吞みにする。ファヤダーンの変貌は更に激しさを増し、背丈は元の数倍の高さにまで及んでいた。

 体表に走る紋様は四人のものを混ぜた形になり、色合いも四色が混合したどぎつい色彩に変化する。


「クックック、ちと力み過ぎましたかね……!」


 地響きと共に振り返ったファヤダーンにかつての面影はなく、ただただ醜悪に肥え太った異形の怪物が厭らしい笑顔を張り付けている。声音も四人分の声が重なったかのように、常にダブって聞こえた。

 これが完璧なる生命体……? 笑えるぜ。


「どうですか? これが生命の到達点、マスターピースの真の姿です。さあ、こうなってしまったらもう止まりませんよ。あなた方を皆殺しにしたら次はノイスガルド、帝国、王国! そしてアシュタリルの全ての生命を殺し尽くすだけです!」


 だが奴は気分が良いのか、饒舌に演説めいた所作で語り出す。


「大人しく殺されていた方が幸運だったと後悔するでしょう。ですが――」

「どうでも良い。さっさと、来い。ご自慢のマスターピースの力、見せてみろ」

「あ、ラウラそこで遮るんだ。もう少し聞いてあげても……」


 セリフを遮り、盾――アマルテイアを構える。

 いや、だって放っとくとマジで延々と喋り続けそうな感じだったしサ。


「本当に、あなた方は、どこまでも……」


 ビキビキ、と肥大化したファヤダーンの全身に青筋が浮かんでいく。


「人を怒らせてくれる不愉快な存在だ!! 良いでしょう、お望み通り、跡形もなく、消し飛ばしてくれるわぁアアアアアアアアア!!」


 振り上げた両腕に七色の光が宿る。


「【異界の寵愛を纏いし紋章よ、魔力の流動を妨げ、斥け、反発せよ。不可視の盾を身に纏い、あらゆる害意を挫かん。我が言葉を聞け、魔法の名を叫べ! 去魔の加護プロテクション・フロム・フォースベイン】!」


 間髪入れずにトリシャから魔法防御を高める魔法が飛んできた。アマルテイアが破れると思わないが、石橋を叩いて壊すくらいの用心はいるだろうな。

 来い、受け止めてやる。


「【磊淼焱飍斬エレメントキャリバー】ァッッ!!」


 虹色の閃光が視界を埋め尽くす。今までの攻撃とは比較にならない、痛烈な衝撃がアマルテイアを通じてこちらにまで伝わってきた。

 確かに強い。前の盾じゃ絶対に防げなかった。アマルテイアでも殺し切れない衝撃まであるとは……。


「ハハハハハハ!! 消え去ってしまえぇえええええ!!」


 ファヤダーンの哄笑を聞きながら、俺は両足を突っ張って踏み止まる。背後にいるトリシャ、更にはカイルたちには一切の余波も飛ばさない。

 確かに、強い。

 でも――、やっぱ勝てない相手ではなかったな。


「ハハハ……はぁ!?」


 光が消え去り、現れた無傷の俺たちを見てファヤダーンは瞠目する。


「な、なんで生きて……わ、私の攻撃を受けて!?」

「だから言っただろ。人の事を雑魚呼ばわりする前に、自分の方が弱いって思わねぇのかって」


 俺はファヤダーンへ歩を進める。ヴェルトヴァイパーの刀身が虹に染まっていく。


「貴方は! どこまで私を侮辱して――! そのスキルは、私の、私たちマスターピースの!!」


 そう叫び、奴は逃げようと風を両足に纏うが、それよりも早く。


「【火龍の古炎は、燦かに焼き尽くす赫怒の咆哮、十重の爆炎。竈に激する焔を見よ! 赤色吐息エリュトロン】!!」


 トリシャから放たれた巨大な火炎の奔流がその足を打ち抜き、砕く。


「う、ゴァアアア!?」


 巨体を維持する支えがなくなったことにより、派手に転倒してしまう巨人。


「いい勉強になったじゃねぇか。来世では、仲良く迷宮の中で侵略ごっこしてな」


 俺は地面を踏み抜き、飛び上がる。


「み、認めない!! 私は、最強の生命体! それが、たかが人間のガキ共に!! こんな、こんな、バカなァああああああ!?」


 絶望に染まった奴の顔目掛け、一閃。


「【磊淼焱飍斬エレメントキャリバー】」

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